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その正体  作者: 烏屋鳥丸
42/44

39 終焉

4人の戦士はブラッドリーと対峙する。

ブラッドリーは4人には興味がないと言うように首を傾げた。

アンジェラは、その男に腕を掴まれ捕らえられていた。

彼女の頬を流れる涙に、ノエルは奥歯を噛み締める。

許せなかった。頭に血が上るのを感じた。

誰よりも守りたかった彼女が、泣いている。


「その手を離せ!アンジェラさんは…俺のだ!」


「違うな。アンジェラは私のものだよ。権利を主張するなら、取り返してみればいいさ。弱い人間なんかにできっこないけどね。」


「この…っ!」


ノエルは男に向かって飛びたす。


「待て、ノエル!一人で突っ走るんじゃない!」


アダムの声を無視して、ノエルはその男に剣を抜く。

素早く二本の剣を振り降ろすが、男はアンジェラを抱えてヒラリと身を躱した。


「遅いよ。」


目に追えないほどの速さにだった。

すかさずノエルは体制を立て直そうとした。

振り返ろうとしたその時、男の蹴りが脇腹に命中する。

重い一撃に、ノエルは簡単に吹き飛ばされた。


「ノエル…!」


悲鳴のようなアンジェラの声が響く。

受け身も取れずに転がった身体は、あちこち痛みを主張する。

相手は先ほど戦った吸血鬼よりも、遥かに強い。

痛む身体を無理矢理に起こすと、悲痛な彼女の表情が目に映った。


「もういいの…。やめて、ノエル…。私、ブラッドリーと一緒に行くから…。もう戦わないでいいの…。お願い…もうやめて…。」


「ほら、彼女もこう言ってるんだ。選ばれなかった君は、潔く引いた方がいいんじゃないかい?」


「なんでだよ…。」


納得できない。できるわけがない。

ノエルは拳を握りしめる。


「じゃあ、どうしてアンジェラさんは泣いてるんだ!?ホントはソイツと一緒になんて行きたくないんだろ!?」


その言葉に、アンジェラは目を伏せた。


「無理よ…。ブラッドリーには勝てない…。もうみんなが傷付くところは見たくないの…。私が素直に付いていけば…ノエルたちは助かるんだから…。もう、いいの…。」


辺りを見渡せば、先ほどまで彼女がいた場所に誰かによく似た青年が倒れていた。

遠くの方で横たわるエレナとリリーの姿も確認できた。


「リリー!」


ジャックとラウムが倒れているリリーに駆け寄る。


「リリー!大丈夫ですか…!?怪我は…。」


「大丈夫…。ちょっと打っただけ…。それより、焔様が…。」


視線を移すと、アンジェラは静かに首を振った。

よく見ると、彼女の側に倒れている青年は容姿は若いが焔によく似た姿をしていた。

左頬から耳にかけて残る傷。小柄だが逞しい身体つきと東洋の顔立ち。

いつか彼女のことが書かれた書物で見た姿そのものだった。


「焔は…もう…。」


暗い表情で目を伏せるところを見ると、焔は既に息絶えているのだろう。

彼の回りには血溜まりが出来ていた。

おそらく全て焔の血だろう。

あの出血量では、助かるわけがなかった。

焔ほどの男が返り討ちに遭うような相手。

相手はおそらく先ほど対峙した吸血鬼よりも、もっと強い。


「あの吸血鬼…外からのダメージは効かないわ…。」


横たわっていたエレナが静かに口を開く。


「…傷の再生が早すぎる。焔とベルがどれだけダメージを与えても…ダメだった。おそらく上位種の吸血鬼ね…。」


「銀の武器は効くのか?」


「ダメみたい…。数発銀の弾丸を混ぜて撃ち込んだけど、簡単に再生されてる…。アイツに銀は効かないみたい…。」


リリーは悔しそうに唇を噛んだ。


「じゃあさっきみたいな手は使えないってわけですね…。どうします?」


「上位種の吸血鬼は日光しか効かないわ…。」


ラウムは難しい顔をした。

ジャックは懐中時計を確認する。

時刻は午前四時を回ったところだった。


「日の出まであと2時間近くってところですか…。どうします?アダム。」


「それまでなんとか奴を逃さずに持ちこたえるしかないな。」


この状況に、ノエルは唇を噛んだ。

なんとしても彼女を助けたい。

しかし、現状ブラッドリーを倒すためには日の出を待つ以外に方法がなかった。

だが、おとなしくここに留まってくれるとは思えない。

日の出よりも先にアンジェラを連れ去られたら終わりだ。

あれほどの力を持つ吸血鬼だ。

こちらが全滅する可能性だってある。


「大丈夫だ、ノエル。俺とお前が組んで勝てない敵なんていないだろう?それに、ここにはジャックもリリーもラウムもエレナもいる。この国の精鋭たちだ。これだけ揃って負けるわけがない。君もそう思うだろう?」


