第2話: 自分の居場所は、自分で見つけるものだ
授業終了を告げるチャイムが鳴ると同時に、私たちは教室を飛び出した。
6階の教室から1階のエントランスを見下ろすと、そこはもう戦場だった。
色とりどりのチラシを手にした先輩たちが、獲物を狙うハンターみたいに新入生を待ち構えている。
まずは緑の希望でバスケットボール部へ向かった。
経験者の緑は先輩たちに囲まれて、文字通り「モテモテ」の状態。
ようやく解放された緑と合流して、体育館を後にする。
「茜、運動部で見ておきたいところある?」
葵が気を使って聞いてくれるけれど、私は首を振った。
(……運動部は、もういいかな)
適当な文化部に入って、楽しく遊んだりして高校生活を送るつもりだ。
けれど、グラウンドを駆ける陸上部員の姿が視界に入ると、どうしても目が止まってしまう。
(……あの子、フォームが綺麗だな)
無意識に分析してしまう自分に苦笑して、グラウンドを横目に通り過ぎた。
部活動見学は5日間かけて行われた。
茶道部、書道部、調理部、文芸部――。知らない世界を覗くのは、案外楽しかった。
そして最終日、葵の第一希望である軽音部へとたどり着いた。場所は『大講堂』。
そこはもう、足の踏み場もないほどの人だかりだった。
「まさか、ここまでとは思わなかったね……」
いつも元気な葵も、この人数には少し圧倒されているみたいだ。
ガヤガヤとした話し声をかき消すように、ズン、と重いドラムの音が腹に響いた。
音が鳴った瞬間、講堂がライブ会場に変わる。
生徒たちのボルテージが一気に跳ね上がる。
周りを見渡すと、いわゆる「陽キャ」というか、華やかな雰囲気の生徒が多い。
その中心に、明るい茶色に髪を染めた男子生徒がいた。恐らく彼があのグループの中心だろう。
ステージ上の熱気に当てられ、私は少し後ろへ下がろうとした。
その時、横から急いで走ってきた女の子と肩がぶつかる。
「あ、ごめんっ!」
ぶつかった彼女は、短く謝るとすぐにステージの方へ駆け出していった。
一瞬、追いかけた視線の先に映ったのは、派手に巻かれた髪と、完璧なメイク。
彼女が通った後には、甘い香水の匂いがふわりと残る。
(……ああいう人たちとは、関われる自信がないな)
住む世界が違う。
音楽は好きだ。
でも、今の私が求めているのは、このキラキラした空気じゃない。
何かにのめり込んで、それが壊れてしまうのが怖くて、ずっと自分の感情にブレーキをかけてきた。
そのブレーキを外してまで飛び込みたい場所が、ここにあるとはどうしても思えなかった。
演奏が終わると、少しだけ息苦しさを感じて講堂を後にした。
「茜はどうだった?」 葵に聞かれて、私は精一杯の愛想笑いを浮かべる。
「楽しかったよ。特にボーカル。あんな風に歌えたら、気持ちいいだろうね」
嘘じゃない。あんな風に自分を解放できたら、どんなに楽だろうと思う。
でも、それは今の私にとっては、あまりに遠い夢のような話だった。




