第28話: 衝突
次の日も1年生だけの練習時間が設けられたが…。
話し合いを避けるように、先輩のミュージカルの曲の練習に入っていた。
とりあえずパートで音を確認している作業が進む。
何回か繰り返し、合わせは美空ちゃんが学指揮としてまとめている。
今日は土曜日なので、お昼頃になったらそれぞれ自分たちで終了して解散が可能になっている。先輩たちとここまで離れて練習をするのは初めてだ。
「佐々木さん、そこもうちょっと思っているより高めにとってもいいかも」
「野中さんはもうちょっとお腹から声を出して」
「葦葉さん、さっきの音潜ってる。一発で音を当てるようにして」
淡々と冷静に美空ちゃんが指導していく。
さすが経験者は違うなと圧倒されていた。
樺音が隣で小さく声をかける。
「茜、この音違ってた。注意した方がいい」
「ありがとう……」
私も何回か間違えているはず。
自分でもわかっているんだけど……気のせいだろうか。美空ちゃんは私には特に何も言ってこない。他の子たちは的に確にアドバイスをしている雰囲気があるんだけど、私の考えすぎだろうか。
「あとさっきのメゾソプラノ……3小節目のとこ……えっと、やっぱり大丈夫かな」
何か言いづらそうにしているが、おそらく私が間違えたところなんだよね……。
「ねえ」
歌の途中で陽葵ちゃんが声を上げた。
「文化祭って絶対に出なきゃダメなの? コンクールも近いし別に出なくてもいいんだよね」
えっ、と全員が陽葵ちゃんを見つめる。
「話もまとまらないし、はっきり言うわ。斉藤さん以外に学生指揮者の候補っていないんだよね。正直私も吹奏楽はやってたけど、学生指揮としてまとめるタイプではなかったから。でもなんとなく斉藤さんの指導の仕方って違和感がある」
「何?」と美空ちゃんが冷静に問いかける。
「五十嵐さんと加藤さんの指導だけしてないでしょ。
あからさまに初心者避けてるって感じ。さっき音外してたのもこの2人でしょ。
まるで『初心者が間違ったのはしょうがない、修正しようがない。音楽経験者とか知識のある人たちを伸ばすことだけを意識してる』ような指導方法」
(やっぱり私、避けられてた……?)
「ごめん……なんか気に障ることしたなら――」
と言葉を続けようとした。
「違う、そんなことない!」
「じゃあ今日二人になんか指導した?」
だんだんと2人の言い方がヒートアップしてくる。
「ちょっと落ち着いて!」
また紫が真ん中に入る。
「今のテンションのままでどんな曲歌ってもすべって、いいところは全部軽音部に持ってかれる気がする。ていうかもう12時だよね。私帰るわ」
陽葵ちゃんは近くにあった自分のバッグを持って帰ろうとする。
みんなが止めようとする前に、たくさんのキーホルダーや人形がつけられたバッグをジャラジャラ鳴らしながら、ドアから出て行ってしまった。
「美空ちゃん、今のは気にしないで! 多分色々陽葵ちゃんも考えて言っちゃったんだと思う……」
紫が慌ててフォローするけど、美空ちゃんはグッと唇をかみしめて下を向いていた。
「私も今日は帰る」
時刻はもうすぐ12時という頃だったので、他の先輩方の声や中学生がドタバタする声も聞こえたので、みんな帰る準備をし始めたのだろう。
美空ちゃんも出て行ってしまい…
紫は「どうしようかな……」とつぶやいて頭を抱えていた。
あの2人がどうにか和解してくれればいいんだけど……。
今日も重苦しい雰囲気になりながら、みんな荷物をまとめて帰ろうとしていた。
「ねぇ」
私も今日のことを考えながら荷物をまとめていた時、後ろから急に声をかけられた。
「五十嵐さん、明日日曜日空いてたりする?」
話しかけてきたのは桜ちゃんだった。
「え……いや……空いてると思うけど……どうしたの?」
「明日陽葵とスタバ行く予定なんだけど、一緒に行かない?」
(……いやいやいやいや!)
私は桜ちゃんも陽葵ちゃんも、ほとんど話したことがなかった。急なことで驚いてしまって、口が開いてしまっていた。
しばらくフリーズして、やっとのことで返事をする。
「どうして私……?」
「陽葵、あの調子でさ。私もこの空気をまずいと思って話してるんだけど、ちょっと1人じゃどうしようもなくて。あの子――」
と急に桜ちゃんは、帰りの支度をしていたを樺音指さした。
「最初、野中さんって他の部員と関わろうとしなかったでしょ。
そんな子が五十嵐さんにべったりになった。あんなに変わって少しびっくりしてる。あの子が変わったのは五十嵐さんが外周してた時に探しに行った時からだから。なんか陽葵のこともちょっと変えてくれるかなと思って」
「いや、でもそんな私できるかな……」
「でも今の空気はやばいでしょ?」
「そうだね~……」
「とりあえず斉藤さんと引き合わせるのは危険だから、その他の部員とまず話せるようになった方が陽葵のためにもなると思うの。どうかな? もし私、陽葵、五十嵐さんだけじゃ不安であれば誰か誘ってもいいよ」
確かに、この状況をどうにかするために陽葵ちゃんと美空ちゃん両方の話を聞く必要はあると思う。桜ちゃんがいれば、何とか話ぐらいはできるだろうか。
「わかった。もし私でお役に立てるなら……!」
「連絡先交換してもらっていい?」と桜ちゃんが言う。
「明日一応陽葵はスタバで私と勉強会ってことになってるから、12時に仙台駅前のスタバでよろしくね」
あれよあれよと話が進み、明日会うことになってしまった。
今の部活の雰囲気を変えたいと思い勢いで言ってしまったが…
だんだん不安になってきた。陽葵ちゃんを説得するには、心を開いて話してもらうにはどうしていいか……どうしたらいいか。
悶々と少し考えて、私は一人誘ってみることにした。
「ねえねえ、明日の日曜日空いてる?」




