第20話: 歌とは、生きている喜びの叫びである
学指揮からの話が終わると、いつの間にか後ろに白井先生が立っていた。
先生はゆっくりと部員全員の前に歩み出ると、静かに口を開いた。
「そろそろオープンスクールの季節です。
当日披露する曲の練習は終盤に差し掛かっていますが、こちらも完璧な演奏に仕上げましょう。
そして――明日から早速、コンクール曲の練習も開始します。まずは課題曲の『無門』からパート練習に入りますが、その前に、この曲のイメージを全員で共有しておきましょう。」
白井先生がゆっくりと全体を見渡し、楽譜を見るよう指示する。
「課題曲『無門』
――この詩を書いた淵上毛錢は、熊本県水俣の詩人です。
二十代で病を患い、三十六歳の若さで亡くなるまで長い闘病生活を送りました。『無門』は彼が亡くなる前、痛みと戦う中で書き上げた、生きている喜びや生命の力の詩です。その命の響きを歌声にのせましょう。」
先生の言葉に、音楽室の空気がピンと張り詰める。
「まずはパート練習。
その後、学生指揮者と私を中心に合わせに入ります。」
「「「はい!!」」」
全員の揃った返声が音楽室に響き渡る。
「明日からコンクールの練習を本格化させます。
今日はオープンスクールの練習を仕上げましょう。こちらは学生指揮者に指導をお願いしますね」
「「はい!」」
凛先輩と琴音先輩が返事をし、練習が始まった。
そこからは、オープンスクールで披露する校歌と、デズニー映画の楽曲三曲の練習だ。
「形は出来てきたな! でもまだアラが多いから、各パートしっかり練習すること!」
全体練習の合間、凛先輩が陽葵ちゃんへ声をかけた。
「それにしても陽葵、ずいぶんご機嫌やな?」
「デズニー好きなんです私! 超楽しいです!」
満面の笑みで答える陽葵ちゃんに、周りの部員たちもクスクスとつられて笑う。
「校歌も、もうちょっとそれくらいテンション上げてやってくれへんかなぁ……コンクール曲もたのむわぁ~」
凛先輩が苦笑いすると、
「はーい」と陽葵ちゃんが語尾を伸ばしたふぬけた返事をした。
(確かに、自分たちが知ってる曲だとテンション上がるのは分かるなぁ)
「まあ、この曲は楽しそうに歌って『合唱部って楽しいですよ!』ってアピールせなあかんからな!
やけど……ちょっと一年生、まだ表情が硬いな。特に樺音と桜!」
「「はい……」」
桜ちゃんは頷き、隣の樺音は「うげっ」と分かりやすく嫌そうな顔をした。
あっという間に部活の時間は過ぎ、杏奈先輩が全体を仕切る。
「だいぶオープンスクールの曲は固まってきたから、今後はコンクールの曲も並行していきます!
全員、楽譜を忘れずに持ってくること! あと――」
琴音先輩がひょっこり割り込んできた。
「次の練習では『手鏡』を持ってきてね!」
(手鏡……? 一体何に使うんだろう……?)
メモを取り、その日の部活は終了した。




