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神の業(わざ)を背負うもの  作者: ノイカ・G
第3章 帰らぬ善者が残したものは
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第41話 現れたもの ガダン

「」は日本語、『』はそれ以外の言語での会話を表しています。

基本的に護以外はみんな、日本語を喋ってはくれません。

 レッダに向けて振り下ろされた鉈は、彼の直前で横からの見えない激流に阻まれ届かない。それどころか、鉈ごと青年の体をレッダから遠ざけていく。

 水が流れているわけでもない。かといって突風が吹いているわけでもない。若くとも狩猟者(レヌート)としていろいろな場所に赴き様々なタイプの獣と対峙してきた青年だったが、そんな彼でも初めての経験であった。


『アサヒナ殿の読み通りになったな』


 突如、青年の視界に入る一本の槍。まだ暗い駅を照らす灯りで輝いて見えたそれを、青年は体を捻って回避するとそのままレッダから距離を取った。


 青年が改めてレッダの方を向くと、彼の前には長身のヒュートが立ちはだかっていた。


『あんたは……』


 レッダの目にも、友人に向けて槍が飛んできたように見えていた。しかし、そう見えていたのは金属製のブーツを纏ったヒュートの長い脚。


 ヒュートら虹槍(ジェイニリーア)騎士団(スキュアンド)は槍を持って戦うわけではない。鳥類から進化した彼らセヴァ、オスゲア大陸の言葉ではリウクオウという種が持つ長い手足を槍のように使い戦うことからその名がついた。ヒュートが身につけているブーツも、彼らが身につければただの防具ではなく二又の槍と化す。


『後でマモルさんにお礼言うっすよ』


狩猟者(レヌート)の青年は、レッダを注視しつつ反対の位置にいるもう一つの気配、ラーゼアにも気付いていた。すぐにレッダを追撃しなかったのはヒュートの他に彼を警戒していたからである。


 レッダは護と接触したことで、間違いなくオーツフの間者か寝返ったと疑われる。この事態を予期していた護は、自身が港を捜索に行っている間ラーゼアとヒュートに彼の尾行をお願いしていた。


『まさか友人を手にかけようとはな』


『レッダは俺たちを裏切った。そのノッポ野郎に助けられたのがその証拠だろうが!』


『ふむ……標準的な背丈だと思うが?』


『ヒュートさん、突っ込むところはそこじゃないと思うっす』


『時間稼ぎになると思ったのだが』


『誤算。思いの外、厄介な事態だ』


 突然、勢いよくヒュートの前に現れたヴァイリオが踏ん張る足で石畳を擦りながら静止する。彼は護やヒュートたちとは別に、集団(フェルトベル)を仕切っているアウストゥーツの仲間を見張っていたはずだった。息を切らしている彼をよくみれば、服はところどころ切られ頬や腕にわずかながら血が滴っている。


『ヴァイリオ!?』


『避けろ!』


 ヴァイリオの掛け声と共に、ラーゼアは急いでその場を離れる。すると、どこからか飛んできた黒い槍がラーゼアのいた場所に突き刺さった。もしその場にいたら、大腿を貫かれ地面と繋がれてしまっただろう。


 ラーゼアの表情が険しくなっていく。彼の目の前にあるのは、自分の恋人を貫いていたものと同じ槍。その形を忘れたことはなかった。


 すぐにラーゼアは槍の飛んできた方角に目を向ける。2メートルを超える長身、ワインレッドの髪を逆立てたモヒカン。ラーゼアも一度はあったことがある。アウストゥーツと共に自分たちの集落を訪れた男、名前はガダン。

 その顔に、ヒュートも見覚えがあった。【スクテキアの黒い雨】事件の折、剛鱗衆(グリオンウース)に所属していた戦士の一人。当時はまだ入ったばかりの新人で、噂では事件の後に剛鱗衆(グリオンウース)を抜けたとか。


『裏切り者の数が合わねえ。アディージェはどうした?』


 集落に来た時は率先して瓦礫をどかし亡くなった仲間たちを探し出してくれた人物だが、今のラーゼアには怒りの感情しか生まれない。


『どうしてその槍を持ってるっすか?』


『どうしても何も、てめえの仲間たちを殺したオーツフの連中を倒した後にもったいねえから拝借したまでよ』


『……そんな話が通用すると思ってるんすか……?』


 身につけていたベストのポケットに手を当てながら、今にも飛びかかりそうな形相でラーゼアは問いかける。ポケットの中に入っているのは亡くなった婚約者の形見(指輪)。すぐにでも目の前にいる男を拘束して真実を確かめたい。沸々と湧き上がる思いをラーゼアは必死に抑えている。


