第三話 取材の依頼
「ねぇねぇ主、この手紙なぁに?」
その日の家事をこなし、昼まで少しの間微睡むつもりで揺り椅子に体を預けたところで、朝のパトロールから帰ってきた金太郎の声がかかる。彼はまるで中を透けて見えるか試すように、白い封筒をかざして見ていた。
「あー……忘れていたかった……」
「魔女協会って書いてる?」
「そうだよ。協会から私宛の、なんらかの依頼だろうね。」
「ふぅん。」
興味なし、とばかりにテーブルの上に手紙を戻すとぴょんと飛び、猫の姿になった。そしてそのままトコトコと揺り椅子まで歩いてくると、主人の膝の上に飛び乗った。
「依頼ってなんか面倒そうな感じなの?」
ゆったりと尻尾を振りながら、膝の上で丸くなる。その重みと暖かさが心地いい。微睡みながら、無意識に撫でていた。
「どうだろうねぇ。どうしてそう思ったんだい?」
「だって、主はいつもならあぁいうの届いてすぐに開けるでしょ?開けないってことは何か読みたくないのかなぁって。」
「……ふふ、そうか。」
どうも無意識にあの手紙からは距離を取っていたらしい。いずれ開けて読まなければいけないが、今のところはこの暖かさと、窓を抜ける風に身を任せていたかった。
の、だが。
「ハイ、主。寝ませんよ。起きますよ。金太郎も。」
キッチンにいたジョージから声がかかる。彼はいつものエプロン姿で、手を拭きながらリビングへとやってきた。
「えぇ〜、少しぐらい良いだろう?膝の上があったかくて、風が気持ち良いんだよ……」
「それはいけませんねぇ。」
主人の望みも虚しく、膝の上の金太郎を抱き上げ、ぽいと床に放る。華麗に着地するのを見ると、主人の目の前にずいっと白い封筒を差し出す。
「あ、私の湯たんぽが。」
「相手のあるものですから、先に手紙を開けてください。」
「気になるなら君が開ければ良いじゃないか。」
「宛名をよくご覧ください。宛先以外の者が開けると、電気が走ります。」
「えー気が進まないんだが……」
「開けてください。」
往生際悪く目を閉じてそれを見ないようにするものの、最終的には顔に押し付けられたそれを受け取るしか無かった。
「全く……君は時に主人に対して横暴なところがあるな。」
「何をおっしゃいますか。主を思えばこそ、ですよ。」
手紙を渡すと、片膝をついて何処からともなく、剣を模したペーパーナイフもまるで献上するように、恭しく差し出す。
「甘いもの案件の時も強いけどねー。」
「そこは愛するものの為なので。」
ジョージの足元に座った金太郎から揶揄する声が上がるが、全く気にした様子はない。
受け取った封筒とペーパーナイフを薄目で見ていたが、「ささ、どうぞ。」と更なる圧力をかけてくるので、仕方なく刃を入れた。
「うわっ!」
開封すると、封筒から白い鳥が飛び出し、窓を通り抜けて外へと飛び立っていく。
「何?今の?僕初めて見たんだけど!?」
「ご丁寧に開封通知付きでしたね。主が開封しないことを、先方も見越していたのかもしれませんねぇ。」
「魔女に常識や確実性を求めることは、間違ってると思うんだが。」
椅子の肘掛けに片方の肘を乗せ、脚を組む。眉間に皺を寄せながら、手紙を取り出した。そして開いた紙に目を通していくうちに、段々とその皺が無くなっていく。
「主?なんて書いてあったの?」
改めて膝の上に飛び乗った金太郎も、一緒になって手紙を覗き込んだ。
「親愛なる北の魔女ニュクス様へ。……取材協力のお願い?」
膝の上で金太郎が首を傾げる。同じようにジョージも膝をついたまま不思議そうな顔をした。
「魔女協会からそのような依頼とは……どんな内容なんです?」
「……私へ、というよりユエに取材したいらしいよ?」
「は?バカ犬に?」
「そう。今朝の新聞に載った、写真の件だって。」
協会からの依頼内容は、ユエについてだった。あまりにも自由で天真爛漫な姿が印象的だった為、どんな使い魔なのか、是非一度取材させて貰えないかという依頼だった。
「まぁ確かに……あの子は使い魔としては、珍しいタイプだからね。」
「主の家に泥だらけで帰ってくる使い魔とか、よそで聞いたことないもん!」
「あぁ、そういえば、似たような話なら最近聞いた気がします。」
「……千代か。雲雀の巣作りは地面だからね。草や土に塗れても平気なんだろうよ。」
「確かに……」
春の魔女の喫茶店で元気よく給餌している使い魔を思い出す。確かに雲雀は地上に巣作りするが、どちらかというと本人の性格的なところが多い気もする。
「それで、協会の依頼は受けられるのですか?」
「どうしようかね?まずは本人の意向を確認してから、と思っているよ。」
改めて手紙に目を通していると、玄関から噂されている使い魔の元気な声が聞こえた。
「ただいまぁっ!」
しかし何かべちゃっ、とかいう音が聞こえた途端に烏の使い魔が玄関に走っていく。
「ユエっ!またっ!!」
「あ、ごめぇん。つい楽しくなっちゃってぇ〜」
どうやらお昼ご飯の前に、まずは狼の丸洗いが必要なようだった。




