愛とか恋とか下らないわけない
お題は存在証明!
愛とか恋とか。そういうのは、自分が他人から認識されているという自己満足――所謂存在証明である。このことは、周知の事実だと思う。
「周知の事実か……。それには無理がある。純愛は愛で、それ以下にも以上にもならんだろ」
「不純愛だったら存在証明だろ」
「つまり俺たちって、存在している証明ってできないの?」
「観測論ってやつだな」
それは違うだろと思いながら、冴島が言った言葉を咀嚼する。
愛とか恋。それは俺たちとは無縁の世界である、というのは自明なんだがな……。
これ自分で思ってて悲しくなるな。
「まあ、確かに過言かもしれないけど、今の時代はそんくらいに思ったおかなきゃ生きてけんぞ?未来の地位を保証するものなんて一つもないからな」
「深そうで浅いが、案外響く言葉だな」
「結構かっこう付けて言ったのに、それは酷くない?」
それは何気ない日常の切り抜き。
どこにでもあるわけじゃないが、確かに存在する会話の一つ。
それを実感する日がくるとは夢にも思っていなかった――。
「お兄様、いや悟。お前とは絶縁です!」
「………………は?」
そんな言葉を投げられたのは、休日の昼下がりのこと。
自室でくつろいでいた俺は妹からの言葉の意味を掴みかねた。
「悟、貴方への愛は尽きました。私は今日から貴方を兄と認めません」
「そ、それはどうしてだ?いきなり過ぎないか?」
「いえ、前々から見限ろうとしていました。しかし、愛する兄であるという気持ちがそれを阻んできました……。しかし!もうそれも我慢の限界を迎えました!そう、貴方は我慢強い私をも怒らせたのです!」
「ちょちょ待て待て……。だからその理由……」
「はあ……。私はがっかりです。それくらい自分で考えたらいかがでしょうか?」
冷めた目、冷たい声が俺を真っ直ぐに射抜く。
それは俺を身震いさせ、恐怖という感情を否応なしに心に刻む。
妹の――明海のそんな姿は、物心ついた頃から一度も見ていない。
故に、この状況は異常事態であると言えるのだ。
思い当たる節は――ない、と一概には言えない。
妹に辛く当たった覚えはない。しかし、ご飯を作ってくれる妹が当たり前だと思ってしまっていた自分もいた。
「あの、明海」
「……なんでしょうか?」
「そのありがとう。いつも。それが言えてなかった……。迷惑ばかりかけていたよな」
「……それだけ?」
「え?今なんて――」
「本当にそれだけですか?私が……明海が一番求めているものがありません!」
その瞳に宿っていたのは、切実な願いと祈り。
それは、明海の魂の叫びに聞こえた。
「えーと……ご飯いつも美味しいよ」
「嬉しいです。でも違います」
「可愛いよ」
「それも嬉しいですけど、違います。もっと、存在証明に関わる重要なワードですよ!」
存在証明。その言葉を聞いたときに思い出したのは、記憶の彼方にある会話。
その時冴島が言っていたのは――
「明海、大好きだ」
「そう、それです!お兄様!やっぱり明海のお兄様はお兄様しかいません!私も大好きですお兄様!」
「うわっ!」
お兄様の言葉密度が高い台詞を言うと、明海はそのまま抱きついてきた。
そう言えば、こういうことも年々やらなくなっていた気がする。
「明海……ごめんな」
「いえ!冴島さんとの会話を思い出せてよかったじゃないですか!これでお兄様が妹への愛=妹の存在証明であることを忘れることはありません」
「そうだな……ってあれ?どうしてそれを知って……」
「あ!それ以降はNGですー!」
意味不明なことを言う明海に、俺は苦笑で返すことしかできなかった。
書き上げた時間32分。本文30分。推敲2分。




