怖い鬼娘
「お前は何をしているんだ!」
と氷雨が怒鳴ると羅夢はつまらなそうに答えた。
「だって、いきなり触ってくるんだもの。仕方がないじゃない」
「仕方がないではない!まったく……亡者と違って鬼は回復するのが遅いんだぞ!」そしてしゃがみ込み倒れてる青鬼に向かって
「お前、彼女が誰なのか解った上で悪戯をしたのか?」と問うと
「いえ、ただの可愛らしい小娘かと…」とかろうじて聞こえるくらいの小さな声で答えた。
すると羅夢がしゃがみこみ青鬼の顔を覗き込み言った。
「小娘ねぇ……確かにその通りかもね。でも……私は獄卒長なのよ。しかも衆合地獄の。そんな小娘にやられて悔しくないの?」と冷笑を浮かべながら言う羅夢。
「ひっ!ご…獄卒…長?」と呻き声をあげる青鬼。
顔は真っ青を通り越して白くなっているようだった。
「ああそうだ。まったく……羅夢。お前はなんでそう短気なんだ!」
「うるさいわね。だからこうやって頭を踏みつけて反省させようとしているんじゃないの」と言いながら倒れている青鬼の頭を思い切り踏みつけた。
グシャッと音を立てて青鬼の頭が床にめり込み、それと同時に変な声が聞こえた。
「げほっ……!」青鬼は痙攣したように身体を震わせて血反吐を吐き出した。
その光景を見て氷雨は呆れた顔で言った。
「おい、羅夢……やり過ぎだぞ。それにお前の地獄もだが八熱地獄で一番過酷だって言われてるんだが…無間地獄よりもだぞ!なんなんだ一体?」と聞くと羅夢は
「え?そうなのかしら?無間地獄は入ったことが無いけど。いくら何でもそれ以上という事はないでしょ」と言うと青鬼の頭を蹴飛ばした。
「うげぇ……」と言うと血反吐を吐いたまま青鬼はぴくりとも動かなくなった。
それを見て羅夢はつまらなそうに言った。
「あら、もう駄目ね……これだから弱っちい鬼は嫌いなのよ」と呟きながら立ち上がると遠くの方で
「ステータス、オープン」と何度も叫ぶ声が聞こえてきた。実際は人間の聴力なら聞こえない程はるか彼方なのだが…。
「またですか、本当になんなの?流行ってるみたいだけど」そう言いながらケロべロスに跨ると、
「さあ、ケロちゃん、オルちゃん声の方向へ行って頂戴!」と言われ嬉しそうに尻尾を振った。
「ちょ、ちょっと、羅夢待て、命令あるまで勝手に行くな!」と言うがすでに手遅れだった。
羅夢とケロべロスとオルトロスは早々と現場へ駆けて行った。
「うぬぬぬぬ……もう好きにしろ!もうどうにもならん!勝手に暴れてろ!」と氷雨は頭を掻きむしっていた。
で、いつもの仕事をこなす羅夢であった。
##### 医療室
羅夢にコテンパンにやられた青鬼が横たわっていた。そこに同僚の黄鬼が現れる。
「おい、大丈夫か?全治7か月って聞いたが…自分の名前ちゃんと言えるか?ほら言ってみろ?」
「えーっと、黄鬼?」と黄鬼が言うと青鬼は首を傾げた。
「駄目だこりゃ……もう覚えちゃいない……」
「大丈夫だ。俺は羅夢にやられた。確か、お尻を触ったら気に入らなくてぶっ飛ばされたんだ……」
「そうそう、そうだな、それで全治7ヶ月の大怪我を負ったんだろ?しっかりしてくれよ、いくら回復力があっても亡者ほどじゃないんだぞ。なんであんな化け物レベルに手を出すんだよ」
「だって可愛かったんだからしょうがないだろう! 俺だって若いんだし、たまには遊んでもいいじゃねえか」
「あのなぁ……そういうのは相手を選びなさいよ、お前馬鹿なんじゃないのか? もっとマシな相手にしとけよ。よりによって獄卒長相手にちょっかい出すとは…」
「仕方ないだろ。俺は鬼の中で一番力自慢なんだぞ。それに獄卒長とは知らなかったんだ…知ってたら俺だって…」と言うと青鬼は不貞腐れた様子でそっぽを向いた。
それを見て黄鬼は溜息をつくと仕方なくフォローしてやることにしたようだ。
「まあ、気持ちは分かるけどな。確かにあいつは見た目は可愛らしいし、スタイルもいいからな」
「だろ?俺もそう思ったんだよ」
「だがな……忘れたのか?あいつが所属してる地獄を」
「衆合地獄……だっけか?なんだっけ?そんなに過酷なのか?」
「ああ、過酷だ。何と言っても八熱地獄の中で一番過酷と言われてるんだからな。しかも、拷問方法が特殊だし。あいつの拷問は有名だ。特に衆合地獄の場合はな……」
「そういえば聞いたことがある……確か……ああ、思い出したぜ! 大昔、獄卒長だった羅夢を犯そうとしたら逆襲された挙句、その地獄から二度と出さないって言われた奴がいたんだよな。それで?そいつはどうなったんだ?」
「さあな……消息不明だ。生きてるんだろうけどどこかに隠れてるんだろな」
「スゲーな…、この程度で助かった事がラッキーにさえ思えた来た…」
「あれくらいはアイツにとって日常茶飯事だろうな。気に病むことはない」
「だよな……はあ……」
青鬼がうなだれる様子をみて黄鬼は肩を叩き励ますように言う。
「ほら、元気出せよ」
「ああ、ありがとうな。ところで黄鬼よ」
「なんだ?」
「一つ気になることがあるんだが聞いてもいいか?」
「なんだ?言ってみろ」
「もしかして……衆合地獄で働こうと思ってる奴って……いるのかな?」
黄鬼は少し考える素振りを見せた後に口を開いた。
「どうだろうな……態度は粗暴だが部下思いの面もあるようだし。羅夢の補佐をしている青嵐なんて慕ってるほどだからな」
「なるほどな……まあいいや。今はとにかく休むしかないようだしな……」
「おう、お大事に」黄鬼はそう言い残すと去って行った。そして一人になった青鬼は
「しかし……どうして俺はこうも運がないのかねぇ……」と呟きながら天井を仰ぎ見たのであった。




