マーメイドは歌わない
お題はマーメイド!
「なあなあ、マーメイドを見た、って言ったら信じるか?」
「言葉だけなら信じないな」
「じゃあ、写真付きだったら?」
「そしたら信じるかな。まあ、だからって言いふらすとかはしないけど」
学校の昼休み、友人の滝沢がそんなことを聞いてきた。
現実こそ至高と言うこいつがそんなことを口にするのは珍しいので、内心少し驚いている。
どうしたんだ?頭でも打ったか?
「それはお前が見たのか?」
「いーや、部活のやつら。五人くらい目撃者がいるらしいぜ」
「へー」
「興味ないか?マーメイド?」
「皆無」
「まじかー」
マーメイドなんかわざわざ見に行く必要ないだろ。
「じゃあ、俺にじゃんけんで負けたら放課後目撃された場所に行くっていうのはどうだ?」
「一人で行け。俺を巻き込むな」
「そこをなんとか……!」
「無理。却下」
そんな面倒くさいことする意味ないだろ。
「仕方ない。場所だけ教えておく。興味があったら行ってみてくれ。浄華池ってとこだ」
「……そうか」
「何今の間?」
浄華池。それは、俺の家の近くにある池だ。
ていうか、帰路にある。なんで、池にマーメイドがいるんだよ。
そんなツッコミを入れていたら、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。
滝沢は、いそいそと自分の席に戻っていった。
……行ってみるか。どうせ、あいつはまた誘ってくるだろうから。
「楽しみだな。マーメイド」
「現実主義者のお前がやけに浮かれてるな」
「俺は最近ラノベにはまっているから、立派な非現実主義者だ」
「ハリー・ポッターをラノベと定義するのは無理がある」
せめて、転生系読んでから言ってくれ。俺もラノベ知らんけど。
そんなこんやで、俺達は浄華池公園に到着した。
池は、公園の真ん中にある。
「マーメイドいるかな?」
「さあな」
「てか、なんか歌声聞こえてこない?気のせい?」
「……確かに聞こえてくるな」
この曲は……何だ?知らない曲だ。
軽快なリズム、ありふれた言葉を羅列したような歌詞。
これは――
「自作か?」
「多分な」
どうやら、滝沢も同じことを考えていたようだ。
てか、歌うならマーメイドじゃなくて、セイレーンじゃね?
俺達死ぬの?食われるの?
「とりあえず言ってみようぜ」
「ああ」
流石に食われないと思うが、もしもの時もある。
俺は滝沢を盾にして進む。
やがて、池が見えてきた。
近付くにつれて、歌声が大きくなる。
俺の目に映ったのは――
「あれ?お前のお姉ちゃんじゃね?」
「そうだな。無視だ無視」
「えー?そこは話しかけろよ」
「面倒い。お前がやれ」
まさかの俺の姉だった。こんなとこで何をやってるんだ?
滝沢は渋々といった感じで、姉に近付いていく。
「あのー、久しぶりです。滝沢です」
「……?ああ、諒ちゃんの」
「はい。あ、諒ちゃんいますよ」
「お前が諒ちゃん呼びすんな。気色悪い」
「酷い!辛辣!」
「諒ちゃんこんなとこで何やってるの?」
「それはこっちの台詞だ。歌の練習なら家でやれ」
「ええ?折角ここ使っていいって許可とったのにぃ、それは勿体ないでしょ〜」
「自作の曲をここで練習するとは……」
「その度胸を褒めてほしいよ!」
コロコロと笑いながら、バシバシと俺の背中を叩いてくる。
やめろ。痛い。
俺は姉の攻撃からなんとか抜け出す。
「じゃあ、昨日ここで見たマーメイドは心美のことだったのか?」
「そうなんじゃないか?」
「ん?昨日?私、昨日は大学行ってたからここにきてないないよ?」
「確かに。朝一で飛び出しってたな」
「え?じゃあ、マーメイドは何なの?」
滝沢が素朴な疑問を口にした、その時だった。
――池から大きな水柱が立ったのは。
書き上げた時間40分!本文37分。推敲3分。




