体力切れにはご注意を
お題は急成長!
夏休みという天下が終わり、二学期が始まろうとしていた。
怠いを通り越して、無の境地に達した俺の心は最早無敵だ。
何でもかかってこいという心構えで家を出た俺は、高校までの無駄に長い道のりを鈍った身体で歩く。
「よう、石原!」
「よう、関根……お前どうして元気なんだ?」
「お前こそどうしたんだよ!そんな気怠けな顔して!」
「この能面フェイスに文句を言うか、愚か者め……」
無敵と言ってもやはり心に刻まれた悲しみは癒えないのだ。
なのに、関根はそんな雰囲気が一切ない。
あんなに課題に追われていたのに、どういう心境の変化だ?
「三日前のお前と様変わりしてるな?」
「ああ!心機一転だ!新学期から頑張っていこうな!」
「お、おう……。まじどうした?お前気持ち悪いぞ……」
「辛辣だな!はっ!」
まさに無敵だ。
自称無敵は本物の無敵の前では、塵と同じ。一瞬で心が瓦解した。
帰ろうかな、俺。
「こういうのを急成長って言うんだよな……」
「なんて言った!?」
「急成長したなって言ったんだよ」
「ありがとう、その気持ちの十割十部を受け取る!」
いやこいつ気色悪いな!
三割でいいんだよ、三割で。
「お、石原アンド関根じゃん。押忍」
「おお、河越。お前夏休みどっか行ったか!?俺は鹿児島だぞ!」
「おい石原。こいつどうしたんだ?頭打った?覚醒剤?いつもの関根じゃないぞ」
「だろ、こいつまじでどうしたんだ……」
「これスピード?」
「お前絶対そっち側だな」
「おいおい、二人でこそこそ話か!?俺も混ぜろよー!」
「この変わり方災害だろ。アイスか?」
グダグダと意味もなく喋りながら学校までの道のりを歩く。
周りは大体青菜に塩みたいな感じだ。やっぱり、関根が異常なのだ。
「関根はどうしてそんな変わったんだ?以前までのお前なら絶対目が死んでるパターンなのに……」
「まあまあそこはいいじゃんか!さ、早く学校行こうぜ!」
俺と河越は互いに顔を見合わせ、苦笑しながら関根のあとを追った。
「お前ら課題は終わったか?」
なんとなく禁句にしていた「課題」という単語を、一番最初に切り出したのは河越だった。
「さすがに終わってるぜ、昨日」
「まあ、さすがに終わってるよ、一昨日」
「一日負けた」
「一日勝った。で、関根お前はどうなんだ?」
「え、俺か?もちろんやってないぜ!」
空気が凍ったとはまさにこのことなのだろう。
さも当然のように言われたので、戸惑いよりも先に理解が生まれた。
「そ、そうか……。え?どうしてそんな顔できんの?お前人生五回目だったりする?」
「いや、一回目だ!吹っ切れたってやつさ!」
「その次元を超越している気が……」
案の定。というより、その考えを忘れるくらい開き直っていた。
うん。こいつやっぱり無敵だ。
「お前尊敬するわ」
「だな、さすが神」
「どうしたお前ら!?」
その後、関根は急退化した。
書き上げた時間31分。本文28分。推敲3分。




