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四兄妹で異世界に来ました ~傷だらけの家族に、新しい家族ができるまで~  作者: 桜塚あお華


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第04話 この子たちを助ける【アルベルト視点】

「お前たちは、必ず俺が助ける」


 そう告げた直後、少女の身体からふつりと力が抜けた。


「ねえちゃんっ!」


 幼い少年の悲鳴が上がる。

 地面に倒れそうになっていた彼女の体を支えてみたのだが、支えて気づいた。

 

「――っ」


 軽い、あまりにも軽すぎる。

 十歳程度なのだろうか、だがそれも考慮しても異常なまでの軽さだった。

 しかも身体が酷く熱い。

 呼吸も浅く、微かだった。


「ねえちゃん!」

「ヒヨリねえちゃん!」

「ねえねぇ!」


 三人の子どもたちが一斉に駆け寄ってくる。


 ――ヒヨリ。


 これが、この少女の名前なのだろう。

 俺はすぐさま声を出す。


「ロイド! 来い、早く!!」

「はいっ!」


 治癒師のロイドが慌てて駆けてくる。

 だが、再度大きな声で止められる。


「来るな!」


 一人の少年が、俺たちの前へ飛び出した。

 まだ五つか六つほどだろう、その小さな身体で姉を守るように両腕を大きく広げる。


「ねえちゃんに、さわるな!」

「よ、ヨウタ……!」


 もう一人の少年が、恐怖に震えながら服を掴んでいる。

 一番幼い少女は、俺の腕の中にいるヒヨリへ必死に小さな手を伸ばしていた。

「ねえね……」


 ――やはり。

 この子どもたちは、大人を警戒している。

 いや、警戒などという生易しいものではない――恐れているんだ。

 先ほどのヒヨリもそうだった。魔物を倒した俺を見ても安堵の色すら浮かべず、弟妹を必死に背後へ隠した。


「――分かった」


 威圧しないよう、できるだけ声を落とす。


「勝手なことはしない。だが、その姉を助けたい」

「……たすける?」

「ああ」

「ねえちゃん、しなない……?」


 その言葉を聞いて、すぐには答えられなかった。

 腕の中のヒヨリは顔色が悪く、唇からも血の気が失せている。先ほどは口元から血まで吐いていたのだ。


「ああ、死なせない」


 俺は静かに言い切った。

 約束したんだ、必ず助けると。

 

「その為にこの男に診せたい。こいつなら怪我を治すことができる」

「……お医者さん?」

「似たようなものだ」


 少年はロイドと俺を交互に見上げ、怯えたように揺れる。


「……いたいこと、しない?」


 その幼い問いに、胸の奥が冷たくざらついた。

 なぜ治療すると聞いて、最初にそんな心配をする必要がある?


「必要のない事はしない」

「……」

「ヒヨリを助けるために、診せてほしい」


 しばらくの沈黙の後、少年は小さく、しかししっかりと頷いた。


「……ねえちゃん、たすけて」

「ああ」

「おねがい……します」


 俺はヒヨリを柔らかい地面へと静かに横たえた。

 そして、ロイドがすぐさま状態を確認する。

「っ……これは」


 熟練の治癒師の表情が、険しく変わった。

 服の上からでも分かるほどの大量の出血、脇腹だけではない。腕にも、足にも、無数の傷がある。


「申し訳ございません、服を少し切ります」


 ロイドは少年へ向き直り、慎重に声をかけた。


「ごめんなさい、お姉さんの傷を診るために服を切ってもいいかな?」

「……うん」

「ありがとう」


 血で肌に張りついた布を、ロイドは丁寧に切り開いていく。


「――っ」


 周囲の騎士たちから息を呑む音が漏れた。

 俺もまた、言葉を失った。

 そこから見えたのは傷、傷、傷。

 少女の細い身体には、あまりにも多くの傷跡があった。

 今回のものだけではない。

 生々しい紫色の痣や複数の傷跡。古いやつもある。

 明らかに、負った時期がバラバラだった。


「……魔物の傷ではありませんね」


 ディートリヒが低く、押し殺した声で呟く。


「ああ」


 俺にも分かる――この森の魔物は、ヒヨリに触れてすらいないはずだ。ならば、これはいつ、誰の手によってつけられたものだ。


「……団長」


 ロイドの緊迫した声で現実に引き戻される。


「出血が多いです……それに高熱と極度の衰弱が見られます。かなり危険な状態です」

「治せるか?」

「応急処置なら。ただ、この消耗しきった身体で無理に魔力を使えば、命に関わります」

「なら、俺の屋敷へ運ぶ」


 迷う理由など一瞬たりともなかった。

 俺はヒヨリを死なせるつもりはない。

 

