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『戦力1馬力のおっさん管理人、魔境の村で静かに暮らしたい〜ぬるい茶と三文判で神や竜王を手懐けていたら世界の黒幕に〜』   作者: 月神世一


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EP 8

超音速魔導バキュームカー部隊突入! 悪臭都市の完全浄化と肥料化大作戦

 上空数百メートル、白大理石で築かれた優美な神殿バルコニー。

 純白の十二単を着崩し、逆立つ黒髪を振り乱した月の女神カグヤが、手にした金色の神杖を振りかざしていた。

 展開された神聖魔法陣は直径五十メートルを超え、バチバチと大気を焦がす黄金の神罰雷光が、地上の中央広場へ照準を合わせている。

『おのれ下賤な作業着どもめ! わらわの美しき中世風乙女都市をドブ板長屋に変えるなど万死に値するわ! 全天界のリスナーに見せつけてやる! 神罰光条砲、発射ぁぁぁッ!!』

 カグヤのヒステリックな絶叫とともに、天を覆い尽くすほどの極太の光の柱が、轟音を立てて地上へと降り注いだ。

 広場の物陰で見ていたムーンキャピタルの市民たちが「ひ、ヒィィッ! 天罰だぁぁッ!」と頭を抱えて逃げ惑う。

 だが――俺は食べ終えた豚汁の空椀を木箱の上にコトッと置くと、作業着のポケットから天界指定の強精神性胃腸薬『ストマック・オメガ錠』を取り出し、二粒をポリポリと噛み砕いた。

 そして、手元の無線魔導機に向かって、淡々と告げた。

「ニャングルさん、予定通り『第3ゲート』から全車一斉に突入させろ。……吸い残しは現場監督として認めんぞ」

 ズズズズズズズズズッッッッ!!!!

 地平線を揺るがす、凄まじい大排気量エンジンの爆音。

 カグヤの神罰光条が地上へ着弾するコンマ一秒前――ムーンキャピタルの大通りを突き破るようにして雪崩れ込んできたのは、ポポロ村とドンガン地下帝国の悪魔合体が生み出した、前代未聞の超重機集団だった。

『街の衛生と未来を吸い尽くす! ポポロ村営衛生局・第一バキューム戦隊、到着やでぇぇぇッ!!』

 先頭を走るのは、三毛猫耳のCFOニャングルが仁王立ちする、純金とミスリル装甲で覆われた巨大魔導車両。

 その後ろに連なるのは、なんと総勢百台の『超音速魔導バキュームカー(ドンガン重工・耐酸特装型)』だった。

 分厚い鉛板でシールドされた特大のタンクローリーに、ミスリル削り出しの極太吸引ホース。

 車載された大出力バキュームコンプレッサーが「キィィィィィン!」とジェット機のような超高周波の吸引音を響かせている。

「全車、超音速吸引ノズル、上空へ向けェェェッッ!!」

 ニャングルの号令一発。

 百台のバキュームカーが一斉に急制動をかけ、車体後部に据え付けられた大口径サクションノズルを天へと向けた。

 直後――ドンガン製の『反重力マナ吸引ポンプ』が最大出力で起動する。

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!

 大気が激しく逆流した。

 地上へと降り注いできたカグヤの神罰光条――数万馬力相当の高密度神聖魔力エネルギーが、あろうことか百台のバキュームノズルに捉えられ、まるで排水口に吸い込まれる風呂の水のように、シュルシュルと螺旋を描いてタンクローリーの中へと強引に吸引されていったのだ。

『ふぇ……!? わ、わらわの神罰ビームが……ホースに吸われてるぅぅぅ!?』

 上空でカグヤが目をひん剥いて素っ頓狂な悲鳴を上げる。

 車上のニャングルが、金算盤をパチパチと火花散る速度で弾きながら下品に高笑いした。

「ガハハハハ! 毎度ありぃ! 神聖魔力エネルギー満タンでタンクの予熱完了や! この熱源を使って、街中の汚水を一気に沸騰・乾燥させて有機肥料に変えたるわ! 全車、吸引ホースを側溝へ突っ込めぇぇぇッ!!」

 ゴォォォォォッ!と百本の極太ホースが、広場や路地の側溝という側溝へ一斉に投下された。

 そこからは、まさに「公衆衛生の暴力」だった。

 ズチュウウウウウゥゥゥッ! ズバババババッッッ!!

