雨が運んでくるもの
お題は洪水!
「おはよう、桃香」
「おはようございます、お兄さん」
寝ぼけ眼をこすりながらリビングに行き、第一声がこれだ。
唯一にして無二の我が妹――桃香は、なんというかよそよそしい。
異母兄弟ではないし、過去に大喧嘩した名残というわけでもない。
なのに、なぜ!こんなにも壁を感じてしまうのだろうか!
「そうだ、桃香。今日は友だちと遊ぶんだろ。家事は俺に任せて遊んでこい」
「……どうして、友だちと遊ぶことを?」
「そりゃあ、妹に変な虫が寄り付かないように、予定くらいチェックするのは、兄の務めだろ」
「でしたら、お兄さんは務めを果たす必要はございません」
「うえっ!?そ、そりゃ、職務放棄になっちまうだろ」
「家事は放棄するのにですか?」
「うぐっ……」
今日も毒舌っぷりは輝いている。
こういうキャラが好きという、えげつないエムもいるそうだが、桃香の前では耐えられまい。
「では行って参ります。できる限り早く帰宅できるように努めますので、お兄さんは優雅で怠惰な休日を過ごして頂いて構いません」
「優雅はいいけど怠惰は気を付けるよ……。じゃ、桃香もちゃんと友だち大事にしろよ」
「そういうのはまず友だちを作ってから仰って下さい」
「おう!任せろ!」
「では」
桃香のことだから、なにかヘマやらかすことはないだろ。
さて、じゃ、まずは食器洗いからやるか……ってあれ?
もう終わってる?
「まじか……流石桃香」
俺は、この場にいない妹に脱帽するのだった。
しかし、何事も最初は辛いものだ。
惰眠は貪らない。昼食の後すぐ昼寝しない。
うむ。それがどれほど難しいか理解した。
ま、これを機に心機一転!
そう思い、窓の外を見ると、豪雨だった。
「幸先悪いな!」
俺は急いで洗濯物を取り込み、部屋干しに切り換える。
桃香ならこんなの三十秒くらいで終わるが、慣れない俺は五分もかかってしまった。
「やっぱりスゲーな」
というか、雨降っているが桃香は無事だろうか?
用意周到な桃香なら、傘を忘れるなんてことないだろうが、一応確認しておくか。
「……あ」
忘れていた。
な、な、なんてことだ!このままでは桃香が風邪をひいてしまう!
慌てて届けようとした時、俺の電話が鳴る。
画面を見ると、桃香からだった。
俺はそれを見ると、急いで通話ボタンを押した。
『お兄さん……』
「傘だな、傘を忘れたんだな!?」
『いえ、折りたたみがあるので大丈夫です』
「……流石我が妹!」
『常識です。それより、洗濯物を……』
「心配すんな!もう取り込んである!」
『……そうですか。なら良かったです。わざわざ電話する必要もなかったですね』
「おうよ!俺のことは心配すんな!全力で楽しんでこい!
『了解しました』
桃香はそれだけ言うと、電話を切ってしまった。。
期待されてなかったことが伝わってきたが、それは仕方ない。
ここから挽回するしかない!
「よし!そうと決まれば次は掃除だよな!」
情けない。本当に情けない。
まさか排水管の掃除をしていたらやばいとこ捻って、家の中を水浸しにしてしまうとは。
「ただいま戻りま……なんで家の中で洪水が起こっているのでしょうか?」
「こ、これには諸説あり」
「諸説の使い方が違います。排水管の掃除はまだお兄さんは早いでしょうに」
「それでもさー……。俺はお前の負担を軽くしてやりたいんだよ」
「……!」
「だから、ここはその気持ちに免じてお許しを!そして、何ならご教授を!」
我儘だと分かっているが、形だけはいいこと言ってる風にしてみた。
さあ、反応は――?
「私はこうなることを見越してお兄さんを家事から遠ざけていたんです」
「……!そうなのか」
「はい。でも、お兄さんが私の手伝いをしたいなら」
そこで言葉はやめ、真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
「それはとても嬉しいことです」
「……!だから……」
「でも、洪水を起こしたことは許しません。しっかりと責任をとってもらいます」
「し、辛辣だ――!」
そこで、桃香は今日初めて俺に笑顔を見せた。
いや、今日だけじゃない。
恐らく、桃香が一人で頑張ろうとしたその日からだ。
「桃香。これからは俺も頑張る。だから、一人で抱え込もうとするな」
「……そういうのは、一人前になってから言って下さい」
「だな!」
今日が雨でよかった。
だって、雨が壁を流してくれた気がするから。
書き上げた時間43分。本文40分。推敲3分。




