↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四兄妹で異世界に来ました ~傷だらけの家族に、新しい家族ができるまで~  作者: 桜塚あお華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/13

第06話 私は、傍にいます【エレオノーラ視点】

 その知らせが届いたのは、夕暮れ前のことでした。


「奥様!」


 珍しく慌てた様子のセバスが部屋へ入ってきたとき、わたくしは窓辺で刺繍をしておりました。

 今日はアルベルトが騎士団を率いて森へ向かっています。

 異常な魔力反応が観測されたため、調査に向かったのです。

 危険な魔物が出たとしてもあの人なら問題ないでしょう、そう思いながら帰りを待っていたのですが。


「旦那様から先触れが参りました」

「あら。もうお帰りですか?」

「それが……」


 セバスが僅かに言葉を詰まらせます。


「子どもを四人、保護したとのことです」

「……子ども?」


 思わず聞き返しました。


「はい……一番上と思われる少女は重傷。ロイド様が応急処置を施しているものの、予断を許さない状態とのことです」


 手にしていた刺繍の針を置きました。


「年齢は?」

「詳しくは。ただ、全員幼い子どもだと」

「分かりました。すぐに治療室を使えるようにしてください」

「すでに準備を始めております」

「では、お湯と清潔な布を多めに。それから四人分のお部屋と食事も」

「旦那様からも同じ指示がございました」

「まあ」


 思わず小さく笑ってしまいました。

 あの人らしい、ですが今は笑っている場合ではありません。


「ルーカスとノエルは?」

「訓練場にいらっしゃいます」

「呼んでください。手伝ってもらいましょう」

「承知いたしました」


 ほどなくして、二人の息子がやって来ました。


「母上、父上が子どもを拾ったというのは本当ですか?」


 開口一番、ノエルが尋ねます。


「拾ったわけではありません。保護したそうです」

「四人も?」

「ええ」


 隣にいるルーカスも僅かに眉を寄せました。


「怪我人がいると聞きました」

「一番上のお姉様が重傷だそうです」


 それを聞いて、二人の表情が引き締まります。


「ルーカスはセバスと一緒に治療室の準備を確認してください。ノエルはリリアと子どもたちのお部屋を」

「分かりました」

「任せてください」


 息子二人がすぐに動き出します。

 本当によい息子たちに育ってよかったと思いました。


 それからしばらくして、正門の方から騒がしい足音が響きました。

 アルベルトたちが帰ってきたのです。

 玄関へ向かったわたくしが最初に目にしたのは、担架に横たわる小さな少女でした。

 そして、その背後にぴったりと寄り添う三人の幼い子どもたち。


 ――小さい。


 聞いていた以上でした。

 しかも三人とも、酷く怯えている。

 ですから、わたくしは不用意に近づかないことに決めました。

 アルベルトから聞いていた名前を呼び、自分から名乗り、少し離れたところから静かに話しかける。

 すると、ヨウタという少年が尋ねました。


「……ねえちゃんと、いっしょにいていい?」

「もちろんですよ」


 そう答えた時、ほんの少しだけ、少年の強張った表情が緩みました。

 けれど、どうやら安心するには、まだ早かったのです。


  ▽


「——奥様」


 治療室へ入ると、ロイドが振り返りました。


「ヒヨリさんの処置を始めます」

「ええ、お願いします」


 ベッドには、先ほどの少女――ヒヨリが横たわっており、三人の弟妹は隣の部屋で休ませていました。

 とはいえ完全に離す事はせず、部屋の扉は開けたままにしてあります。

 少しでも姉の姿が見えなくなると、特にヨウタが酷く不安がったためでした。


「……この子、おいくつなのですか?」


 私は尋ねました。

 だって、あまりにも小さい。

 ロイドは処置の手を止めずに答えます。


「正確にはまだ分かりません。ただ……十歳程度かと」

「十歳……」


 思わず息を呑みました。

 十歳の子ども、それが、どうしてこんな状態になるまで……。


「……服を外します」


 血に濡れた衣服が、慎重に取り除かれていきます。

 そして、言葉を失いました。


「……っ」


 細い——まず目についたのは、その身体の異常なまでの細さでした。

 腕も足も、年頃の子どもとは思えないほど細く折れそうです。


