第24話: オープンスクール 1
ついに――オープンスクール当日がやってきた。
発声練習や校歌のリハーサルを一通り終えたところで、
杏奈先輩が、夏服姿の部員たち全員を集めた。
「はい、じゃあ全員集合~! これから体育館に移動するから、荷物をまとめてね。
体育館には何も持っていかないこと!」
「「はい!」」
私と樺音は焦ってペンや楽譜を鞄に押し込み、バタバタとパート部屋を出ようとした。
「――ぐふっ!」
樺音が変な声をあげて誰かとぶつかってしまった。
相手の胸のあたりに激突し、勢い余って転がる樺音。
「大丈夫か…!?」
慌てて駆け寄ると、樺音は「むくっ」と起き上がった。
ぶつかった相手は……たしかアルトの葦葉 望ちゃんだった。
普段パートが違うからあまり話したことはなかったけれど、
部内でも一番身長が高くて、ショートヘアが似合うボーイッシュな雰囲気の女の子だ。
「あー……ごめんごめん! 私も色々落としちゃった。」
望ちゃんが申し訳なさそうに言った。
特徴的なのは、そのハスキーで低い声。
女子けれど「カッコいい」という言葉がぴったり似合う。
「私も拾うよ!」
散らばった筆箱の中身やペン、消しゴムを拾い集める。
シンプルでシックな文房具が多い中、一本だけやたらと可愛いデザインのペンが目に留まった。
まわりにレース模様が施されていて、ペンのトップには可愛い猫のフィギュアが乗っている。
(これって……人気の『ねこのみけ』じゃないっけ?)
3匹の猫の日常を描いたアニメで、可愛いものが大好きな大人にも大人気なキャラクターだ。
――その隣に、一枚のプリクラが落ちていた。
(これって……?)
そこに写っていたのは、フリフリでキラキラなロリータ衣装に身を包んだ、可愛い女の子二人組。
気づけば隣にいた樺音も覗き込んでいた。
「ん……? これ、望ちゃん……?」
「っ――!?」
望ちゃんは顔を真っ赤にして、勢いよくプリクラを奪い取った。
「…このことは秘密にして! 絶対誰にも言わないで……っ!」
見たこともないような凄い形相で詰め寄ってくる。
ぎゅむっと、望ちゃんの両手が私たちの頬を挟み込んできた。
「いい!? だから誰にも言わないで!」
「ふへへ……(痛い痛い!)」
あまりの痛さに必死で頷き、私と樺音は解放された。
「ほら、もう行くよー!」
凪先輩と紬先輩が遠くから声をかける。
(……すごく似合ってたのになぁ)
心の中で呟きつつ、全員が集まる音楽室の前へ駆けて行った。
◇
体育館にはすでに白井先生が待っていて、指揮の準備をしていた。
練習通りに列を作り、ステージに立つ。
いつも歌っている音楽室とは比べものにならない広さに、思わず圧倒されてしまう。
「さあ、それでは次は音楽部の皆さんによる校歌の披露です。よろしくお願いします!」
司会の藍沢先生の声が館内に響いた。
スカートの丈やシャツをサッと整え、全員で壇上に進み出る。
パイプ椅子がずらりと並べられたフロアには、中学生や小学生、保護者の姿が大勢あった。
白井先生の指揮が上がる。
呼吸を揃え、歌い始めた
――その瞬間。
(すごく……響く……!)
音楽室とはまるで違う。
体育館の広い空間に声が反響し、自分たちの歌声に優しく包み込まれているような感覚。
(大きなステージで歌うのって、初めてかもしれない)
たくさん練習したから、もうソプラノやアルトにつられることもない。
まだまだ自分の力なんてちっぽけだけれど……
自分が確かに、この歌声の一部になれていることを実感していた。
陸上で怪我をして、現実から逃げて、何かに熱中することを恐れていたあの頃の自分。
そんな私が今、新しい場所で努力して、声を重ね合わせている喜びを噛みしめていた。
歌が終わると、大きな拍手が体育館いっぱいに弾けた。
私は小さな達成感を抱きながら、ステージをあとにした。




