愛してるを剥がさないで
お題は絆創膏!
「どこを怪我しちゃったのかな?」
妙に色気のある声が、アルコールの匂いで満たされている保健室の静寂さを破った。
その声を出した主――緑川麗子は俺の幼馴染だ。
「お前に用はない、どっかいけ」
「酷い、辛辣!今私は、ドクターから直々に留守番を頼まれていたのに……!」
「冗談は聞きたくない」
「いや、これマジなんだって」
ドクターこと毒田先生は、自由奔放な性格で知られている。
数ある武勇伝の中でも、健康診断脱走事件は有名だ。
確かにドクターならやりそうなことだが、なぜこいつに頼んだ?
「お前、ドクターのパシリだったのか」
「違うし。保健委員だし」
「魅惑のナースを目指そうってか?やめとけ、子供が泣くぞ」
「目指してないし!私子供に好かれてるし!」
「舐められている証拠だな」
「それは言わないって約束でしょ!で、ドクターに用件って何!?」
無理矢理話題を逸らそうとしたらしい。
まあ、俺にとっても好都合だ。
「ああ、絆創膏をもらいにきたんだ。三嶋が怪我したんだ」
「あんたは隼人のパシリなのね」
麗子が、「やり返してやったぜ!」みたいな顔しているが、それはお前がドクターのパシリと言ったも同然だぞ。
こいつ、やっぱり馬鹿だ。
「早く絆創膏をくれ。あんまり遅いとあいつ死ぬぞ」
「そんな重症なの?」
「いや、ただのかすり傷だ」
「なら急ぐ必要ないじゃない」
「こうしている間にも三嶋が誰かから絆創膏をもらって、その人を好きになってるかもしれないのに?急ぐ必要はないと?」
「は、はぁ!?あ、あんたふざけんじゃないわよ!べ、別に私隼人好きじゃないし!」
「誰もそんなこと言ってない」
「ぐっ……!」
今度は俺が「やり返してやったぜ!」という顔をする番だ。
麗子は、怒りながらも棚に近付いていき、絆創膏を取り出した。
そして、何かを書き込み、それを渡してきた。
「なんか書いたか?」
「別に。早く、行きなさいよ!」
俺は、半ば追い出されるようにして、保健室を出た。
絆創膏を裏返すと、そこには、
『愛してるよ隼人』
と、書いてあった。
つまり、麗子は俺がこれを知らずに三嶋に渡すという算段だったわけだ。
バレバレ過ぎて呆れたが、素直に乗るのも屈辱だったので、俺は一言、こう付け足しておいた。
『愛してるよ隼人 麗子より』
「おーい、三嶋。絆創膏もらってきたぞー」
「おせーよ、晃。もう少しで俺が射抜かれるところだったぞ」
「朗報やん」
「そうか?」
俺は、至って冷静に絆創膏を手渡しす。
内心ずっと笑っていたが。
サンキュー、と言って三嶋はそれを受け取る。
ここで、俺は一言呟く。
「あれ、裏になんか書いてあるくね」
「……ん?ほんとだ。えーと、何々……。おい、これまじか?」
「は?どうした?」
「お前がやったんじゃないよな?」
「だから、どうした?」
「これ見ろよ」
三嶋は世界の終わりのような表情をしている。
「なあ、これって麗子の字だよな?」
「そう、だな」
よかった。「麗子より」は誤魔化せたみたいだ。
「終わった。断ったら絶対殺される……」
「落ち着け。見なかったことにすれば……」
「そうだな。それがいい」
三嶋は、「何も見てない、何も見てない」と、呪文のように唱えていた。
そこに、ウッキウキの麗子が近付いてきているのを、三嶋はまだ知らない。
書き上げた時間46分。本文40分。推敲6分。




