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椿学園合唱部  作者: 一夢
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第12話: 現実は、いつも私たちの空想よりも厳しい1

「ほなみんな、注目! 1年生のパートは決まったんで、発表しまーす!」


(りん)先輩が他の部員たちにも声をかける。

先輩や中学生たちも話を止めて、一斉にこちらに注目した。


(……めちゃめちゃ緊張してきた。どこになるんだろう)


「ソプラノ――佐々木紫(ささきゆかり)西野陽葵(にしのひまり)小野寺桜(おのでらさくら)


「メゾソプラノ――五十嵐茜(いがらしあかね)野中樺音(のなかかのん)


「アルト――葦葉望(あしばのぞみ)加藤萌(かとうもえ)斎藤美空(さいとうみく)


え……?

今、メゾソプラノって言った? メゾソプラノって言ったよね?


(ゆかり)が難しいって言ってたパートだ……)


呆然としながら立っていた。

私にできるのか、大丈夫かなという不安の気持ちでいっぱいだった。

そして残念なことに、(ゆかり)とも(もえ)とも、バラバラのパートになってしまった。


「それぞれのパートの高校二年生、自分の子を迎えに行ってなぁ~!」

(りん)先輩が声をかける。そして高校二年生の先輩方が動き出した。


「はーい、メゾの子たち、確保ー!」

という声とともに、肩に手を置かれた。


声の方向を向いてみると、(つむぎ)先輩が私と樺音(かのん)ちゃんの後ろに立っていた。

そして琴音(ことね)先輩もこちらに向かってくる。


(メゾは(つむぎ)先輩と琴音(ことね)先輩か……)


部活紹介の時から(つむぎ)先輩とは話せているから、少し安心した。


「よろしくお願いします」

(つむぎ)先輩と琴音(ことね)先輩に挨拶をする。


「よろしくね」と二人から返事をもらって、私は隣の同じ一年生にも話しかけた。

樺音(かのん)ちゃんもよろしくね」


「うん」

身長は杏奈(あんな)先輩と同じくらい小さい。

杏奈(あんな)先輩は元気いっぱいって感じだけど、樺音(かのん)ちゃんは真逆で、ものすごくおっとりしている。たまに眠そうな顔をしながら先輩と話しているのが印象的だった。


琴音(ことね)先輩は私たちに楽譜を渡す。

他のパートの子たちにも、それぞれ楽譜が渡されていた。


「えーっと、じゃあまず一年生は校歌を覚えてもらうので、高校二年生についてってな。

じゃあ、それぞれパート部屋に移動してー」


荷物を持って、メゾソプラノの真ん中の部屋に向かう。


(つむぎ)先輩が、誘導しながら説明してくれた。

「メゾ部屋に入ってもらったと思うけど、明日から二人はここに荷物を置いてね。

それぞれのパートごとに棚があるから、そこにリュックとか置くこと。

楽譜とかはこっちに置いといてもいいよ」


私と樺音(かのん)ちゃんは、空いているところに荷物を置いた。


次に琴音(ことね)先輩が話しかけた。

「じゃあ、さっき渡した校歌の楽譜を持ってピアノの前に集まってね」


渡された楽譜を見てみる。入学した時の校歌の歌詞が並んでいる。


(……音符は全く読めない)


「じゃあまずはオープンスクールで校歌を歌うから、その音取りから始めようか。

音楽部はこういうイベントの時に毎回校歌を歌うのを任されるの。

一応、私たちの部活は女声三部合唱だから、校歌も三部合唱で歌うのね。

メゾのパート二人にはそれを覚えてもらって、あとは全体で合わせても大丈夫なレベルまで練習してほしいかな。部活でもやっていくけど、よろしくね」


「はい」と返事をする。


「じゃあもう声は出るようになってると思うから、残りの部活時間は音取りやっちゃおうか」


琴音(ことね)先輩がピアノを弾き始める。

「じゃあまずメゾのパートの部分見てほしいんだけど、その中の真ん中がメゾのパートなので、そこを見ながら歌ってね」


琴音(ことね)先輩が、メゾのパートを少しずつ弾き始める。

その音を追うように私たちで歌うんだけど、まずは音を覚えなきゃ歌えない。

まずは先輩のピアノの音を聞いて覚えて歌おう、と私が思った――その時だった。


隣にいる樺音(かのん)ちゃんが、普通に歌い始めた。


(え、どういうこと……? まだ初めてだよね? 合唱やったことあるとか……!?)


びっくりしていると、琴音(ことね)先輩が手を止めた。

樺音(かのん)ちゃんの方を向き直って、目を見開く。

「すごいね! 音程ぴったりだ。……もしかして、絶対音感?」


「はい」と樺音(かのん)ちゃんが答える。


(絶対音感……。テレビとかでしか聞いたことないやつだ)


(つむぎ)先輩も驚いていた。

「絶対音感はすごいね! 相対音感とかならこの部活にも結構いるけど、

絶対音感は(りん)ちゃんくらいじゃないかな」


「相対音感……」と私はつぶやいた。

琴音(ことね)先輩が察して、説明してくれた。

絶対音感は聞いたことがあるけど、相対音感というのは初めて聞いた。


「簡単に言うと、『絶対音感』っていうのは、楽器の音がなくても、頭の中でドレミの音が完璧に分かってそのまま歌えちゃう天才的な耳のこと。楽譜を見ただけで、正しい音がパッと頭に浮かぶ。」


琴音(ことね)先輩はピアノの鍵盤を一つ叩いてから、私を振り返る。


「逆に『相対音感』っていうのは、最初にピアノで『ド』の音を鳴らしてもらって、それを基準にして『じゃあレはこのくらいの高さかな』って、前の音と比べながら音を探していく力のこと。だから、ピアノの音がなくても最初から完璧に歌うことが出来ちゃうんだよね。」


ということは、樺音(かのん)ちゃんは楽譜を見ただけで音がわかるから、

楽譜さえ見てしまえば先輩方と同じように歌えるってことだ。


てことは。


(初心者の私は、だいぶ遅れる。足を引っ張る可能性がある……)


だんだん嫌な汗がいてきた。

「すみません……私、楽譜すらよく読めなくて……」

罪悪感に押しつぶされそうになりながら、先輩たち二人に言った。


その横で、樺音(かのん)ちゃんはびっくりしたように目を見開いて私を見た。まるで、今まで見たことがないものを見たかのように、宇宙生物でも見たかのような顔をしている。


「楽譜読めなくて、合唱部来たの?」


グサグサと樺音(かのん)ちゃんの声が心に刺さる。

慌てて琴音(ことね)先輩が声をかける。


「いや、全体練習が始まってからわかると思うけど、今、メゾは猫の手も借りたいくらい人が欲しいから、初心者とか関係ないからね! 遅くても大丈夫だから、まずは校歌を覚えよう」と励ましてくれる。


(他のパートより人が足りないのかな……)


また(つむぎ)先輩も、

「うちら高校二年生の中にも、音楽全くの初心者の人もいたから大丈夫だよ!」と励ましてくれた。

二人に励まされながら、私はなんとかメンタルぎりぎりの状況で音取りを続けて行った。


そして、部活終了のチャイムが鳴った。

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