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椿学園合唱部  作者: 一夢
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13/17

第13話: 現実は、いつも私たちの空想よりも厳しい2

部活終了のチャイムが鳴り、死んだような顔をしながらメゾ部屋を出た。


(そうだよな。初心者大歓迎って言っても、合唱が初心者なだけで、音楽が初心者な人は少ないよな……)


一年生の自己紹介を思い出すと、吹奏楽部の子もいたし、

楽譜が読めないのってもしかして私だけだろうか。

不安になって周りを見渡した時、(もえ)が同じような顔をしてアルト部屋から出てきた。


私は、何も言わず(もえ)に抱きついた。

(もえ)も、すぐにギュッと抱き返してくれた。


「はい、そこ! いちゃいちゃせんで、早く部活終わらせるよー! はい、帰りの会するよ!」

(りん)先輩が私たちを引き離して、今日の部活は終了した。


(もえ)ちゃん、(あかね)、一緒に帰ろう!」と(ゆかり)が声をかけてくれた。


「うん」

と言って、メゾ部屋から荷物を持って帰ろうとすると、樺音(かのん)ちゃんとぶつかった。


「ごめん!」


「……むー」

と少し唸って、


「大丈夫」

とゆっくりおっとり返事をする樺音(かのん)ちゃん。


私は少し気まずくて、声をかけた。

「あの、私、迷惑かけるかもしれないけどごめんね。初心者だから、覚えるのも遅いし……」


「まず、楽譜読めればいいと思う~」


「うぐっ……どうやって覚えればいいとか、おすすめの教材とかあったりする?」


「楽譜読めたの幼稚園とかだから、覚えてない。……うーん、眠いから帰るね」


「あ、そっか、ごめんね。じゃあまた明日ね」


(多分だけど……樺音(かのん)ちゃんは悪気はないんだと思う。

だけどストレートに物事を言ってくるから、なかなかつかみづらいというか、難しいというか……)


私は慌てて荷物を持って、(ゆかり)たちのところへ駆けて行った。


――それから一週間。

私たち一年生は、パートごとに校歌の音取りをみっちり行った。

だけど、練習のたびに樺音(かのん)ちゃんと自分の差を思い知らされる。


(……さすが絶対音感。正直、格が違いすぎる)


なんとか追いつきたくて、樺音(かのん)ちゃんにアドバイスをもらおうとしたこともあった。


「こうやってやればピアノは弾けるし…それで音覚えればいいと思う」

高速に動く指の使い方などを教えられたけど…


「……?」

凡人の私には、一ミリも理解できない説明をされる。

悪気がないのは分かるけれど、いまいち樺音(かのん)ちゃんとの距離を詰められなくて、

私は少し落ち込んでいた。


うーん、これからさすがに楽譜の勉強とかしなきゃダメだよな……。

せめて、自分でピアノをちょっと叩いて、自主練習できるようになるくらいにはなりたい。

でも、一体どうしたらいいんだろう。


そんなことを考えながら、宿題のテキストを忘れたことに気づいて、放課後の教室に戻った。


ガラッとドアを開ける。

すると、真っ先に目に入ってきたのは、かっこいいギターを抱えた(あおい)の姿だった。


「……(あおい)、ギター買ったの?」


私が声をかけると、(あおい)は「かっこいいでしょう!」と自慢げにギターを見せてくれた。

放課後の夕日に照らされた、赤くキラキラとしたボディがとても綺麗だった。


「ただね……」

急に、葵が声のトーンを落とした。

「ギター、手が痛いし難しい……」


さっきまでのドヤ顔が消え去り、しわしわのおばあちゃんみたいに呟く。

(あおい)はギターを買ってもらって嬉しいはずなのに、うまく弾けなくてテンションが下がっているらしい。


「さっきからずーっと、あんな感じなんだよ」


そんなことを言いながら、変なポーズで近づいてくるのは、(みどり)だ。

(みどり)もどうしたの? その動き」


「いや、弓道部マジで筋トレつらくて……。ていうか、あの弓、めちゃめちゃ重いんだよね。

なんで先輩方はあんなにしっかり持てるわけ? 意味分かんない」


どうやら私たちは全員、それぞれの場所で『部活の洗礼』を浴びているみたいだ。


私も本音が溢れ出してしまう。

「……実は私も、楽譜が全く読めなくて現実見てるよ。完全に置いていかれてる」


正直に弱音を吐くと、


「とりあえず、みんなで頑張ろう」

「だね。違う部活だけどさ」

と二人は苦笑いしながら言った。


「あかねーー!」


その時、廊下から大きな声が響き渡った。

一年生の教室の前で、息を切らせた(ゆかり)が立っている。


(ゆかり)? どうしたの?」


「今、他のみんなにも伝えて回ってたんだけどね! 杏奈(あんな)先輩からの伝言!

明日の土曜日、練習があるんだけど、その時は『ジャージ』で部活に来てほしいって!」


「えっ、ジャージ?」

音楽部なのに、と私が首を傾げる。


「うん! 私、今日はどうしても早く帰らなきゃいけないから、もう行くね! 先帰る!」

嵐のようにそれだけ言うと、紫は「また明日!」と手を振って廊下を走っていってしまった。


「オッケー、バイバイ!」

返事はしたものの、頭の中には疑問が浮かぶ。


(……合唱って、ジャージで歌うものなの? 普通に制服でよくない?)


でも、後から湧いてきたその疑問はひとまずしまい込んで、明日のためにリュックへジャージを詰め込むことにした。

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