「…ああ。そうだな。」


力強いアダムの言葉に、ノエルは頷いた。

いつだってそうだ。

アダムの言葉には力がある。

その強い瞳で語られた言葉は、疑いようもない真実になるのだ。

持って生まれたカリスマ性。

それがアダムの力だった。


「アンジェラ!交換条件だ!」


アダムは叫ぶ。


「俺達は君を必ず助ける!その代わり、俺の言うことを一つ聞いてほしい。」


「アダム…?」


ノエルは困惑した。

アンジェラも不安そうな顔でアダムを見つめる。


「なに、難しいことじゃない。君には簡単なことだ。」


「でも…無理よ。ブラッドリーには勝てないわ…。私…みんなが死ぬのは…嫌なの…。嫌なのよ…。」


「俺達は死なない。俺が誰も殺させない。」


アダムは自信満々に言い切った。

彼女の瞳に、薄っすらと期待の色が滲む。


「お前達もいいな!この戦い、アイツをぶちのめして絶対生きて帰るんだ!」


「アダムにそう言われたらノーとは言えないですね。」


「ジャックは私が守るわ。思う存分暴れてちょうだい。」


「私も…!まだ戦える!足手まといになんてならないんだから!」


「私は戦力にはならないけど…回復は任せて。」


ジャック、ラウム、リリー、エレナがアダムに応える。


「ノエル。作戦の立案は君の仕事だ。参謀らしく、せいぜい俺達を上手く使いこなしてくれよ。」


「ああ、任せてくれ。」


ノエルは今までの戦いから状況を整理する。

相手の吸血鬼は素早い。目に追えないほどのスピードだ。

まずはその足を封じたい。

しかし、リリーとエレナの話だと剣や銃での攻撃はすぐ再生されてしまうのだと言う。


「ジャック。魔術でアイツの足を止めることはできるか?」


「さっき戦った吸血鬼に影の魔術で拘束するのを試してみたんですけど、簡単に抜けられちゃったんですよね。でも、ま、色々試してみましょうか。」


「頼む。あのスピードさえ殺せたら後はこっちのものだ。」


「オーケー。派手に暴れてやりますよ!」


「話は終わったかな?」


ブラッドリーは抱えていたアンジェラを降ろす。


「逃げてもいいよ。でも、その時は彼らを皆殺しにする。わかっているよね?」


不敵に微笑むブラッドリーに、アンジェラはその場で立ち尽くすしかなかった。


「あーいう性格悪そうな男っていけすかねえんですよねえ。」


ジャックが指先を振るとたちまち辺りに冷気が漂い、ブラッドリーの足を凍らせた。


「なんだい、こんなもの。」


ブラッドリーは軽々と氷を砕く。


「うーん、やっぱダメですねえ。じゃあこういうのはどうです?」


再びジャックが指先を振ると、今度は雷鳴が轟きブラッドリーの身体を雷が駆け巡った。


「ぐっ…!」


「どうです?身体が痺れて動けねえでしょう?」


衝撃にブラッドリーは膝を付く。

畳み掛けるようにジャックは風の魔術でその身を切り裂いた。

ブラッドリーの腕が千切れ、宙を舞う。

更に再生する間も与えずに、炎の魔術で男を火達磨にする。


「ぐっ…ううう!」


燃え盛る男は唸り声を上げる。


「どうだ!?」


期待を込めたアダムの声が響く。

ダメージは確実に通っている。


「小賢しい…っ!」


しかし、男が腕を振ると、炎は易々と振り払われてしまった。

千切れたはずの腕は、既に元に戻っていた。

ジャックが与えたダメージは一瞬のうちに回復されてしまったようだ。


「うーん、ダメっぽいですね…。」


どうしたものかとジャックは首を捻る。

ダメージが通らないわけではない。

しかし、回復が早すぎる。

とても朝まで彼を止めるなんてできない。

ブラッドリーはギロリとその赤い目をジャックに向けた。


「…君、天才魔術士ジャック・スターローンだね?」


