恋路に俺を巻き込むな
お題は名所案内!
安定した収入を得たい。
それだけの理由で、俺は生まれ育った町の役場で働くことを決意した。
配属された部署は、観光部署。
こんな小さな町では、観光スポットといえるような場所はなく、お飾りのような部署だ。
まあ、出勤するだけで毎月給料が出るというメリットはあるが。
そうして、いつものように形だけは仕事している風を装っている日々を過ごしていたある日、一人の男が訪ねてきた。
「この町の、名所案内をしてほしい」
「はあ……。えー、目的はありますか?」
「別に、ただの暇潰しだ」
訪ねてきたのは、脂肪をお腹にありったけ詰めたような男だった。
暇潰しのために名所案内させる?何だその変わった趣味は?
「なるほど。了解しました。上司に確認してきます。ああ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「田中だ」
「田中様ですね。そこの椅子におかけになってお待ち下さい」
「ふん」
田中は終始不機嫌そうな態度を崩さない。そのことに不満を覚えるが、口にするわけにもいかない。
俺は、寝ている上司の元へ行く。慎重に起こさないと、残業を押し付けられるので、細心の注意を払う。
「部長。起きて下さい」
「……ん?なんだね?上杉くん?」
「名所案内をしてほしいというお客様が……」
「ん?そんなのお前が適当に対応しとけ」
「ですが、許可の申請などは?」
「んなもん知らん。自分で考えろ」
言いたいことを言うと、満足したような様子でまた眠りにつく。
その顔面を殴ってやろうかという衝動が走るが、なんとか自制する。
俺は、一度大きく深呼吸すると、不格好な営業スマイルを浮かべながら、田中のところへ戻っていく。
「田中様。許可が取れました」
「この町で一番うまいアイスが売っているところへ案内しろ」
「は、はい。分かりました……」
田中は、俺が戻ってくるなり、俺にそう言い放った。
一番うまいアイスが売っているところだと?
知るか!自分で調べろ!ググれ!
俺達は一旦町役場を出る。
太陽が燦々と照りつける中を歩くのは中々大変そうだ。
「目星はついたか?」
「いいえ、まだ。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わん」
許可をもらったので、じっくりと考える。
一番うまいアイスを売っている場所、か。
アイスが特産品というわけでもないこの町で、一番うまいアイス?
ガ◯ガ◯君しか思いつかないぞ。
うーん。コンビニとかスーパー以外でアイスが売っているところとなると、あそこくらいしか知らないぞ?
「お客様はワクワク堂のアイスが食べたいということでしょうか?」
「……そうだ」
どうやら、正解のようだ。
ワクワク堂とは、お菓子が沢山売っている古本屋のことだ。
「じゃあ、早速……」
「いや、いい。次の質問に答えろ」
一問で終わらない!?ていうか、いつの間にか謎解きタイムになってやがる!
「ワクワク堂の近くにある、美しい場所に俺を案内しろ」
「は?」
次は、前の質問よりも抽象的なものだ。
美しい場所?
ワクワク堂は、帰る時にいつも通っているが、近くに美しい場所なんてないぞ?
あるのは田んぼくらいだ。
「何か他にヒントは?」
「知らん」
「知らない?どういうことでしょうか?」
田中はしまった、という顔をし、やがて、観念したように話始めた。
「……これは、離婚した妻からの手紙に書いてあったんことなんだ。「この町で一番うまいアイスを売っている場所の近くにある美しい場所で待ってる」と」
「なるほど。そういうことでしたか」
そんなことに俺を巻き込むな!ていうか、それって妻を探してるってことだろ?なら、手紙が出された住所に行けば妻いるだろ。
そのことを、田中に言うと、とても驚いた表情を浮かべていた。
いや、馬鹿か。そのことに気付けよ。
「ありがとう。これで、妻に会える……!あの時の誤解が解ける!」
「それは、よかったですね。力になれてなによりです」
「ありがとう、杉村!」
「上杉です」
そう言うと、田中は役場の敷地から出て行った。
何の時間だったんだ?
そんなことを思いながら、俺は役場に戻って行った。
余談だが、田中は無事振られたらしい。
書け上げた時間45分。本文40分。推敲5分。




