地獄の沙汰も金次第
##### 閻魔庁 広場
そこには多くの鬼たちが集まっていた。
「ステータス、オープン!ステータス、オープン!」
と何度も何度も大声で連呼する者がいた。それは最近ここへ送られて来たばかりの若い男だった。
「またですか……」
「最近、多いのよ……地獄へ落ちてくる亡者が皆“ステータスオープン”って叫んでるらしいの。どういうことなの?何なのそれ?」
「さあ?私も分かりません」
「まったく……困ったものね……」
そこに黒縄地獄の獄卒長の縛斬が通りかかった。
「おや?どうかしましたか?皆さん」
「あら、縛斬殿ではありませんか」
「はい。何やら騒がしいようですが、何かありましたか?」
「ええ、実はですね、この方たちはさっきからずっと同じことを言ってるんですよ」
「同じこと……とは?」
「“ステータスオープン!”ってね」と黄鬼が答える。
「ステータス……オープン……?」
「そうです。一体どんな意味があるのかと思って尋ねたんですけど、“僕は選ばれた男なんだ!”とか、“この世界はゲームと同じなんだ!”とか“チート能力が欲しい!”とか言っていましたけど、何のことだかさっぱりです」
「ゲーム……ですか」
その時、突然ケロべロスに跨った羅夢が飛び込んできていきなり金棒で頭を叩き潰してしまった。
頭を潰された男はその場で倒れてピクピクしている。
「羅夢さん!突然何するんですか!」
と叫ぶ縛斬に
「こんなのいちいち相手をしてるときりがないでしょ!こうやって動けなくしてから閻魔様の所へ運ぶ方が合理的でしょ」と笑顔で答えている。
「あの……羅夢さん、もう少し……その……穏便にしてもらえないでしょうか……?」と縛斬が恐る恐る言うと
「ごちゃごちゃうるさいわね」と舌打ちしながら頭を潰した男を引きずり始めた。とその時
「お、こいつこんなにお金をもってたわ。ラッキー。地獄の沙汰も金次第ってね」
そう言いながらカバンを開けるとたくさんの札束を取り出した。
「さすが大金持ち。さぞ、いろんな人を騙したんだろうな。ええい、面倒臭い。もう燃やして灰にしてしまいなさい!」
そう羅夢が叫ぶと青嵐が火炎瓶を投げ入れ大きな爆発音と共に炎が燃え上がった。がすぐに復活し始めるが…
「相変わらず……強引で乱暴だな。お金はちゃんと氷雨様か閻魔様に渡さないと。それじゃあただの泥棒ですよ」と縛斬が呆れて言った。
「そんな細かいことはどうでもいいでしょ。とにかくコイツを閻魔大王様の所へ連れていくのが先決。それじゃあね」と言って手を振るとケロべロスに乗って去って行った。
「まったく……変わらないな……」と縛斬が呟くとそこに一人の鬼がやって来た。
「それにしても……相変わらず自由奔放なお方ですね。縛斬様は昔からあの方が苦手でいらっしゃる」
「まあね……、彼女が暴れ出すと収拾つかなくなるからね。下手をすれば大惨事になるかもしれないし。触らぬ羅夢に何とやらだ」
「確かに……」と鬼は苦笑いした。
「しかし……なんであんなに荒れているのだろうね?いつもああなんだけど、最近特に酷いよな」
「そうですねぇ……でも荒れてる訳ではないですよ。あれでも楽しんでるですよ。」と縛斬が答える。
「楽しい……ですか……」
「ああ、彼女にとってはね。しかし、私たちにしてみれば迷惑な話だ」
「まったくです……」
「ところで、縛斬殿。こちらにいらしてたんですか?」
「ああ、ちょっと用があってね」
「ちょうどよかった。折り入ってお願いがあるんですが……」
「ほう……どんな用件ですか?」
「実は……」
「ほうほう、なるほどね……」
「いかがでしょうか?」
「うーん……そうだね……」
「ぜひ、お願いしたいのです」
「わかった。引き受けましょう」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、これも仕事ですので」
そう言って縛斬はその場を後にした。そして歩きながら
「ふふっ」と笑った。
#####
閻魔大王は頭を抱えていた。