「おや、俺のことをご存じで?」


「アミュレスの戦争では大層大暴れしたそうだね。詠唱もなしにこんな魔術を連続で出すなんてたまったものじゃない。君から殺してしまおうか。」


ブラッドリーは素早い動きでジャックに詰め寄る。

そして、長い爪をその喉元に目掛けて振り降ろす。


「うわ…っ!」


その時。


「させないわよ。」


ブラッドリーに負けない素早さで、羽を広げたラウムが2人の間に割って入った。

ラウムはダガーを振りその長い爪を折る。


「ラウム…。助かりました。」


「ジャックは下がってて。貴方接近戦はてんでダメなんだから!」


ラウムはブラッドリーを睨みつける。

ブラッドリーはラウムの姿を見て、納得するように頷いた。


「悪魔か…。なるほど、そういうことか。ジャック・スターローンの力の正体は君だね。」


「だったら何だって言うの?ジャックは傷付けさせないわ!」


ラウムは懐からナイフを数本取り出す。

距離を取り、そのナイフをブラッドリーに向かって投げた。

ナイフは肩、脇腹、太腿に命中する。

しかし、微塵も効いていない。

男がゆっくりと刺さったナイフを抜くと、傷口からは煙のようなものが漏れてその身体を再生した。


「…さすが悪魔といったところだね。人間よりも遥かに素早い。でも、それだけだ。こんなものじゃ私は倒せないよ。」


男は素早くラウムに詰め寄り、その両腕を掴む。


「シジルはどこだ。」


「教えるわけないでしょ!えっち!」


男の力が強くて振り払えない。

拘束された腕では、武器を持つこともできない。

ラウムはジタバタと藻掻くように蹴りで応戦する。

しかし、悪魔であっても女性の脚力だ。少しも効いていない。

それどころか、男は更に腕の力を強める。


「言え。シジルはどこだ。」


ギリギリと肉が締め付けられ、骨が軋む音がした。


「うう…っ!誰が、言うもんですか!」


ブラッドリーの爪がラウムの腕に食い込む。

このままでは、腕を折られてしまう。

そう思った時、眩い閃光と、銃声が響いた。


「お姉ちゃんは私が守る!」


「人の女に手え出してるんじゃねえですよ。」


リリーの銃撃はブラッドリーの腕に命中し、その腕が吹き飛ぶ。

同時にジャックが放った光の魔術がブラッドリーを貫く。

ラウムは拘束を解かれ、すかさず後退る。


「ああ、もう…!わらわらと小賢しい…!束になればこの私を倒せるとでも…!?ふざけるな!集まったところで所詮は人間だ!人間ごときにこの私は倒せない!」


ブラッドリーの顔に苛立ちが浮かぶ。

吹き飛んだ腕を拾い、再び再生した。


「どう思う?ノエル。」


ここまでの戦闘を静観していたアダムは口を開く。


「…確かに回復が早いのは厄介だ。でも、アイツ、再生する時は必ず足が止まる。回復しながら戦うことはできないんだと思う。」


「なるほど。じゃあ回復される前に袋叩きにするか?」


「それじゃこっちの体力が持たないと思う。朝日が昇るまで2時間も動き続けるのは現実的じゃない。」


「ならどうする?」


「多分アイツはそんなに知能は高くない。コロコロターゲットを変えるところを見ると激情家だな。感情で動くタイプだ。だから隙だらけといえば隙だらけだけど…。」


「じゃあ誰かにターゲットが移ったところを不意打ちで責め続けるか?」


「それだと朝まで袋叩きにするのと変わらない。確実にアイツの足を止めるには…。」


「アイツ、内側からの攻撃には弱いみたいよ。」


ふいに、エレナが静かに口を開く。


「さっき焔と組んで二酸化炭素を大量に吸わせたら、しばらく身動きが取れなくなったわ。回復にも時間がかかってる。多分、外からの攻撃よりも、内側からの攻撃に弱いわ。」


