第29話: 勉強会
仙台駅のステンドグラス前。
ここは地元で有名な待ち合わせスポットだ。
今日は日曜日で、桜ちゃんたちと会う予定になっている。
だけどスタバで落ち合う前に、私はひとり、ある人を待っていた。
「お待たせ」
声をかけてくれたのは、望ちゃんだった。
「ごめんね、…急に誘ったのに来てくれてありがとう!」
私ひとりじゃ、陽葵ちゃんの話を聞いて説得するのは難しそう……
そう思って、助っ人として彼女を呼んだのだ。
「昨日話を聞いて、なんとなく作戦はわかったけど……そんなうまくいくかな」
「う……私も急に誘われたから、それくらいしか思いつかなくて。私じゃ心の距離を縮める話題もないし……。ていうか望ちゃん、私服すごく大人っぽいね! すごく似合ってる!」
今日の望ちゃんは、紺色のノースリーブにグレーのパンツを合わせた、大人の女性って感じのコーディネートだった。
元々背が高いから、より脚が長く見えて素敵だ。
「まあね。みんな似合うって言うから、この服」
「可愛いスカートも似合うけど、こういう大人っぽいのも素敵だなあ。いいなあ」
「……だから、その話はやめてってば」
スタバに着くと、桜ちゃんが手を振って席を教えてくれた。
「あれ、陽葵ちゃんは?」
「今、飲み物を買いに行ってるよ」
そのとき、後ろから陽葵ちゃんが歩いてきた。
「げっ……!」
陽葵ちゃんは、あからさまに嫌そうな顔をした。
「ちょっと桜、これどういうこと?」
「私が誘ったの。 みんなで試験勉強、いいでしょ?」
「私、聞いてないんだけど…」
「あの……私たちも勉強しなきゃいけないなと思ってたし、
あと、桜ちゃんと陽葵ちゃんと話したいなとも思ってて……」
追い出されないよう、私は必死に言葉を紡ぐ。
「……はぁ」
大きなため息をつきながら、陽葵ちゃんは席についた。
「桜に勉強をちょっと教えてもらって、飲み物を飲んだら私帰るから」
そう言ってテキストを開く。
(良かった……とりあえず座ってくれた)
ホッと胸を撫で下ろし、私たちも飲み物を買いに行って一緒に席についた。
テキストを開いて勉強を始める。
私はあることに気づいて声をかけた。
「桜ちゃん、そこって……テスト範囲じゃないところだよね?」
よく見ると、桜ちゃんのテキストは分厚く、私たちが授業で使っているものとは違うようだった。
「あー、これは塾のテキストだから。学校のじゃないよ」
「桜ちゃん、塾通ってるんだ」
「桜はすごいんだから! 今までにやった小テストの点数は全部満点。次の試験も桜なら楽勝でしょ」
なぜか陽葵ちゃんが誇らしげに言う。
「特別進学コースも目指してるんでしょ?」
「そうだね」
ペンを走らせながら、桜ちゃんが頷く。
「じゃあ……桜ちゃんって、2年生の最後で部活は終わりってことだよね?」
ペンが止まり、桜ちゃんが顔を上げた。
「うん。私はもう行きたい大学も学部も決まってるから。
そこは特別進学コースじゃないと多分行けないところだし……2年生の最後で終わり」
そこまで言うと、桜ちゃんは陽葵ちゃんを見た。
「みんなはどうなるかわからないけど、私はみんなより部活にいられる時間が少ないの。
だから今、部活で揉めてるのはちょっとまずいなと思うんですけど……どうですか?」
桜ちゃんはペンをマイクに見立てて、陽葵ちゃんに問いかけた。
「うっ……」
陽葵ちゃんが固まる。
「またその話? 私はあの状態のままだったら出る気もないし、
ダサい曲やってみんなに笑われるのも嫌」
「美空ちゃんともう一回、話してみない……?」
私も恐る恐る聞いてみる。
「嫌。あの子とはマジで折り合いがつかないから」
そう言って、空になったカップを見つめて、陽葵ちゃんが立ち上がろうとした。
「じゃ、そろそろ私帰るわ」
私は、望ちゃんに目配せをした。
望ちゃんはコクリと頷くと、立ち上がりかけた陽葵ちゃんに声をかけた。
「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ。そのカバンについてるキーホルダーとか人形
……全部『猫のミケ』だよね?」
陽葵ちゃんの動きが、ピタッと止まった。
「特にその真ん中についてる大きめのストラップ。2匹ついてるけど……もう1匹足りなくない?
多分コンビニの一番くじでしょ。『まめちゃん』だけ当たらなかった感じ?」
「……そうだけど」
警戒気味に答える陽葵ちゃんの前で、望ちゃんはドォン、とひとつのぬいぐるみをテーブルに置いた。
陽葵ちゃんの目が、パッと輝く。
「これ……『まめちゃん』じゃん! どこ行っても当たらなかったんだよね……!」
「もし斉藤さんと1回話し合ってくれたら、これあげる。
私これ、コンビニはしごして3個持ってるから」
「えっ……」
「その代わり、そこに2個ついてる『まりちゃん』の人形の1個とトレード。どう?」
望ちゃんがニヤリと交渉を持ちかける。
――そう。
この前、陽葵ちゃんが練習を飛び出して行ったとき、私は彼女のカバンに大量のキャラクターグッズがついているのに目を奪われた。
その中で見覚えのあったのが、望ちゃんの筆箱についていた『猫のミケ』シリーズのキャラクターだったのだ。
望ちゃん本人も、本当は陽葵ちゃんのグッズを見て話しかけたがっていたらしい。けれど「自分のキャラじゃない」と遠慮していた。
だからこそ、今回助っ人として望ちゃんを呼び出し、交渉役をお願いしたのだ。
陽葵ちゃんはゆっくり席に戻り、うーんと唸りながら真剣に考え始めた。
そこで、桜ちゃんが素朴な疑問を投げかける。
「ねえ、ひとつ聞いてもいい? なんでそこまで突っかかるの? もし文化祭に出なくてもいい、どうでもいいって思ってるなら、別に何の曲を歌ってもいいような気がするんだけど……」
(確かに……)
本当に出なくてもいいと思っているなら曲はなんでもいいはずなのに、ここまで拒絶して揉めるのは、どこか不自然だ。
今までの陽葵ちゃんの様子からしても、正直意外だった。
陽葵ちゃんは、しばらく黙り込んだあと、ポツリポツリと話し始めた。