「ふう……あのじゃじゃ馬め!何をやってくれるんだか……まったく……」と愚痴を言いながら羅夢が捕まえた男の書類を読んでいた。そこに氷雨がやって来た。
「閻魔大王様、失礼いたします」
「おお、氷雨殿、ちょうど良かった。実はですねぇ……」と言って書類を手渡した。
「これは?」
「ええ、ご覧ください」
「これはまた……随分と派手にやらかしましたね」
「ええ、まったくだ……、羅夢君の奴……一体何を考えているのやら……」と頭を掻きむしる。氷雨は書類に目を通すと呆れたように言った。
「これはまた……なんというか……随分と……、大盤振る舞いと言うか……やりすぎですね……」
「ええ、まったくです。ですがね……この男、どうやらかなりの資産家のようですし、亡くなった理由も病死ではなく事故死みたいなんですよ」
「なるほど……」
「しかもですね……どうも彼が持っていた財産というのはほとんどが違法な手段で得たものらしいんです」
「そうでしたか……」
「ええ、なのでこのまま没収でもと思ったんだが…羅夢君がそれなら自分にもよこせ、貰う権利があるはずだと言って困るんだがね」
「なるほど……つまりその金が目的で……」
「ああ、その通りなんだ。何でも新型のプレス機が欲しいと言ってね」
「それは……確かに羅夢殿にとって重要なことですな」
「ああ、彼女は新しいモノ好きだからね。だがそれにしても限度というものがあるだろう……いくらなんでも限度を超えてる」
「はあ……困りましたね……」
「うーむ……困った……」
二人は顔を見合わせて唸った。
そこに羅夢がノックもせずに入ってきた。そして開口一番こう言った。
「あっ、閻魔大王様、私のために金を渡す用意が出来たそうで‥」
「羅夢君、いくら何でもノックくらいしたまえよ!」と閻魔
「そうですよ!あなたという人はもうちょっと礼儀と言う物をだな」と氷雨が言った。
しかし羅夢は気にせず続ける。
「ごちゃごちゃうるさいわね。お金さえ渡せばいいでしょうが!」と仁王立ちになって唾を飛ばして叫んだ。すると氷雨は眉をしかめて言った。
「いい加減にしなさい!あなたという人はいつもそうやって無礼な態度ばかり取って!」
「あら?何か文句でもあるのかしら?」
「文句しかないですよ!」と氷雨が反論すると今度は閻魔が口を挟んだ。
「まあまあ、落ち着いて……羅夢君、君の要求は分かるがね。やはり規則上そういうわけにはいかないんだ。わかるかい?」
「ちっ、わかってるよ。だがなぁ……」
「なんだね?」
「その金があれば……あたしの地獄はもっと面白くなるんだがなぁ……」
「もういい加減にしろ!それよりお前は獄卒長としての自覚を持ちなさい!」と氷雨が言うと羅夢は不満げな表情を浮かべた。
「もういいよ!ケチ!バカ!アホ!ボケナス!お前らなんか大っ嫌いだ!」
そう言って怒って部屋を出ていった。が、
「おーい、羅夢君。お金はもういいのかい?」と閻魔が声をかけたらすぐに戻ってきた。そして、
「……くれるのか?」とおずおずと聞いてきたので氷雨と顔を見合わせて苦笑いした。
そして氷雨が口を開いた。
「半分だけですからね。設備投資も必要な事は解りますし」
「ホント!よっしゃあ!」と叫んで飛び上がって喜んだ。
「ただし、ちゃんと管理をするんですよ!絶対にギャンブルとかに使わないように!」
「ああ、わかった。ありがとう。じゃあ、今すぐケロちゃんに乗って衆合地獄に帰るからな!」と言うとそのまま走り去って行った。
「やれやれ……まったくあの娘は……」
「しかし仕事は誰よりも真面目なんだけどね。やりすき感が強いけど…」と氷雨がため息交じりに呟いた。
「でも、それでこそ羅夢くんだろ。あの娘がいなければこの地獄も退屈だったはずだよ」と言うと氷雨は苦笑いしながら言った。
「確かにそうかもしれませんね……しかし、それでももう少し落ち着きを持ってほしいのですが」
「まあ、そこはしょうがないさ。羅夢君にも限界があるということだよ」と言うと氷雨は諦めたような顔で首を左右に振ったのであった。