「二酸化炭素中毒か。でもこの人数がいる場でそれをするのは危険すぎる。都合よくアイツだけを、なんて難しいんじゃないか?」


ノエルの疑問にエレナは頷く。


「そうね。共倒れになる可能性が高いわ。それに、2度目は通用しないでしょう。」


「内側からの攻撃…。具体的にどうしたらいいんだ?」


エレナは懐を探る。

取り出したのは、一本の注射器だった。


「ここに麻酔があるわ。大型の魔物にも効く強いものよ。」


「こんな時でも注射器をもっているなんて、さすが医者だな。」


「茶化さないで。ただ、アイツに効くのかもわからない。完全に賭けよ。」


「どうする?ノエル。俺は可能性があるなら賭けに出てもいいと思うが。」


「そうだな。俺とアダムがアイツを引きつける。その隙に奴に麻酔を打ってくれ。」


「言っておくけど、私、戦闘は全然なんだからサポートしなさいよ。」


「わかってる。行くぞ、ノエル。俺が正面から奴に挑む。君は、奴の隙をついて攻撃してくれ。もしもの時は俺を盾にしてくれて構わない。」


「盾って…それじゃアダムが…。」


「俺は大丈夫だ。」


力強い瞳でアダムはノエルを見つめる。

その瞳に見つめられると、アダムを信じて頷くしかなかった。


「行くぞ!」


アダムが叫び、駆け出す。

正面から真っ直ぐにブラッドリー目掛けて剣を振り降ろした。

しかし、ブラッドリーはひらりと身を躱す。

その先に、ノエルが待ち受ける。

ノエルは計算通りに目の前に現れたブラッドリーの右手を斬りつけた。

すかさずアダムが追撃する。

ふらついた足に斬撃を浴びせ、その膝を地面に付かせた。

ノエルが背後を取る。その背目掛けて二本の剣を振り降ろす。

衝撃でブラッドリーが地面に倒れ込んだ。

アダムは馬乗りになりブラッドリーを押さえつける。


「エレナ!今だ!」


「何を…!」


「そのまま押さえといてよ!」


ブラッドリーはジタバタと傷だらけの身体で藻掻く。

アダムは逃さないように拘束する腕に力を込めた。

エレナがこちらに向かって駆け寄ってくる。

あと少し。

ブラッドリーはアダムの脚を掴み、力を込める。


「させるか…!」


強い力に身体が傾き、アダムの身体が投げ出された。

衝撃ですぐ側まで来ていたエレナとぶつかる。

エレナが手に持っていた注射器は、地面に落ちて粉々に割れてしまった。

麻酔は地面に広がり、使い物にならなくなってしまった。


「くそっ…!」


「ダメだわ、麻酔が…。」


「途中までは上手くいってくれてたんだがな…。」


作戦は失敗だ。

粉々になった注射器を見つめ、エレナは唇を噛む。

ブラッドリーは素早く身を翻し、距離を取った。

そして先ほどの傷を回復する。


「いくら足掻いたって無駄だよ。いい加減、諦めたらどうだい。」


その目には、怒りの色が見えた。


「仕方ない。もう朝まで戦い続けるしかないな。」


「げえ、アダム…正気ですか。後1時間半くらいありますよ…。」


「けど、策がない以上、他の選択肢がない。もう総力戦するしかないぞ。」


「参謀がこう言うんだ。俺達も腹を括ろうぜ。」


「残弾は残り少ないけど…、私もみんなのために戦う…!」


「アイツのスピードについて行けるのは私だけね。撹乱は任せて。」


「多少無理してもいいわ。ある程度の傷なら私が回復してあげる。」


皆腹を括った。

アダムとノエルが最前線で男に剣を振るう。

ジャックとリリーが遠距離から魔術と銃撃で応戦する。

ラウムはそんな2人を守りつつ、場を撹乱する。

エレナは戦闘で傷ついた仲間たちを瞬時に回復させた。

こちらは実力者ばかりが6人。対して相手はたった1人。

負けはしない。皆が皆お互いに守り合い、相手を擦り減らせていった。

