第22話: 練習の日々
「はい! 今日のトレーニングは二人一組でやるよ~!」
凪先輩が部員全体に向かって声を張り上げた。
(誰と組もうかな……)
ペアを探そうと周囲を見渡した、その時。
「茜~…一緒に組も~」
樺音がパタパタと寄ってきた。
「うん、いいよ!」
が…すぐに凪先輩の待ったがかかった。
「はいはい~! 仲が良いのは結構だけど、最近みんな決まった人とばかりパートナー組んでるでしょ? 特に一年生! 今日はいつものペア以外と組むこと!」
「君たちはずーっと一緒なんだからダメ」
琴音先輩が間に入り、私と樺音を引き剥がすように別の方向へポンと押した。
「え~っ……!」
樺音の声が、反対側から小さく聞こえてくる。
周りの部員たちが次々とパートナーを決めていく中、焦って周囲を見渡すと
――同じようにペアを探している美空ちゃんと目が合った。
「あ…… まだ組んだことなかったよね? 一緒に組まない?」
私は思い切って声をかけた。
「……いいよ」
美空ちゃんは静かに頷いた。
腹筋や体幹など、基本的なトレーニングを淡々と進めていく。
二人一組での足上げ運動などが終わる頃には、部員全員が床に倒れ込むようにヘトヘトになっていた。
「はい、じゃあ5分休憩! 水分補給して息を整えて~!」
「「「はぁぁ……っ」」」
全員が疲れた声を漏らしながら、自分の荷物や汗拭きタオルに向かって動き出す。
一通りのメニューを終え、私は美空ちゃんの隣に腰を下ろした。
重たい沈黙が落ちる。
私は頭をフル回転させ、話題を探した。
「美空ちゃんって、中学も合唱部だったんだよね? しかも……みんな言ってたけど、すごく強豪校だったんでしょ?」
「そう……だね」
「やっぱり、練習とか相当大変だった?」
「大変だったよ」
美空ちゃんは少し間をおいて続けた。
「でも私……今もだけど、絶対に全国大会に行きたいの。全国大会で金賞を取りたいから、どんなに練習が辛くても頑張りたい」
まっすぐで、一切のブレがない視線。その眼差しからも強い意志を感じる。
「はい、5分休憩終わり! 練習再開するよ!」
「「はい!」」
全員の声が揃う。
自分のパートの列に戻る際、それ以上美空ちゃんと話すことはできなかった。
(萌が言っていた通りだ……)
今はこの怒涛の練習についていくことで精一杯の私とは違う。
ずっとずっと先を見据えている、雲の上の存在――美空ちゃんに、私はどこか圧倒されていた。
「じゃあ次は、発声練習やるよ!」
琴音先輩と凛先輩が前に立ち、全体を仕切り始める。
「全員、鏡持ってきた? 準備してメインホールに集まってね~!」
そうだ、今日は全員手鏡を持参しての練習日だった。
手鏡を構えた状態で、発声練習が始まる。
「自分の顔って普段あんまり見ないと思うけど、今回は表情を良くするために鏡を見ながら歌ってね。
なるべく口角を上げて、音の響きが上に引っ張られるイメージを意識すること!」
琴音先輩がピアノで音を鳴らしていく。
自分の顔をじっと見ながら歌うのは、なんだかものすごく恥ずかしい。
けれど――なるほど、自分の表情の癖が恐ろしいほどよく分かった。
音階が下がる時に口角まで一緒に下がっていたり、集中力が切れると途端に無表情になっていたり……
思った以上に自分の表情管理ができていないことに気づかされる。
「うーん……」
凛先輩が唸り声をあげた。
「やっぱり桜と樺音、表情硬いなぁ~! まぁ、徐々に慣れていくしかないとは思うけど、家でも鏡持って練習してみてな!」
「「はい……」」
二人が小さく返事をする。
樺音は表情を作るのが少し苦手なのかなと感じていたけれど、
桜ちゃんがこういう作業を苦戦しているのは意外だった。
何でもスマートにこなすクールビューティーなイメージがあったけれど、
確かに感情が表に出にくいタイプなのかもしれない。
「じゃあこの後は、さらっとオープンスクールの曲を合わせて、
そのあとコンクール曲『無門』のパート練習な!
とにかく合わせまでに、自分の音を完璧に叩き込むこと! ええな?」
「「はい!」」
全員で返事をし、パートごとの厳しい練習をこなして、その日の部活は終わりを迎えた。