『何を言ってるかわからねえが、それが真実だからよ』


 そういうと、ガダンは持っていた槍を掲げて空に縁を円を描くように振った。それを合図に、ラーゼアたちの後方から笛の音が響き大型魔動車(エイヴォラント)が駅を離れていく。


『しまった!』


『行かせるかよ!』


 ヒュートが大型魔動車(エイヴォラント)に追いつこうと足に力を込める。しかし、ガダンの投げた槍が彼の視界を遮り、再び地面に突き刺さる。そのまま進み続けていたら、槍は確実にヒュートの両目を潰していた。


『俺がなんでわざわざこんなところに来てると思ってんだ』


『アウスドネスの側近がくれば、仲間の信用度も高まるというもの。うまく考えたものだ』


『……虹槍騎士団(スキュアンド)様は本当に間抜けで助かる』


 間合いを十分に取っていたはずのガダンの声がヒュートのすぐそばで聞こえたかと思えば、彼はいつの間にかヒュートの1歩手前まで来ており、地面に突き刺さった槍を握っていた。


 ガダンの声が止んだ直後にやってくる脇腹の鈍痛。そのまま後ろにいたレッダともどもラーゼアの方まで飛ばされた。彼らを襲ったのはガダンの槍だった。


『お前らの行動は全部お見通しなんだよ』


『なん……だと!?」


『んでもって、俺の役目はてめえらをここに足止めしとくこと。もっと強え奴がいっぱい来るのを期待してたんだが、拍子抜けだ』


 ガダンはわかりやすくガッカリしながら、ヒュートを薙いだ槍を肩に担ぐ。一見すると隙だらけに見える。しかし、今も響く脇腹の痛みがガダンへの警戒を一層強めていく。


『大丈夫っすか!?』


『腕が……』


 ヒュートと共に薙ぎ払われたレッダの左腕は、肘と肩の間にもう一つ関節が出来たと勘違いするほど変形し急速に赤黒く変色していった。

 普段から鍛え上げているヒュートですら肋に数本折られた。呼吸をするだけで強い痛みが襲いかかる。


『お前が悪いんだ、レッダ。お前がオーツフ(東の国)の味方なんかするから』


 怪我をしたレッダを見て、仲間だったはずの青年が左目から涙を流す。悲しむ左と蔑む右の顔。明らかにチグハグな表情に、警戒しているヴァイリオも違和感を感じずにはいられない。


『そういえば、お前も用済みだったな』


 担いでいた槍を右手で持ち直すと、ガダンは青年の方に向かって歩き出す。殺気も何も感じさせず、ただ仲間の方に向かって足を運んでいる。ヒュートもヴァイリオも、青年もそう感じていた。


『お疲れ。もういなくなっていいぞ』


『何を言って……』 


 青年が感じた鋭い痛みと何かが当たった衝撃。痛みを感じた部分が熱くなったかと思えば、すぐに冷や汗が出て寒気を感じる。恐る恐る痛みの感じた方を見てみれば、ガダンの持っている槍が青年の腹を貫いていた。青年を強烈な吐き気が襲い、赤黒い血液が喉を這がってくる。自分に何が起きたのか、青年は理解に苦しんだ。


『お前の役目は終わり。だから、もういらねえ』


『どう……して……』


 青年の血が、槍を伝ってガダンの手に迫っていく。青年の呼吸はどんどん速くなり、視界が霞んでいく。


『理由は言っただろ。お前は役目を終えたんだ。もうしゃべんな』


 ガダンは槍を勢いよく抜くと、そのまま槍を振って柄の部分を伝っていた血を飛ばしていく。腹に穴が開いた青年はそのまま膝から崩れ落ち、流れ出た血が石畳を赤く染めていった。


『さて、邪魔者はいなくなった。さっさと始めようぜ、虹槍騎士団(スキュアンド)副団長(クユーフオウク)!』


 槍を構え、ガダンの意識はヒュートへと向かう。ラーゼアやヴァイリオのことは眼中にない。ただただ、自分の相手と看做したリウクオウの男だけを見ている。


『私のことまで知っているのか』


『言っただろ。全部お見通しってよ』


 レッダのことをラーゼアに任せ、痛みを堪えながらヒュートは構える。すぐにでもこの場を切り抜けてレッダや彼の友人の治療をしたいし、大型魔導車も追いかけたい。しかし、一触即発の空気が場を支配し、ラーゼアもヴァイリオもその場を動けなくなっていた。

オーツフへ向かってしまった大型魔導車。すでに強者とわかるガダンに対してヒュートはどう戦うのか。


怪我をしたレッダや友人の運命は?


護は間に合うのか!?


次回を待って!!

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