しかし、相手の驚異の回復力を前に、こちら側は確実に体力を消耗し、疲労が蓄積されていた。

息が上がる。身体が熱くて堪らない。汗が滝のように湧いて出る。

自分も含め、皆の動きも悪くなっていることにノエルは気付いていた。

ブラッドリーもただやられているわけではない。

回復中以外は相手もこちら側に攻撃を仕掛けてくる。

それを避けて。剣で受けて。封じて。また反撃して。

体感では随分長い時間戦っているように思えるが、まだ空は暗いまま。

正直体力が持たない。気合で持ちこたえるのがやっとだ。

早く、早く夜明けさえくれば。

そう考えながら剣を振るっていると、疲労で足が縺れた。

地面に膝を着いたノエルに、ブラッドリーの長い爪が振り降ろされる。

ヤバい、やられる。

そう思った瞬間、アダムがノエルの前に飛び出した。

ノエルを庇うように、その腕を広げる。

振り降ろされた爪に、アダムの右手が吹き飛んだ。


「アダム…!」


「俺は大丈夫だ。」


「大丈夫って、お前…腕が…。」


アダムの腕からは血が噴き出していた。

切り落とされた下腕が地面に転がる。

こんなのエレナの治癒術では、治せない。

どうしよう。俺が油断したばかりに、アダムにとんでもない傷を負わせてしまった。


「くっ…やはり四肢を切り落とされるのは痛いな。」


動揺するノエルとは裏腹に、アダムは冷静に呟く。

負傷したアダムと足を止めたノエルを守るように、ジャックは魔術による攻撃でブラッドリーの注意を引く。

ラウムのナイフが空を舞い、リリーの弾丸がブラッドリーを狙う。

「…リセットするか。」アダムはそう小さく零し、ノエルに目配せをした。


「7秒だ。7秒持ちこたえてくれ。」


「7秒?7秒ってなにを…。」


「いいから。リリー!頼む!」


そうアダムが吠えると、リリーは小さく頷きアダムに照準を合わせた。

そして、迷うことなく引き金を引く。

鋭い発砲音の後、アダムは頭から血を流しながら地面に倒れた。


「アダム…!?」


「おやおや、どこを狙ってるんだい。仲間を殺すなんて、やっぱり人間は滑稽だね。」


また、だ。

またあの日と同じ光景だ。

あの日のアダムも、頭を撃ち抜かれて死んだ。

どうしてこんなことを。今は共に戦う仲間ではないのか。

混乱する頭でノエルは立ち尽くす。

その間も、ジャックとリリーとラウムはアダムが倒れたことに動揺することなく戦った。

アダムが言った7秒。

それがどういう意味かわからないまま、時間が経過した。

アダムが撃たれてからキッチリ7秒後。

地面に伏していたアダムはゆっくりと立ち上がる。

その姿は、まるで何事もなかったかのように完全なものへと戻っていた。

切り落とされた腕は再生し、戦闘でついたいくつかの傷も全て消えていた。


「驚かせてすまないな。リセットしただけだぜ。」


「リセット…?リセットって…。」


「…生き返った、だと?」


驚くノエルと共に、ブラッドリーも目を丸くする。


「俺も不死の人間だ。どうだ?俺の血も飲んでみるか?」


ブラッドリーに向き直り、挑発的にアダムは微笑む。


「…辞めておくよ。君の血の匂いは…なんだか危険な香りがする。」


「そうか、残念だな。俺の血は灰になるくらい美味いらしいぞ。」


赤い瞳がアダムを睨む。


「…ルイスを倒したのは君か。あの子は食いしん坊だからね。誰彼構わず手を付けて毒を引いたか。馬鹿な子だ。でも、私の可愛い眷属を手に掛けたことは許せないな!」


そう言って、ブラッドリーはアダムに襲いかかる。


「それはお互い様だ。俺だってこの国に手出ししたことは許さないぜ!」


その長い爪を大剣で払って、アダムも反撃に出た。

それに続いて、仲間達も攻撃を再開する。

疲労で動きが鈍くなっていた先ほどまでと違い、アダムの動きは軽くしなやかだった。