 長年、逆勾配の下水道によって滞留し、腐敗発酵を極めていた茶色い泥水、ヘドロ、そして市民が撒き散らした安っぽい薔薇の香水が、恐るべきバキューム圧によって一滴残らず吸い上げられていく。

 溜まりに溜まったドブの汚泥が、配管の奥底からベリベリと剥がれるように消滅していく。

 さらに、タンク内部では、先ほど吸い込んだカグヤの神罰熱エネルギーと、ネギオから提供された好気性分解バクテリア『ネギ・バチルス菌』が即座に反応。

 汚水はタンクの中で瞬時に高温殺菌・発酵乾燥され、車体後部の排出トレイから、真っ黒でサラサラとした、香ばしい土の香りを放つ「超高級有機バイオ肥料『月光ブレンド』」の袋詰まりが、ポンポンとリズミカルに吐き出されていった。

「す、すごい……! 汚水が一瞬で高級肥料に生まれ変わっていく……!」

「ドブが……長年詰まりっぱなしだった側溝が、底の石畳まで丸見えになってるぞォォッ!」

 市民たちから、どよめきと歓声が沸き起こる。

 だが、現場監督としての俺の仕事は、吸引だけで終わりではない。

 汚水を抜いた後の「原状回復と近代インフラの定着」こそが、真のビルメンの腕の見せ所だ。

「スアイ棟梁! イグニス! 本管の最終接続に入るぞ!」

「おう、任せろ!」

 ツナギ姿のスアイが、氷魔工学の冷気で掘削溝の側面を固める。

 イグニスが火炎ブレスでコンクリート管の継ぎ目を加熱融着し、ドワーフたちが時速八十キロでボルトを締め上げていく。

 俺は作業着の胸ポケットから、愛用のワンタッチ認印(インク内蔵式三文判)を抜き放つと、中央バイパス下水本管のマンホール蓋のど真ん中へ、力強く押し込んだ。

 ポンッ。

――ユニークスキル『最上位稟議決裁(ハンコ・アプルーバル)』執行。

――対象建造物:ムーンキャピタル全域・近代下水道インフラ幹線。

――基本法OS『LEX-LUCIANA』へ直結登記。

――【法定耐用年数:永久保証/漏水・悪臭・逆流率:完全ゼロ%】を確定します。

 キィィィィィン……ッッッ!!!!

 白大理石の街路全体が、目も眩むような純白の幾何学光を帯びた。

 地下に埋設されたドンガン製コンクリート管が、まるで街の毛細血管のようにガチリと噛み合い、完璧な落差勾配を描いて機能し始める。

 側溝にわずかに残っていた泥水が、音もなくスルスルと地下本管へ吸い込まれ、二度と逆流することなく外郭浄化プラントへと流れていく。

 澄み切った秋風が、白大理石の街並みをサァッと吹き抜けた。

 鼻を突くあの強烈なドブの腐敗臭も、吐き気を催すような過剰な薔薇の香水も、街のどこにも残っていなかった。

 そこにあるのは、高原都市本来の、どこまでも清涼で甘やかな澄んだ空気だけだった。

「………………あ」

 広場にいた市民の一人が、恐る恐る鼻から息を吸い込んだ。

 続いて、隣の老人も、子どもも、母親も、大きく胸いっぱいに空気を吸い込んだ。

「く、臭くない……! ドブの臭いが、完全に消えてる……!」

「香水で誤魔化さなくても……息ができる! 深呼吸ができるぞォォッ!!」

「うおおおおおおおおっ!! 空気が美味い! 何年ぶりだ、こんなに綺麗な空気を吸ったのはぁぁぁッ!!」

 地鳴りのような大歓声が、ムーンキャピタル全域に木霊した。

 市民たちが手を取り合い、涙を流して抱き合っている。

 手にした香水のバケツを投げ捨て、ピカピカに磨き上げられた白大理石の石畳に頬ずりをする者までいた。

 見た目だけを取り繕って中身が腐り果てていた「エセ中世テンプレ都市」が、昭和の総務とドンガン重工の泥臭い実務によって、大陸随一の「超近代ハイテク衛生都市」へと生まれ変わった瞬間だった。

