第31話: 交渉成立
「コンクールで勝つって言っても、部員の人数差ってどう考えても多い方が有利じゃない?
映像で見ただけだけど、牡丹学園は私たちの倍くらい部員がいた。吹奏楽もそうだけど、人数が多い方が音の圧も大きさも強くなるに決まってる。強豪校って、だいたい大人数で挑んでくるでしょ?」
陽葵ちゃんは一息ついて、言葉を続けた。
「今年ももちろん金賞を目指すけど……将来私たちが上級生になることを考えた時、絶対に今の部員数より多くないと困る。この部に入りたいって新入生に思わせて、部員を増やさないと」
陽葵ちゃんが話し終わる頃には、外の日が少し落ちかけていた。
オレンジ色の夕暮れが差し込む店内で、しんと空気が静まり返る。
沈黙を破ったのは、望ちゃんの一言だった。
「その元カレ、マジ最低」
「そうだね」と桜ちゃんも頷く。
私も大きく首を縦に振った。
「陽葵ちゃん」
私は陽葵ちゃんの目を見つめた。
「……部活の将来のことまでちゃんと考えてくれていて、ありがとう」
本気でそう思ったから、言葉が素直に出てきた。
陽葵ちゃんは顔を真っ赤にしながら、
「別に……」とフイッとそっぽを向く。
桜ちゃんも少しニヤニヤしながら言った。
「正直、陽葵がどうしても最近の曲をやりたいって言ってるの、目立ちたいだけのわがままなのかと思ってたら……うちらが上級生になった時のことまで考えてくれてたんだね」
「……うるさいなあ」
陽葵ちゃんはうつむいて呟きながら、空になったカップのフチをいじった。
「ちゃんと今の理由を話したら、美空ちゃんも考えてくれるんじゃないかな?」
私が押してみると、陽葵ちゃんはぽつりと零した。
「でも……まず話し合いにすら乗ってくれるかわからないくらいだし」
「そこは、私ちょっと美空ちゃんと話してみようと思ってるから! 」
最後の説得を試みる。陽葵ちゃんは少し考えてから、話し始めた。
「……自分が所属してる部活が『ダサい』とか『つまんない』なんて思われるのは、絶対に嫌。
それに……一緒にいる1年生がそう思われるのも嫌だし。…わかった、話してみる」
「よかったー!」
私と望ちゃんは、今まで溜め込んでいた息を一吐き出した。
「じゃあ、これは交換で」
陽葵ちゃんはしっかり人形を交換していた。
その後は『猫のミケ』について、陽葵ちゃんと望ちゃんから熱烈なプレゼンを受け、すっかりキャラクターを覚えてしまった。
次は美空ちゃんをどうするか
――そんな課題を抱えつつも、陽葵ちゃんや桜ちゃんと少し距離が縮まった嬉しさを噛み締めながら、私は家路についた。




