姉弟ラブコメは開幕しません
お題は一心同体アンド冷凍!
模試というものは、どうしてこうも無慈悲なのだろうか?
机の上で絶望しながら、俺はそんなことを考えていた。
「お疲れ様……って言いたいけど。秀典、あんた大丈夫?」
「沙織。俺は無事だ。しかし模試は無事ではない」
「そんなの見れば分かるよ……」
話しかけてきたのは、幼馴染の出雲沙織だ。
女子の幼馴染とか、もうラブコメやんとよく言われるが、別に俺たちはそういう関係ではない。
なんというか、姉弟みたいな関係に近い。
「今日の弁当は冷食で我慢してね。昨日は夜遅くまで勉強してたんだ」
「うぅ……。別に冷食でも気にしないのに……」
「私が気にするんだよ。さ、食べよ」
俺は、友人の机君から離れ、背筋を伸ばして座る。
そして、箸を持って、手を合わせる。
「「いただきます」」
今どき、律儀にいただきますという人は減ってきているが、俺はこれがないと食べていいのか心配になってしまう。背筋を正すのも、それが理由だ。
「これ本当に冷食か?」
「その唐揚げはレンチンじゃなくて揚げたんだよ。冷食でも、少しはマシになるからね」
「そんな手間がかかってるなんて……!」
さすが姉貴!俺は、心の中で沙織に敬意を表するのだった。
「で、模試はどうだったんだ?」
「それは聞かないという約束では?」
「そんな約束をした覚えはないね」
「では一言だけで。顔面蒼白」
「聞く限り、最悪と受け取るよ」
そう、最悪だったのだ!数学は半分も埋まらんわ、国語は漢字全部ミスるわで散々な目にあった!
……これは最悪以上の最悪だな!
「沙織の姉貴はどうだった?」
「私は以外とできたのよ。自己採だと八割くらいかな……」
「凄すぎだろ……」
あの模試で八割とか、学年一位だろこれ。
改めて、沙織の姉貴の凄さを実感するのだった。
「出雲姉弟の弁当は華やかでいいですな」
「おわっ!恭子!びっくりするじゃない!」
「もうもう、そう怒らないで」
頭上からのっそりと声をかけてきたのは、沙織の友人の漆原恭子だ。
ミステリアスな雰囲気が漂っており、神出鬼没だ。
「で?これで冷食しか使ってないって、ほんと、沙織の料理の上手さはどうかしてるよ」
「ちょっと、さらりと盗まないで……」
「「おい、箸食べ物を刺すな!」」
「ええ!?」
恭子が驚いたような表情をするが、さっきのは怒られて当然のことだ。
箸はあくまで掴むための道具であって、断じて刺すためのものではない。その使い方を誤るのは、箸への冒涜なのだ。
「ごめんごめん。怒られたのと、二人の一心同体っぷりに驚いちゃったよ」
「さっきのは誰でも怒ると思うけど……」
「箸で食べ物を刺したから怒る人は、現代ではレアな人種だよ。出雲姉弟は変わってるな」
「「くっ……!さっきから姉弟姉弟言ってるけど、姉弟じゃない!」」
「またでた!」
「「愉しむな!」」
全く、どれほど俺たちをからかったら気が済むんだか……。
「刺すのはやめるよ……。唐揚げもらうね」
「ちょっと、許可してないんだけど……」
「「あっ!ねじれ箸!」」
「絶対狙ってるよね!?」
恭子が目を大きく開けてそう叫ぶが、そんなことは関係ない。
掴んだ唐揚げが、箸からスルリと抜けてしまったのだ。
こういうことが起きるから、ねじれ箸は駄目なんだ。
「「間に合え……!」」
よし!なんとか掴んだ……。
「「あっ」」
手が。沙織の手が俺の手を掴んでいた。
当然だ。二人で同じものを掴もうとしていたのだから。
「「ああっと、えーと……」」
「あんたら……。胸キュンシーンまでシンクロするな――!」
その日、確かに出雲姉弟?の関係は進化した。
書き上げ時間27分。本文25分。推敲2分。