 そこへ、上空からフラフラと落ちてきたのは、完全に面目を失った月の女神カグヤだった。

 神殿バルコニーから降り立ち、呆然と清潔になった広場を見つめている。

「な……なによ、これ……。わらわの美しい街に……マンホールが……下水管が埋まってるなんて……そんなの、中世ファンタジーの景観ぶち壊しじゃないのよぉ……ッ!」

 ワナワナと唇を震わせるカグヤ。

 その背後から、氷血公爵ヴァルターが、額に湿布を貼ったまま毅然とした足取りで歩み出た。

 ヴァルターは俺からきっかり一・五メートルのパーソナルスペースを保ったまま立ち止まり、カグヤに向かって深々と頭を下げた。

「カグヤ様、もうおやめください。市民たちが望んでいたのは、見た目だけの絵画のような不潔な都ではなく、普通に息をして健康に暮らせるこの清潔な空気だったのです。……領主として、佐伯殿の施工を全面的に支持いたします」

「ゔっ……! ヴァルター、貴方まで……! このわらわを裏切るというの!?」

「裏切りじゃない、ただの是正勧告ですよ」

 俺はずかずかとカグヤの前へ歩み寄ると、作業着のポケットから『ムーンキャピタル緊急下水道インフラ改修工事・完了検収書』と請求書をスッと突きつけた。

「カグヤ様、工事は無事に定時内で完了しました。……さて、お会計の話に入りましょうか」

「お、お会計……!? わ、わらわが払うわけないでしょ! 誰が頼んだのよこんな工事!」

「ほほう、そう仰ると思いましたわ」

 ニャングルがニチャァと三毛猫の口元を歪め、分厚い羊皮紙の束をペラリと捲った。

「カグヤ様ぁ、うちの銀行の監査部を舐めたらアカンで。……ここに、貴女様が信徒たちから『街の美化基金』として奉納された五大宝物――『蓬莱の玉の枝』『火鼠の皮衣』『仏の御石の鉢』を、受領からわずか〇・五秒でゴルド商会オロチ会長の闇質屋へ転売し、私的な高級ドレスや毛皮の購入費に充てていた『横領換金伝票』の裏帳簿がございますんやけど……これ、全天界のGodTube公式チャンネルに晒し上げてもよろしいですかなぁ?♡」

「ヒエッッッッッ!?!?!?」

 カグヤの顔面から、一瞬で血の気が引いて真っ白になった。

 十二単の裾を踏みつけて後退り、ガタガタと膝を震わせる。

「な、なんでそれを……!? 裏垢でしかやり取りしてないはずなのに……ッ!」

「天界のルチアナ様が『あのパパ活女の弱点を徹底的に暴いてやれ』って、通信ログを全件スクショして送ってくれましてな。……さあ、工事代金および公衆衛生改善特別負担金、金貨千枚! 今すぐ耳を揃えて決済するか、全天界で炎上して神格剥奪されるか……どっちがええですか?」

 ニャングルの悪魔的な笑顔に、カグヤは白目を剥き、その場にペタリとへたり込んだ。

「は、払いますぅぅぅ……! 払うから、動画のアップロードだけはやめてぇぇぇッ!!」

 女神が地面に額を擦り付けて号泣し、検収書の受領印欄に涙と鼻水まみれの神力サインを叩き込んだ。

 完全決着だった。

「ふぅ……一件落着だな」

 俺は青箱のハード煙草に火をつけ、紫煙を青空へと燻らせた。

 時計を見れば、午後四時半。

 突貫工事だったが、見事に定時内での現場撤収が間に合いそうだ。

 牽引車の荷台に腰を下ろし、水筒の「ぬるい陽薬茶」を喉に流し込む。

 横では、スアイが作業ツナギの袖をまくり、満足そうに鼻を鳴らしていた。

「いい仕事だったな、健太。ドブをさらい、インフラを通し、腐った権力者からキッチリ代金を回収する……これぞ真の現場監督だ」

「まぁな。だが、現場仕事の後の楽しみは、ここからだぞ」

「ほう、何かあるのか?」

「決まってるだろ。ポポロ村へ戻って、コーポの大浴場サウナと、冷たいイモッカのソーダ割りだ。……今夜は肉椎茸の網焼きに、あのバキュームカー部隊の活躍を祝って乾杯だな」

「くくっ、違いない。付き合おう」

 夕暮れに染まる街道を、百台のバキュームカー部隊が意気揚々とポポロ村へと引き返していく。

 荷台に満載された高級バイオ肥料は、明日の朝にはポポロ村の畑に撒かれ、さらなる絶品野菜を育てることになるだろう。

 だが――俺の作業着の胸ポケットの中で、キャルルから託された『人参柄刺繍ハンカチ』が、俺の帰還を待ちわびるように、トクン……トクン……と熱烈な微振動を刻み始めているのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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