もう見えない貴方への
お題は透明人間!
それは帰り道でのこと。
路地裏を歩いていたら、背後から足音がした。
人気がない場所なので、驚いて後ろを振り返ってもそこには誰もいなかった――。
「ということが昨日あったんだ」
「なるほど。勘違いの例えか。お前、例えるの下手だな」
「馬鹿、ちげーよ。これはホラーだろ!人気のない路地裏、背後から聞こえた足音、しかし誰もいない……。こんなの、ホラー以外のなにものでもないだろ!」
「生憎、俺はそんな割り切った思考はできないんだ」
そもそも、ホラーなんて現実性や再現性に欠ける。
たった一度見聞きしたからって、その状況が何日も続かなければそれは偶然のこととして片付けられてしまう。
「お前はロマンがないな。それでも漢か!?」
「男だが?」
「漢字が違う!」
その声を皮切りに、昼休みが終わった。
「ここだ」
「ふーん……。雰囲気だけは確かに何かがでてきそうだな」
「怖気づいたか?」
「ちょっと」
「そんなあっさり認められると、反応に困るんだけど?」
――放課後、俺は光瀬に強制的に件の路地に連行されていた。
そこは、暗くてジメジメしていた。
「こんな場所を通って帰るとか、お前の家どんな秘境に建ってるんだよ」
「ここは近道だよ!ここ抜けた先は普通の住宅街だ」
「そうなのか」
俺は、少し震える足を無理矢理前に進める。
コツコツコツコツ。アスファルトの地面を叩く音だけが、響く。
――それは不意にやってきた。
「……あれ、今足音する?」
「本当か?」
後ろを歩く光瀬の言葉の確かめるために、一度歩くのをやめる。
すると――
「コツコツコツコツ」
「「……!」」
確かに、俺たち以外の足音がする。
無視して再び歩き始めると、
「コツコツコツコツコツコツ」
という風に足音のリズムが早くなった。
心なしか、音も大きくなっている気がする。
「なあ、九井。これって……」
「おい光瀬。この路地ってこんなに続いてるのか?」
「へ?……確かに変だ。こんなに長いわけないぞ!?」
「おいおい、足音に続いて無限に続く路地だと?さすがに情報量が多いって」
「コツコツコツコツコツコツコツコツ」
「スマホ……あれ!?繋がらない!?どうなってる」
「コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ」
「と、とりあえず早くここから離れよ――」
「コツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツコツ」
「どうするどうする――!」
そして、記憶は途切れる。
「そんなことが……。こんな普通の路地で?」
「はい。まあ、半ば都市伝説みたいなものですけどね」
二人の男が、路地の入口に立っている。
「透明人間に無限地獄……。ここには二つの都市伝説が同時に現れるんですか」
「ええ。でも、信憑性なんてありません。というのも、少年たちがいなくなってからというもの、その現象が起こらなくなったんですよね」
「そうなんですか……」
細身の男が路地を遠い目で見つめながらそう呟く。
「ところで、今日はなぜいきなりこんなことを?」
「えーと、昨日たまたまこの路地の記事を読みまして。それで」
「そうだったんですか。このあとちょっと用事があるんで僕はここで。それじゃ光瀬さん」
それじゃ、と細身の男――光瀬は路地に向かって、まるでそこにいる誰かいるみたいに、そう言った。
その瞳に、かつての自分を浮かべながら。
書き上げた時間30分。本文28分。推敲2分。




