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掌編小説達  作者: 青い山
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10/21

愛してるを剥がさないで

お題は絆創膏!

「どこを怪我しちゃったのかな?」


 妙に色気のある声が、アルコールの匂いで満たされている保健室の静寂さを破った。

 その声を出した主――緑川麗子は俺の幼馴染だ。


「お前に用はない、どっかいけ」

「酷い、辛辣!今私は、ドクターから直々に留守番を頼まれていたのに……!」

「冗談は聞きたくない」

「いや、これマジなんだって」


 ドクターこと毒田先生は、自由奔放な性格で知られている。

 数ある武勇伝の中でも、健康診断脱走事件は有名だ。

 確かにドクターならやりそうなことだが、なぜこいつに頼んだ?


「お前、ドクターのパシリだったのか」

「違うし。保健委員だし」

「魅惑のナースを目指そうってか?やめとけ、子供が泣くぞ」

「目指してないし!私子供に好かれてるし!」

「舐められている証拠だな」

「それは言わないって約束でしょ!で、ドクターに用件って何!?」


 無理矢理話題を逸らそうとしたらしい。

 まあ、俺にとっても好都合だ。


「ああ、絆創膏をもらいにきたんだ。三嶋が怪我したんだ」

「あんたは隼人のパシリなのね」


 麗子が、「やり返してやったぜ!」みたいな顔しているが、それはお前がドクターのパシリと言ったも同然だぞ。

 こいつ、やっぱり馬鹿だ。


「早く絆創膏をくれ。あんまり遅いとあいつ死ぬぞ」

「そんな重症なの?」

「いや、ただのかすり傷だ」

「なら急ぐ必要ないじゃない」

「こうしている間にも三嶋が誰かから絆創膏をもらって、その人を好きになってるかもしれないのに?急ぐ必要はないと?」

「は、はぁ!?あ、あんたふざけんじゃないわよ!べ、別に私隼人好きじゃないし!」

「誰もそんなこと言ってない」

「ぐっ……!」


 今度は俺が「やり返してやったぜ!」という顔をする番だ。

 麗子は、怒りながらも棚に近付いていき、絆創膏を取り出した。

 そして、何かを書き込み、それを渡してきた。


「なんか書いたか?」

「別に。早く、行きなさいよ!」


 俺は、半ば追い出されるようにして、保健室を出た。

 絆創膏を裏返すと、そこには、


『愛してるよ隼人』


 と、書いてあった。

 つまり、麗子は俺がこれを知らずに三嶋に渡すという算段だったわけだ。


 バレバレ過ぎて呆れたが、素直に乗るのも屈辱だったので、俺は一言、こう付け足しておいた。


『愛してるよ隼人 麗子より』




「おーい、三嶋。絆創膏もらってきたぞー」

「おせーよ、晃。もう少しで俺が射抜かれるところだったぞ」

「朗報やん」

「そうか?」


 俺は、至って冷静に絆創膏を手渡しす。

 内心ずっと笑っていたが。


 サンキュー、と言って三嶋はそれを受け取る。

 ここで、俺は一言呟く。


「あれ、裏になんか書いてあるくね」

「……ん?ほんとだ。えーと、何々……。おい、これまじか?」

「は?どうした?」

「お前がやったんじゃないよな?」

「だから、どうした?」

「これ見ろよ」


 三嶋は世界の終わりのような表情をしている。


「なあ、これって麗子の字だよな?」

「そう、だな」


 よかった。「麗子より」は誤魔化せたみたいだ。


「終わった。断ったら絶対殺される……」

「落ち着け。見なかったことにすれば……」

「そうだな。それがいい」


 三嶋は、「何も見てない、何も見てない」と、呪文のように唱えていた。

 そこに、ウッキウキの麗子が近付いてきているのを、三嶋はまだ知らない。

書き上げた時間46分。本文40分。推敲6分。

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