「栄養状態も良くありません……おそらく、十分な食事を長期間取れていなかったのでしょう」

「……そう」


 ですが、もっと目を背けたくなったのは、その少女の身体に残された傷でした。

 一つや二つではありません。

 新しい傷や治りかけのものもあれば、薄く変色して残った古い傷痕もありました。

 いくつもの痛ましい痕が、小さな身体に何重にも重なっていたのです。


「これは……今日、森で?」

「いいえ」


 ロイドはゆっくりと首を振りました。


「今日負った傷ではないものが大半です」

「では……」


 それ以上、言葉を紡ぐことができませんでした。

 胸の奥が、冷たい水に浸されたように冷えていく。

 こんな小さな子が、一体どれだけの絶望を耐え抜いてきたというのでしょうか?


「エレオノーラ」


 背後から低い声がしました。

 振り返ると、アルベルトが立っていました。


「アルベルト……」

「容体は?」

「ロイドが診てくださっています」


 アルベルトはベッドへ目を向けました。

 その顔が、みるみるうちに険しく歪みます。


「……アルベルト、この子たちを見つけた時、どんな様子だったのですか?」


 尋ねると、アルベルトはしばらく黙っていました。

 やがて、森で起きた出来事を淡々と語り出してくれました。


 巨大な魔物に襲われており、ヒヨリが三人の弟妹を背後へ必死に隠していた事。

 折れた木の枝一本を頼りに、恐ろしい魔物へ立ち向かおうとしていたらしい。

 最後に、助けに入ったアルベルトたちに対しても、ヒヨリは弟妹を守るように身を挺して立ちはだかったとの事。


「最後まで、自分の怪我のことはほとんど口にしなかった」

「……」

「血を吐いて倒れる寸前まで『大丈夫』と言っていた」

「大丈夫……」

「それどころか、意識を失う直前まで弟たちを助けてくれと言っていた」


 わたくしは何も言うことができませんでした。

 視線を再びベッドの上の少女へ戻します。

 隣の部屋で眠る三人には、ほとんど怪我がありません、それは偶然なのでしょうか。

 いいえ、きっと、違う。


「……この子は」


 自然と、その言葉が零れました。


「ずっと、弟妹の盾になっていたのですね」

「——ああ」


 アルベルトが苦渋に満ちた声で答えます。


「俺もそう思う」


 とても、胸が痛みました。

 十歳程度の少女が、三人の弟妹を守るために、自分だけが傷つきながら身代わりになり続けてきた。

 それを当然の義務だと思い込むほど、長い間。


「……どうして」


 思わず、ヒヨリの冷たそうな頬へ手を伸ばしかけました。

 けれど、途中でその指先を止めます。

 この子は、まだ見知らぬ大人を深く恐れている。

 目を覚ました時に見ず知らずの女に勝手に触れられていたら、どれほど怖い思いをするでしょうか?

 だから、そっと手を引きました。


「エレオノーラ?」

「色々と聞くのは、この子が目を覚まして、落ち着いてからにします」

「……そうか」


 アルベルトは何も言わず、ただ小さく頷きました。


 今、この子に必要なのは治療です。

 そして、その治療が終わったあとに必要なのは――まずは温かな食事と清潔な衣服、温かいベッド

 そして何より、怖い事などもう何も起こらない、と知るための長い時間だと感じました。

 けれど、それだけでは足りないでしょう。

 それでも、一つずつ、丁寧に積み重ねていくしかない。

 私はベッドの傍らに椅子を引き寄せ、静かに腰掛けました。


「目を覚ますまで、ここにいます」

「長くなるかもしれんぞ?」

「構いません」


 静かに眠り続ける少女を見つめます。


「目を覚ました時に知らない場所に一人きりでは怖いでしょう?」


 ただし、この子が目を覚ましても、すぐには触れないようにしないといけないですね。

 近づいていいかと、優しく尋ねてみましょう。

 小さな手を握ってもいいかと、おそるおそる伺いましょう、嫌なら、嫌だと泣いて叫んでいいのだと教えてあげましょう。

 あなたはもう、弟や妹を守るために、たった一人で傷つかなくてもいいのだと。

 いつか、この子自身がその温もりを心から信じられるようになるまで、何度だって言葉にして伝えればいい。

 私は静かに祈るようにして、ヒヨリが目を覚ますのを待ち続ける事にしました。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!

ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。