信頼を投げ捨てろ
お題は不眠不休!
「今日から、不眠不休で勉強し続けたとして、夏季課題が終わるのはいつになると思う?」
「そうだな。先生に強制的にやらされることを考慮すると……九月二日じゃないか?」
「あと二日で終わるか?絶対無理だ。終わった」
夏休み最終日の午前十時。
こうなるから早めに宿題を済ませておけ、という忠告を聞き入れなかった、愚かな友――市川奏汰は、俺に泣きついてそんな言葉を口にした。
泣いても喚いても、俺には一瞬で宿題を終わらせられる力はない。
ていうか、別に課題はそこまで多くない。
計画的にやれば、七月中に終わる量なのに……。
「まあなんだ。頑張れよ。俺が監視しといてやるから、レポートくらいは終わらせろ」
「うぅ……。こんな俺を見捨てないでいてくれるのはお前だけだ、智和!愛してる」
「抱きつくな、気色悪い。鼻水がつく」
「構わん!」
「俺が構うわ」
凄い力で抱きついてきた奏汰を、なんとか引き離し、机に向かわせる。
ポケットの中に入っていたスマホは、当然だが回収した。
「おわ!?いつの間に!?」
「黙れ、とっとと始めろ」
「くー……。鬼畜!」
「うるせー」
奏汰は、ブツブツと呪言を吐きながらも、なんとかレポートを始めた。
こいつも、やればできるやつなんだなと感心していた。
「なあ、智和。ラインきてない?」
「お前やっぱり、どうでもいいわ」
「あぁ!酷い!ごめん!」
期待したのが間違いだった。こいつの集中力ミジンコ以下だろ。
俺は、泣きつく奏汰を蹴っ飛ばし、部屋から出ていく。
当然、スマホは没収したままだ。
翌日。
夏休みの余韻に浸っていて、どこかクラス中が浮ついている……というわけでもない。
なんなら、いつもより沈んでいる。
その理由は明白で――
「健人。お前宿題終わってないのか?」
「そうなんだ……。どうして、高校生にもなって日記の課題なんてだすかな!?」
「捏造ファイト」
「お前ずりーぜ」
「失敬な。ネタ考えんのだって、案外ムズいんだぞ?」
クラスの大半の連中は、日記の捏造に取り組んでいた。
高校生になって日記の宿題とは中々ふざけているが、どうやらこの学校の伝統のようで、先輩の中には、誰が一番本物っぽい日記を書けるか勝負するもの好きもいるらしい。本物を書くという選択肢はないのだろうか?
学期始めということもあり、席順は名前順だった。
隣の席の奏汰はまだきていない。あのあとどうなったのかは知らない。
少なくともスマホは使えなかったはずなので、捗ったはずだ。
適当に奏汰のスマホをいじってみる。
パスワードを間違えまくっていたら、使えなくなってしまった。
その時、隣から椅子を引く音が聞こえた。
「よう、奏汰。どうだった……って、お前目が終わってるぞ。介錯いるか?」
「おは……智和……いや健人か?俺、切腹してない……」
「智和だ。やっぱり、お前目が死んでるぞ」
「あぁ……。不眠不休で頑張ったからな……。なんとか終わったぞ」
おお、まじか。こいつすげーな。
一日で課題終わらせるか。てっきり、仮病使って休むと思ってたぞ。
「てっきり、仮病使って休むと思ってたぞ」
あ、口に出てた。
「ううん?その手があったか……!俺って馬鹿だ……」
「やっと認めた……じゃない、そんな卑怯な手に逃げなくて正解だ」
「あんがとよ……。やべ、寝るわ……」
「了解」
不眠不休だったんだ。寝るのは当然のこと。
「智和、こいつ宿題終わったのか?」
「どうやら終わったらしいぜ、健人」
「えぇー!?奏汰宿題終わったの?絶対嘘だろ」
「いや、あの目の感じを見るに、不眠不休で頑張ったのは本当だ」
「そうなのか……。すげーな。見直したぜ」
「だな」
おかしと思いつつも、こいつの様子からは嘘は伝わってこない。
それに、終わったという嘘をついても何の得にもならない。
このときの俺は、知らなかった。こいつの終わったが何を意味するのか。
「ところで、智和。バレない仮病のやり方って知ってるか?」
「ん?どうしてそんなことを聞くんだ」
「いやだって、俺課題終わってないし。お前が言ってた仮病使って課題やるやつやろうと思って」
「は?お前課題終わってないって?え?どういうこと?さっき終わったて言ってたよな?」
「え?それは日記のことであって、課題が終わるわけないだろ?」
「つまりお前は不眠不休で日記を終わらせたと?」
「おう、そういうことよ!結構大変だったぜ!」
「今日の帰り、海行くぞ」
「へ?どうしていきなり?」
「お前のスマホ海に投げる」
「は?え?そうじゃん、奪われてたんじゃん!え?ちょ、それはないって!ねー――!」
書き上げた時間39分。本文35分。推敲4分。