「馬車を回せ、可能な限り揺らさないで運ぶんだ!」

「はっ!」


 指示を受けた騎士が、迅速に駆け出していく。

 俺は改めて、残された三人の子どもたちに目を向けた。

 そこには二人の少年と、一人の幼い少女。見慣れない服は汚れているが、三人には目立った外傷はない。

 姉だけが、これほどまでにボロボロだった。


「悪いが、名前を聞いてもいいか?」


 警戒からか、三人の身体が僅かに強張る。

 俺は距離を詰めず、自分から名を告げた。


「俺はアルベルトだ」

「……ぼく、ヨウタ」


 気の強そうな少年が、震えながらも答えてくれる。


「こっちがソウタ。ちっちゃいのがミウ」

「そうか。一番上がヒヨリだな?」

「うん」

「家名は?」

「……かめい?わからないけど……あいざわ」

「アイザワか」

「アイザワ、ヨウタ」

「どこの村から来た?」

「……むらじゃないよ」

「では町か?」

「……わかんない」


 ヨウタの顔が、ますます曇っていく。

 

「おうちにいたのに……ひかったら、ここにいたの」

「光った?」

「ゆかが、ぴかーってしたの」


 ヨウタが言った後、今度はソウタが小さな声で付け足す。


「ま、まるいのがでてきて、もじみたいなの、いっぱいいあった」


 それを聞いて、俺はディートリヒと鋭い視線を交わした。

 この森に突如発生した、観測史上例のない異常な魔力反応、地面に浮かび上がった、文字の描かれた光る円。

 その中心部で見つかった、聞いたことのない名と見慣れない衣服を纏った子どもたち。


「……召喚陣ですかね?」


 ディートリヒが低い声で囁く。


「可能性はある」


 だとすれば、この子どもたちは――この世界の人間ではないのかもしれない。

 そんな彼らを見ていた時だった。

「団長!ヒヨリさんの容体が……!」


 急いで振り返ると、ヒヨリの呼吸がさらに浅く、細くなっていた。


「ねえちゃん!」

「ヒヨリねえちゃん!」

「ねえねぇ!」


 耐えきれず、三人が姉の元へと駆け寄る。

 それでもヒヨリの瞼は開かない。


「止血と魔力の安定を図ります!」


 そう言った後ロイドの両手から淡い光が溢れ、傷だらけの小さな身体を優しく包み込んだ。

 泣きじゃくりながら姉の名前を呼び続ける三人を見て、俺は、ようやくすべてを理解した。

 なぜヒヨリが、あんなボロボロの状態で俺たちへ木の枝を向けたのか、あれほど傷だらけなのに、弟妹を後ろへ隠して盾になったのか?

 そして、なぜ自分の痛みや空腹を隠し、三人の安全ばかりを気にかけていたのか?


 ――ヒヨリこそが、唯一の盾だったのだ。

 

 まだ十二歳程度にしか見えない少女が、三人の弟妹を守るためにたった一人で世界と戦っていた。

 そしておそらく、それは今日始まったことなどではない。

 俺は思わず、ガリリと音がするほど拳を強く握り締めた。


「……誰が」


 こんな小さな子どもに、これほど残酷な傷を負わせたのは?


「団長、馬車が着きました!」

「……ああ」


 怒りを飲み込み、立ち上がる。

 今は感傷に浸っている暇はない。


「全員、屋敷へ連れて帰るぞ」

「……ぼくたちも?」

「当然だ」

「ねえちゃんと、いっしょ?」

「ああ。四人一緒だ」

「……ほんとう?」

「約束する」


 今、この子どもたちを引き離すことなど絶対に許されない。

 静かに息を吐きながら、俺はディートリヒを見た。

 

「ディートリヒ」

「はっ」

「屋敷へ先触れを出してくれ、悪いがエレオノーラにも伝えてほしい」

「なんと指示しますか?」


 治癒の光に薄っすらと包まれたヒヨリを見る。

 その冷たい手を握りしめ、泣きながら名前を呼び続ける小さな三人。


「――子どもを四人保護した。一番上の娘は重傷だ……すぐに専門の治療ができるよう準備させろ」

「承知しました」

「それから、四人分の部屋と食事も用意してくれと言ってくれ」

「承知しました、すぐに!


 俺はもう一度、子どもたちを見据えた。

 彼女たちは何者なのか。どこから来たのか。なぜこの森へ現れたのか、わからないことがたくさんあるが、今はそんな事どうでも良い。

 俺は絶対にこの子たちを守ると誓った。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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