アダムはリセットと言ったが、疲労までも回復されるのか。

疲れ切った仲間達とは対照的に、アダムは生き生きと剣を振るう。

けれど、状況が変わるわけではなかった。

こちらがいくらダメージを与えてもすぐに再生されてしまう。

アダム以外の仲間達は疲労が蓄積され、息が上がっていた。

夜明けまで1時間以上もある。

このまま朝まで持ちこたえられるのだろうか。


「うーん、埒が明かねえですね。」


ジャックが首を捻る。

考えていることは皆同じようだ。

自身の体力の限界が近いからか、皆の表情には焦りの色が見え始めていた。

ノエルは考える。この状況を変えるには、どうすればいいか。

何か、何か手はあるはずだ。

この状況をひっくり返す大きな切り札が。

ノエルは仲間の顔を一人一人見つめる。

そして、もしかしたらという可能性に気付いた。


「…ジャック。お前、天才魔術士だよな?」


「はあ?なんです、突然。」


ノエルの意図を理解できずに、ジャックは困惑の色を浮かべる。


「天才魔術士様なら、太陽くらい操れるんじゃないのか?」


「げえ。…マジで言ってます?」


ジャックは心底嫌そうな顔をした。

そして「うーん」と難しい顔をして頭を抱える。

ダメ押しで聞いてみたが、悩むということはできる可能性があるということだ。

しかし、ノエルにはそれがどれほどの負担がかかる魔術なのかはわからない。

天才魔術士と呼ばれるジャックですらも難しいことなのかもしれない。

けれど、それができるなら。

戦況は一気にひっくり返せるはずなのだ。


「できるか?」


ノエルの念押しにジャックはしばらく悩んだ後、覚悟を決めたように顔を上げた。


「俺に出来ないことなんてねえですよ。けど、それだけの大魔術だとさすがに詠唱が必要になります。」


「どのくらい時間を稼げばいい?」


「10…いや8分程。詠唱中は無防備になるんで、アイツを近付けさせないでくださいよ。」


「わかった!囮は任せてくれ。」


「あと、俺一人の魔力じゃさすがに不安があるので…。」


ジャックは考えるように仲間達を見渡す。

ノエル、アダム、エレナ、リリー。

そして、その視線はラウムを捕らえた。

魔力を持つのは、この場にはジャックを含めて2人しかいなかった。


「…ラウム。力を貸してくれますね?」


「当然でしょ。私の魔力全部あげるわ。好きに使って、マスター。」


ラウムは勝ち気に微笑み、その手をジャックの右手に重ねた。

ジャックは目を伏せ、アダム達の知らない言語を紡ぎ始める。

ラウムも共に目を伏せ、ジャックにその手を委ねた。

2人を囲んでゆっくりと魔法陣が描かれる。

その様子を見て、ブラッドリーの顔色が変わった。


「何を企んでいる…!」


ジャック程の天才魔術士が詠唱を必要とする大魔術。

それを警戒しないわけがない。

ブラッドリーが2人に向かって駆け出す。


「みんな!ジャックとラウムを守れ!」


アダムの声に、皆武器を構えた。

リリーのガトリングガンがブラッドリーの足を吹き飛ばす。


「二人のとこには行かせない!」


リリーは出し惜しみなく弾丸を打ち込む。

弾がなくなれば空になった銃を投げ捨て、すぐさまスカートの中から別の銃を取り出し構える。

もったいぶる必要はない。

詠唱が終わるまで2人を守れれば、こちらの勝利は確実だ。

リリーは途切れることなく弾丸の雨を降らせた。

ノエルとアダムも剣を振るう。

ノエルは正直体力の限界だった。

それでも、後数分。後数分耐えればアンジェラを守ることができる。

その思いだけで必死に剣を振るった。

戦闘の最中、エレナがリリーに何か耳打ちをしているのが見えた。

リリーは手を止めることなく頷き、エレナから何かを受け取った。

