第一話 また朝がくる
(眠い……また寝たいのに、明るい……)
まだまだ寝たい体を、寂光カーテンの隙間から漏れた朝日が容赦なく起こしてくる。昨晩閉め方が甘かったかと後悔するも、すでに意識が覚醒してしまった。隙間から部屋を部分的に照らす光は強く、早い時間から太陽が昇っていたことを示している。
(起きるか。残念だけど。)
軽い掛け布団とタオルケットを捲り、体を出す。目は覚めたけれど、体としてはもう少し休みたいところだった。接触冷感素材のシーツはすっかりぬるくなっている。冷たいところを求めて寝返りを打つが、良いポイントが見つからない。
(いっそシャワーでも浴びるか。)
寝続けることを諦め、ベッドの上で大きく伸びをしてからのそのそと起き上がる。そのままベッド横の窓にかかる、深緑色のカーテンを開いた。思わず顔を顰めるほどの強い光は、窓辺に吊るしたサンキャッチャーを通り抜けて部屋中にキラキラと散る。太陽と月、星をモチーフにしたモビールにも当たった光は跳ね返され、さらに朝の寝室を鮮やかにした。跳ねて踊るような光に、朝起きるというだけで憂鬱になりがちな心も踊る。そのまま窓も開け、外の空気を吸い込む。すでに早く登った太陽のせいで空気は暖められ始めていた。朝しか味わえない静けさと立ち上がり始めた1日の気配を一緒に吸い込んで、深く息を吐く。今日も新しい朝が来たようだ。
リビングに出ると、朝日が透ける素材のカーテンのせいで部屋中が淡く青い色に染まっている。まるで水中のようだ。泳ぐように窓まで進み、一番大きな窓にかかっているカーテンを開いた。方角としては寝室のように日差しが刺さるという程度は無いが、この季節特有の強い日差しを浴びて思わず手で庇を作る。窓を開け、ベランダに出ると、待っていたかのように白い鳥がどこからか飛んできた。
「おはよう。朝からご苦労だね。」
ベランダの柵に止まったその鳥は、嘴に挟んでいた荷物をこちらに落とした。手のひらに収まるサイズだったそれは、一瞬で見慣れた大きさになる。受け取ったそれは、折り畳まれた新聞だった。鳥の腹を指の背で軽く撫でてやると、一声鳴いて飛び立っていく。それを見送ると手に残った新聞に目をやった。
「……うわっ」
思わず声が漏れたのは、新聞だけではなくそれと重ねて白い封筒があったから。封筒にはこう記載されている。
____偉大なる北の魔女 ニュクス様へ
_____魔女協会 広報課ブランド戦略部より
(あまり良い予感はしない差出元だなぁ。)
封筒の端を摘み上げて差出元を確認し、怪訝な顔をしたまま部屋に戻るのだった。
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(おや、随分と可愛くのせてもらったじゃないか。)
シャワーを浴びて一息つき、今朝のお茶を選んだ。今朝はマスカットの香りが爽やかなフレーバー煎茶に、ギリシャヨーグルトとミックスナッツにドライフルーツ、それに蜂蜜をかけたものを軽い朝食として用意した。食卓につき、朝のラジオを流しながら先ほど届いた新聞を開く。大小様々なニュースと共に、読者投稿欄では『みんなに見てほしい!うちの使い魔の可愛い写真コンテスト』の第315回結果発表が掲載されていた。誌面には、泥だらけで満面の笑みの狼、ユエが掲載されている。タイトルは『たーのしいぃ〜‼︎‼︎』で、見事銅賞を貰ったようだ。写真横には「伸び伸び育つオオカミ君は将来有望?!」とコメントがつけられていた。この写真は確か、帰宅予定時間を過ぎても帰ってこないユエを探しに出たジョージが、泥遊びの証拠写真としておさえたのだが、あまりにも良い顔をしていたので試しに送ってみた一枚だった。
(撮影者の苦い顔が思い浮かぶね……)
その後帰ってきて、またいつものように風呂場に直行していたのを覚えている。毎回ジョージにチクリと言われているはずだが、懲りずに水溜りに突っ込んでしまうようだ。
この他新聞の後方誌面には、魔女協会からの各種お願いや、「あの頃の魔女たち」「調薬基礎知識〜季節の薬草を添えて〜」と言った各種コラム、「使い魔の就職先募集」、「広報取材協力先の募集」といったお知らせで溢れていた。使い魔たちの受け入れ先募集欄はさまざまな動物の赤ちゃん写真が掲載されており、密かにこの欄はいつも読むのを楽しみにしていた。
(……はぁっ、かわいい!)
これ以上自らの使い魔を増やすつもりは無いが、ここに掲載されている子たちが皆良い出会いがあれば良いなと思っている。
赤ちゃんたちの写真に癒されながら、硬めのヨーグルトを口にする。しっかり混ぜた蜂蜜がよく絡み、ナッツの香ばしさとドライフルーツの甘味が効いている。そして少しぬるくなったお茶を一口。朝の至福の時間だ。
(しかしまぁ、問題はあの手紙だな。)
先ほど嫌な予感しかしなかった手紙は、テーブルの手が届くギリギリの位置に置いてある。一応使い魔の誰かが来たら一緒に確認しようと思い、未開封の状態だ。
(とりあえず後にしておいて良いか。)
どうせ見ることになる。それは今じゃなくても良い。そう思い直し、食後に何をするか考え始めた。
本日より新章スタートです。




