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灯台の魔女  作者: 笹木悠
黒猫と魔女の家
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第七話 消えた一番星

クローゼットに向かい、改めてブローチが仕舞われていた引き出しを開けてみる。やはりそこは色別とは言いにくい並びで中身が並んでいた。


「え、やだ、この並びは僕も違和感。」

「そうなんだ。いつも通りでは無いよね。」


金太郎を抱え、一緒に引き出しを覗き込む。


「いつも左奥は、ガラスパールの鈴蘭だったよね。で、右手前が黒曜石のカラスだった筈。」

「よく覚えているね。」

「だって、この部屋は主の大事なものばかりでしょう?だからちゃんと覚えておこうって思ってて。」


健気な使い魔の言葉に思わず頭を撫でてしまう。しかし共に今一度引き出しの中をよく観察してみるが、そこにはやはり時計らしい物は見当たらない。


「それじゃあユエかジョージが戻す時に間違えた?」

「ジョージとは思えないから、やるならユエじゃ無い?でも一応、他のところも探してみたいな。」


主人の腕から飛び降りると、着地と共に人の形に変わる。


「全然関係のないところに、僕が無意識に置いてそのまんま、なんてこともあるかも知れないし。」

「そうだね、じゃあ一緒に探してくれるかい?」

「勿論だよ!すぐ見つけて、今夜は良い夢を見たいな。」


------------------------


「この部屋の中はもう、これ以上探せる場所が無いね……」

「本当にどこにいっちゃったんだろう……」


あれから一つ一つの引き出しを改めて確認していった。ハンガーラックの下や、カバンに紛れ込んではいないかとそのポケットの中まで、実にクローゼットの隅々まで見て回ったのだが期待した成果は得られなかった。


「主のお気に入りなのに……無くしちゃった……」


がっくりと肩を落として座り込む。その姿は持ち主よりもよほど落ち込んで見える。


「……形ある物はいずれ無くなるからね。そんなに落ち込むことはないよ。」

「でも、あれは僕も好きだったんだ!だから余計に気になるよ……」

「金太郎……もしかしたら洗濯物に混ざってたり、リビングに置いてるかも知れないよ。」

「うん。そうなんだけど……」


「姿が見えないと思えばこちらでしたか。」


行き詰まった空気を壊すように、部屋の入り口から声がかかる。薄暗い廊下からジョージが顔を覗かせた。


「2人ともなにしてるのー?」


続けてユエもやってくる。今は狼の姿だ。部屋の中に座り込む金太郎を見て、自身も部屋の中に入る。


「金太郎、どうしたのー?お腹痛い?」


普段とは違う様子に気づいたのか、顔を覗き込んで、鼻を寄せる。金太郎は煩わしそうに顔を背けた。


「ひとつブローチが見つからなくてね。さっきから探しているんだけど、どこにも見当たらなくて。」

「ここに無いなら、洗濯にでも紛れましたか?」

「やっぱり、この間僕がどこかにやっちゃったのかなぁ……」


うぅんと皆で唸りながら押し黙ってしまう。思いつく限りの場所は探した以上、全く違う場所を探すしか無いが、あまりにも手掛かりがなく途方に暮れてしまう。

そんな中、きょとんとした顔でユエが言った。


「おれ、匂い辿ってみる?」


その声に全員の視線が集まる。


「その引き出しのものと、同じ匂いを探せば良いんですよね?」

「あぁ、頼めるかい?」

「ハイ!……おれがきっと見つけるから大丈夫だよ、金太郎。」

「ユエ!お前ってやつはっ!」


頼もしい言葉に思わず勢い良く狼の首に飛びついて、そのもふもふとした毛を撫で回す。「やめてよー」なんて言いながらも戯れている様子を見て、先ほどの落ち込みを思い出し一息つく。


「仲良く戯れているのはいつ見ても微笑ましいものですね……そういえば、主、私のエプロン知りませんか?」

「ん?さっき乾燥機から出した中には無かった気がするよ?」

「そうですか。どこに置きましたかねぇ……」


------------------------


「じゃあ、匂いを追いかけてみるね〜」

「ユエ、お願いね。」


同じ引き出しに入っていたガラス製の蝶のブローチ。それに鼻を寄せてふんふんと匂いを嗅ぎ、そのまま床を辿っていく。クローゼットを出て廊下へ。そして廊下から玄関へ。玄関のたたきを一回りして、そのまま外へ出ようとする。


「外にあるってこと?!」


金太郎はユエに続いてドアから飛び出すと、猫に戻る。そしてそのまま不安そうに横について歩き始めた。その様子に残り2人も続いて家を出る。共用部分の廊下を右へ左へと行ったり来たりし、階段でエントランスまで降りていった。


