第25話: オープンスクール 2
「皆さんお疲れ様でしたー! それじゃあ一旦お昼休みにしましょう!」
朝の発表や午前練習を終え、杏奈先輩の掛け声で、ふっと肩の力が抜けた。
「次はオープンスクール生へのアピール、頑張ろうね。」
後ろから紬先輩が優しく声をかけてくれた。
お昼休みが終わったら、部活紹介として見学者向けにデズニーの楽曲3曲を
披露する手はずになっている。
「お昼一緒に食べよ。」
樺音が声をかけてくれた。紫も一緒に食べようとお弁当を広げている。
「じゃあ……私もいい?」
どこか不気味な笑みを浮かべた望ちゃんが、私と樺音の隣に腰を下ろした。
「い、いいよ……!」
少しの恐怖を感じながら返事をする。
「さっきのこと……絶対に言わないでよ」
念を押すように、二人だけに聞こえる小さな声で囁く望ちゃん。
「言わないけど……本当にすごく良かったのに」
ひそひそ話す私たちの横で、紫が能天気に呟いた。
「午後、どれくらいの子たちが来てくれるかなぁ?」
「先輩たちが呼び込みしてくれるから大丈夫じゃない?」
望ちゃんが答える。
「うーん、そうなんだけどさ……これ見て」
紫が開いたのは、オープンスクールの案内図だった。
「えーっと、お昼休みの後、見学は13時から。7階音楽室は合唱部……で、7階講堂は……軽音楽部!?」
「もも……もしかして同じ時間帯で、しかも同じ階……?」
萌が顔をひきつらせた。
「そういうこと。私の予想が外れてくれればいいんだけど……
うちらの部活見学の時もそうだったけど、音楽経験者は大概軽音部に取られちゃうよね…。
見学の段階とはいえ、ちょっと心配…」
紫の嫌な予感は、このあと見事に的中することになる。
♢
13時前になり、先輩たちの呼び込みが始まった。
パラパラと音楽室の前に来てくれる見学希望者もいたけれど…
――パタパタと大勢の足音が廊下に響き渡る。
その大半が、そのまま奥の講堂へと吸い寄せられていった。
「はーい! 軽音部はこちらでーす!」
呼び込みをするまでもなく、生徒たちが次々と講堂へ入っていく。
「1年生のバンドグループで、めちゃくちゃ上手い人たちいるらしいよ!」
「さっき準備してるところ見たんだけど、キーボードの人かっこよくない!?
アイドルみたいだった!」
「あの先輩と話せたら最高だよね~!」
女子中学生たちの黄色い声が聞こえてくる。
(……それって絶対、小林くんのことだよね。やっぱりモテるんだなぁ……
ファンクラブに刺されないように気をつけよう)
押し寄せる軽音部の勢いに、私を含めた合唱部員のモチベーションは少し下がり気味だった。
講堂の方をチラチラと見ながら、みんな不安そうな表情を浮かべている。
そこへ、白井先生が静かに歩み寄ってきた。
「不安ですか? 軽音部の人気は凄いですね」
先生は部員たちを見渡して続けた。
「ですが、音楽室の前に来てくれている生徒さんは、私たちの歌を聴きたいと思って足を運んでくれた人たちです。その人たち全員が私たちのファンになってくれるよう、精一杯の歌を届けなさい」
先生の一言で、ピンと全員の意識がひとつに集中する。
(今は目の前にいる人たちに、集中しよう。
私みたいに『新しく何かに挑戦したい』って思える人を引き込めるように!)
開場した音楽室のパイプ椅子に、小学生や中学生がパラパラと座っていく。
聴いてくれる人が楽しんでくれますように――まだ完璧ではないけれど、私たちは心を込めて全身で歌を届けた。
♢
「はーっ! 疲れたぁー!」
全日程を終え、凛先輩が音楽室で声をあげた。
一つの大きなイベントが終わり、部員たちもほっとした表情を見せている。
「ただなぁ……白井先生の言ってたことも分かるけど、
正直、音楽経験者は軽音部に持っていかれた気ぃするわ。この流れ、なんとか壊さなアカンなぁ……」
「そうだね……軽音の人気はここ最近特に凄いからね」
琴音先輩も苦笑い混じりに同意する。
「ま! とりあえずお疲れ様でした!」
杏奈先輩が前に躍り出た。
「オープンスクールという大きなイベントが無事に終わりました!
一年生は特に、初めてステージに立ったりして大変だったと思うけど、この調子でコンクールの練習も頑張っていきましょう! 来週以降は課題曲の合わせに入りつつ、自由曲のパート練習も開始します。あと……えっと……」
言葉に詰まった杏奈先輩の助け舟を出すように、紬先輩が声を張った。
「あとは、文化祭の練習も入ってきまーす!」
(文化祭…?)
「来週詳しく説明するけど、文化祭の出し物は各学年ごとに行ってもらいます!
高二はミュージカル、高一は音楽パフォーマンス、中学生は合同でのパフォーマンスね。
なので来週以降は、コンクール曲以外は学年別で作業してもらいます!」
学年別での作業――。
(そういえば……入部してから一年生だけで何かを作るって、一度もなかったな)
一体どんな練習になるんだろう。
これから一年生同士で取り組む中で、大きな波乱が待ち受けている…
この時の私は、まだ知る由もなかった。