そのまま戦闘の隙をついてエレナが2人の方へ駆けてくる。

ノエルの疲労を治癒術で回復させながら、エレナはこっそりと耳打ちした。


「ジャックの詠唱が終わる直前、リリーがアイツに向かって駆け出すから、リリーを守って。」


「…何か作戦が?」


「あの子には麻酔銃を持たせてある。ただ、対人用の麻酔だから効き目はわからない。それに、飛距離も極端に短いものなの。あの子がアイツに向かって閃光弾を放ったらアイツの両腕を切り落として。ゼロ距離で確実にアイツに麻酔弾を当てて太陽の下に晒してやるわ。」


「わかった。」


ジャックが言った8分までもう少し。

完成を目前とした魔法陣がゆっくりと眩い光を放ち始める。

それを見て、リリーは散弾銃を投げ捨てブラッドリーへ一気に駆けた。

懐から閃光弾を取り出し、それをブラッドリーに投げつける。


「ノエル!わかってるな!」


「ああ!もちろんだ!」


3秒後それは眩い光を放った。

アダムとノエルは目を瞑りその光がおさまるのを待つ。

そして、目が眩んで立ち尽くすブラッドリーの両腕を二人の剣が同時に裂いた。

両腕を飛ばされたブラッドリーにリリーの麻酔銃が押し当てられる。

躊躇うことなく胸に6発。全ての弾がブラッドリーに命中する。

ブラッドリーの身体はゆっくりと地面に倒れた。


「なんだ…身体が…言うことを聞かない…。何かの薬物か…!?卑怯な…!」


身体を再生することもできず藻掻くブラッドリーを見下し、リリーが静かに言い放つ。


「戦闘に卑怯もクソもない。勝った方が官軍だ、って焔様がよく言ってたわ。人間を侮った貴方の負けよ。焔様の敵、討たせてもらうわ。」


数秒を待たずして魔法陣が完成し、ジャックは顔を上げた。


「喰らいやがれ!」


その言葉と同時に、ゆっくりと太陽が昇る。

暗闇に包まれていた街を日の光が照らす。


「太陽が…!」


影を求めてブラッドリーは不自由な身体で必死に足掻く。

けれど、無慈悲にも影は光に塗り替えられる。


「こんなとこで…やられるわけには…!」


太陽の光に晒された彼の身体は、ゆっくりと灰へと変わる。

やがてその姿を崩し、ブラッドリーだった灰は風に攫われ、静かに散っていった。


「倒した…のか…?」


「やった…!俺達の勝ちだ!」


アダムとノエルは互いに目を合わせ、感嘆の声を漏らした。


「はぁ…はぁ…。こんなこと…二度とやらねえですからね…。」


肩で呼吸をしていたジャックは、ブラッドリーの死を見届けてその場で倒れ込む。


「お疲れ様、ジャック。これほどの魔力を操るなんて、さすが私のマスターね。さすがに…私も疲れたわ…。」


ジャックに重ねるように、ラウムも地面に膝付いて倒れた。


「お兄ちゃん…!お姉ちゃん…!」


リリーは倒れた2人に駆け寄る。

エレナはリリーの肩を叩き、「大丈夫よ」と優しい声で言い聞かせた。


「ただの魔力の使いすぎよ。あれだけの大魔術を使ったんだもの。数日は目覚めないでしょうね。」


長い戦いが終わった。

焔というたった一人の犠牲を出して、この国は守られた。

ノエルの意地と作戦、アダムの力と不死の能力、ジャックの強大な魔術、ラウムの撹乱と魔力供給、リリーの銃撃と高い判断力、エレナの知識と治癒術。

六人の英雄たちの手によって、上位の吸血鬼を倒したのだ。

アンジェラは信じられない、というように目を見張っていた。


「アンジェラ。さっきの交換条件だが…。」


アダムはアンジェラに向き合う。


「ノエルの魅了を解いてくれ。」


アダムの願いに、アンジェラは静かに目を伏せた。










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