「突然、四階からの階段は、この歳には、なかなか、くるものがあるよ……」

「私は、飛んだ方が早かったかも知れませんねぇ。」


下まで降りるか確認してからにすれば良かった、と息も絶え絶えになりついて行ったが、人の身で一緒にうろうろするのには、もう少し体力が必要そうだ。

そのままエントランスホールを抜け、中庭をあちこち寄り道しながら道路へと出る。一生懸命に地面を辿っていく狼と、その横を歩く黒猫。日が沈み切った今の時間は、人通りがまばらで2匹を見つけるような人はいなさそうだった。


皆が無言で歩いていく。すると、それまで匂いを辿り、ずっと地面を見ていたユエが突然顔を上げた。


「あれ?あれ??」


そこは神社の入り口。家からほど近い、学力の神が祀られていることで有名な場所だった。


「もしかして、ここで途絶えた?」


おろおろとその場で回りながら、辺りを見回す狼に声をかける。


「なんか、この辺から急によくわかんなくなっちゃって…ここまでは確かに匂いがしたんです!でも、この先に繋がってなくて、なんで?」

「そんな……もうわかんないの?見つけられない??」


今度は今にも泣きそうな黒猫の声がする。狼狽える2匹と、鳥居を見比べる。


「この場所は、我々には少し厳しいかも知れません……何せ我々は魔の眷属になりますから、神々の領域で普段通りとは行きませんので。」

「もうここまでってこと?!」


ジョージの声にさらに金太郎から悲壮感を増した声が上がる。


「ユエ、匂いがないわけじゃ無いんだね?」

「そう!匂いはあるんだけど、さっきまでと違うし、途切れ途切れ?って感じなんですっ!」

「そう。では、それを頼りに進んでみようか。」


しゃがみ込んでふわふわの毛をひと撫で。立ち上がると鳥居の向こうを指した。


「主!我らは招かれざる者なのはご存知でしょう。」

「まぁ普段ならそうなんだけどさ、この国の神々はなかなかに寛容なんだ。……きっと探し物でお邪魔するくらいは、許してくれるさ。」


ささ、行くよ、と主が先に足を踏み入れる。そしてその場で二礼二拍手一礼。


「ちゃんと挨拶さえすれば簡単に追い返したりはしないよ。やってごらん。」


振り返った主人に倣い、全員同じ動作をする。

そして敷地に足を踏み入れた。


「道の真ん中は神々の歩く場所だから、私たちは端を行こう。」

「よし!絶対見つけるぞー!」


------------------------


それから四半刻。4人は境内の大きな社ではなく、神社の敷地の隅にある石造りの小さな祠の前にいた。木製の看板にはここに祀られているのものについて説明書きがあるが、劣化して文字がところどころ剥がれてしまっている。祠の周りの雑草が、その場所には永く人が訪れていないだろうことを感じさせた。


「ここ!ここですっ!ここに繋がってます!」

「へぇ、こんな場所があったなんて知らなかったなぁ。」

「これはこれは。どなたが祀られているんでしょうね。」


皆で草を掻き分け、祠に近づく。


「ちゃんと、返してって言わなきゃ。」


苔むした石の祠は、うっそうと茂る雑草や朽ちた看板のおかげで、祀られているのが本当に神なのか疑ってしまうほどだ。


「あなたの名を呼べず申し訳ない。我が家からお持ちになったものを、お返しいただきたく参った。願わくば、この手にお戻しいただけないだろうか。」


前に出た主人が申し出てみるが、弱く風が吹くだけでそこは何も言わない。金太郎が一歩踏み出し、祠に近づく。


「神様、僕の主の大事なものなんだ。お願いだから返してほしい。……頼むよ。」


しかしなんの返事も聞こえない。茂った雑草が風でざわざわと鳴くのが響くだけだ。


「あぁー!もうっ!!」

「え、金太郎?」


そこまでしおらしく、しょんぼりしていた金太郎が痺れを切らして叫び始めた。


「人の家のもの勝手に持っていくなんて!神様だって泥棒なんだからねっ!!すぐに返して!!!主の大事なものっ!!!」


祠に向かって威嚇するように毛を逆立てる。


「こらこら、神様に失礼ですよ。」


金太郎に同調し、今度はユエまで威嚇して吠え始めた。


「あるじのもの!はやく返してっ!」

「あぁこら!2人とも、少し待ちなさい!」


先ほどまで静寂が支配していた辺りを、狼と猫の声が響き渡る。ジョージの静止など、全く聞く様子はない。

その時だ。


「みんな、あれ!」


祠の下を雑草に紛れて、薄汚れた巾着のようなものが、のそのそと移動していくのが見えた。体よりかなり大きな、風呂敷のような何かを引きずっているようだ。

ゆるりとそれは首のようなところを回し、こちらを見た。




『あ、見つかっちゃったァ』




ソレと目が合った瞬間、突然周りが真っ白く明転した。


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