やっぱり説明書は求めない
お題は説明書!
「人生に説明書があればいいのに……」
「あるぞ」
「まじで!?どこに!?」
「人生の説明なんか、死んだら終わりのゲームで終わりだろ」
「もうちょい詳しいのプリーズ!」
「彼女は簡単にはできない」
「確かに!」
というコントを繰り広げているのは、バイトの休憩時間中のことだった。
いきなり、おこちゃま哲学を呟いたのは、愚かな友――相川俊だ。
定期的にこのようなやり取りをしており、正直無駄だと思うが嫌いではない。
「人生に説明書なんてねーんだよ。いつも暗中模索状態だ」
「微妙に芯をつくような言葉だな。まあ、実際そうなんだけどな」
「俺たちみたいな若輩が、説明書なんて求めたら駄目だろ。これからの人生長いんだぜ?」
「そうかー?ゲームだって説明書がないと進められねーぞ?」
「攻略本の間違いだろ」
こんな年から、人生勝ち組狙ってちゃいつかはコケる。
俺の兄がそうだった。
そんな反面教師もあり、俺は人生に説明書を求めない。
「あのな、説明書がなくた……」
「君たち、中々興味深いことを話しているね?」
「「……!」」
二人同時に、頭の上にビックリマークだ。
話しかけてきたのは、暴力的な美貌を、惜しみなく晒している先輩――江坂君江さんだ。
年齢は二十歳だそうだ。あくまで自称だが。
俺はこの人が苦手だ。なので、即刻この場から退散しようとするが――
「君江さんじゃーないですか!こんにちは!」
「フフフ。今はこんばんはだよ、相川君?」
「あ、そうなんすか!こりゃ失礼!」
「おい、俊掴むな。俺はトイレに行くんだ」
「まあまあ、そう怒らず。そんなの我慢しろよ」
俊が、俺の腕をガッチリホールドしているせいで、逃げようにも逃げられない。
ジタバタしている内に、強制的に席に座らせられてしまった。
「氷川君、遠慮しなくていいんだよ?」
「遠慮などしていません。心配無用です」
「相変わらず冷たいなー」
「おい、仁!先輩に対してなんて失礼な態度だ!」
「俺のどこが失礼だった?」
「顔!」
「理不尽過ぎるだろ」
「ハハハ!君たちは仲良しなんだね」
顔が失礼とは失礼な。
確かに少し顔をしかめたけれど。
ほんのちょっとだけどな!
「で、そうだ。君たちは、人生の説明書とかなんとか言ってたよね?それはどういうことなのかな?」
「それはっすね!こいつが彼女できないって悩んでたんで、俺がアドバイスしてたらそういう話に発展したというか、なんというか……」
「おい、虚実を混ぜるな。俺は彼女が欲しいわけではない」
「本当に?氷川君は彼女欲しくないの?」
「はい」
「それが私でも?」
「いや、それが一番い……ゲフンゲフン。失礼、鼻詰まりが」
「鼻詰まりで咳は出ないだろ」
「うるせー。余計な口出しすんな」
そう言って、軽く小突くと、
「事実じゃん!」
という正論が返ってくるが、無視。
事実だろうとなんだろうと、余計なものは余計なのだ。
「まあ、私から言えるのは、彼女を作るための説明書はあるということだよ」
「……!まじすか、それって何ですか!?」
先読みしていたとしか思えないほどの速度で、俊がその話題に噛み付く。
「何事も基本は相手の情報を知ることだよ。情報とはつまりボールのこと。ボールがなければキャッチボールはできない」
「確かに!つまり、気になる女の子と喋るためには、まず情報を集める必要があるんですね!?」
「そう。そして、その時に気を付けなきゃならないのは、噂などの、信憑性に欠けるものを信じないこと。あくまで、自分が見聞きしたものでキャッチボールをするんだ」
「了解っす!早速なんですけど、先輩の好きな食べ物ってなんすか!?」
「ハハハ。この会話をしたあとだと、期待しちゃうけど、いいの?」
「期待して、勘違いして下さい!ついでに溺れて下さい!」
「君は面白いね」
露骨過ぎるアピールも、軽快に躱す先輩には、素直に脱帽する。
まあ、悪い意味でとれば思わせぶりだがな。
「相川君は、本気で彼女がほしいの?」
「はい、欲しいです!」
「じゃあ、この説明書をあげよう。君の知りたいことが書かれているはずさ」
「恩に着ます!」
そう言って、二つに折った紙を俊に渡すと、先輩は部屋から出ていった。
なにしにきたんだ?
「おお、情報を集める時にはこうすればいいのか!」
「何て書いてあるんだ?」
「ジーピーエス?とトウチョウキ?ってやつを気になる人のバッグに入れれば、正確性の高い情報が手に入るらしいぞ!」
「馬鹿、犯罪だ」
俺は紙を取り上げ、ビリビリに破いてから、それをゴミ箱に捨てた。
俊の悲鳴が聞こえるが、それは感謝と受け取っておこう。
書き上げた時間43分。本文40分。推敲3分。




