友達を蔑ろしたお前へ
お題は発売日!
四限の終了を知らせるチャイムがなり、クラス中が一気に騒がしくなる。
その様子を呑気に眺めながら俺――清水忠史は緩慢な動作でカバンの中からお弁当箱を取り出す。
「さて……いただきま……」
「清水!今日が何の日か覚えているだろうな!?」
「おわ!?」
バン!といきなり叩かれた衝撃とともにそんな声が聞こえてくる。
かなり強いし、大きめだったので俺は掴んでいた卵焼きを落としてしまった。
俺の弁当の中で唯一冷食じゃないやつなのに……!
「おい、聞いてるか!?今日は『クラ転』の最新巻発売日で……」
「まず謝れよ!俺の落とされた卵焼きをお前は弁償してくれるのか!?」
悲痛な声で、涙を滲ませながら訴えた。
今日の卵焼きは、結構上手に出来たのでそれなりに悲しかったのだ。
「はあ?別にそんなのどうでもいいだろ?それよりも『クラ転』が……」
「どうでもよくないから謝ってくれって言ってんだろ!?それはさすがに酷いだろ……」
「……はー……。仕方ねーな。悪かったよ。お前は、友達より卵焼きを優先するほど器が小さいんだな」
「は!?そいうことじゃないだ……」
ろ。と、言うとしたところで、瀬島は去っていってしまった。
確かに俺も言い過ぎたところもあった……いや、ないな。
俺は一貫して謝れって言ってきたんだ。親しき仲にも礼儀ありと言うし、俺は間違っていない。
そう自分を慰め、落ちた卵焼きを拾ってから俺は再び食事を開始した。
「おい!?『クラ転』の最新巻発売日だろ!?もっと喜べよ!」
そんな声を聞いたのは、ホームルームが終わり、下駄箱に向かおうとしていた道中のことだ。
声で、瀬島であると分かった。
俺の中の野次馬精神に抗えず、聞き耳を立てることにした。
「だからさ……。俺別にその『クラ転』だっけ?に興味なんてねーよ」
「どうしてだよ!?現代人で『クラ転』知らないやつはいないだろ!?」
「いやここにいるだろ。とにかく、俺はそれを読まないからな。買うのに付き合うくらいはいいけどさ……」
「はっ!お前が『クラ転』知らない流行遅れのやつでがっかりしたよ……。付いてこなくていいよ。お前がいると、『クラ転』が可哀想だしな!」
瀬島と話しているのは、俺の友達である金児金太だと分かった。
それにしても瀬島……。こんな言い方はさすがに酷いだろ……。
俺は、瀬島が立ち去っていくのを確認すると、金児に近付く。
「金児、さっきの瀬島に言われたこと気にすんなよ?」
「清水……ありがと。俺さ結構優しいタイプだと思ってたんだけど、さすがにさっきのは怒ったぜ」
「それが普通だよ。逆にすぐに言い返さなかったお前はすごいよ」
「まじでありがと清水」
「気にすんな!友達だろ?」
「そうだな!じゃあ、帰ろうぜ!」
そうして、俺と金児は帰路についた。
翌日の朝。
「いやー面白かったな、『クラ転』!ようお前ら!『クラ転』読んだか!?あー、お前らが読むはずもないか!」
俺と金児が話しているところに、瀬島が乱入してきた。
ここまでは想定通り、あとは……
「なあ瀬島」
「何だよ金児?」
「お前さ……本当に最低な人間だな!」
いつもは温厚な金児が、こうな風に怒ればさすがに瀬島も驚くだろう。
案の定、瀬島は口を大きく開けて、呆けた顔をしている。
「本当そうだわな。お前、こっちくんな。あと一生喋りかけてくんな」
「は、はあ!?なんだよその態度!?親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!?謝れよ!?」
「全て自分に言っているようだが、反省と受け取っていいのか?」
「はあ!?」
「ま、こんなやつ親しくもないし、そもそも顔も知らないからな。金児、給水器行こうぜ」
「そうだな」
「お、おいお前ら!待てよ!待ってくれよ――!」
その後、瀬島が必死に謝ってきた。
俺は無視してもよかったが、金児が「さすがにもういいだろ」と言ったので、許す方針になった。
あー、まじ金児神!
書き上げた時間33分。本文32分。推敲1分。




