ケルベロスとオルトロス
「氷雨様!大変です!」と部下が駈け込んで来た。
氷雨とは閻魔庁首席補佐官であり閻魔大王の右腕を務め補佐的な役割や地獄の雑務を一手に担う実質地獄界のNO2の存在である。
ちなみに強面だが部下からの信頼も厚く慕われているが羅夢だけは煙たがっていた。嫌いと言うより苦手だった。
「どうした?騒々しい」と応じる氷雨に対して部下が叫ぶ。
「羅夢様の事なんですが…」
「……またか……、で今度は何だ?」
「あの…、どこから連れてきたのか…地獄の門の前にケルベロスが暴れているのですが…」
「なに?地獄の門に?また羅夢か……。わかった私が直接行こう」と言って席を立つ。「ついでに羅夢にも釘を刺しておこう。まったくあいつは……」と独り言を言いながら廊下を歩いて行く。
そして氷雨が地獄の門へ行くと、そこには鎖で繋がれた巨大な獣がうなり声を上げていた。
「おい、この鎖は何だ?」と尋ねると近くにいた鬼が答える。
「それが……どうやら羅夢様が連れて来たケルベロスらしいのですが……」
「あいつは……一体何を考えているんだ……それにしてもどこから連れてきたんだ?日本の地獄にはいないはずだが」氷雨は呆れながらもため息をついた。
「それで?この鎖はどうした?」と再び尋ねると鬼は困ったように答えた。
「それが……我々が見回りをしている最中に突然現れたのです……」
「それで?」
「最初はすぐにおとなしくなったのですが、しばらくすると暴れ出して……」
「なるほどな……」氷雨は納得したように頷いた。
「それで?何か対処策はあるのか?」と聞くと鬼は申し訳なさそうに言った。
「それが……今のところはありません……」
「そうか……仕方ないな……ところでその羅夢はどこにいる。今すぐ呼んで来い!」
「はい!ただいま!」
しばらくして氷雨の元に羅夢を連れてきた。
「ご苦労だった」と言うと鬼は安堵の表情を浮かべた。
そして氷雨は羅夢に向かって言った。
「おい、羅夢よ!また貴様のせいではないだろうな?説明しろ!」
「あら、氷雨。久しぶりね。まあこのケルベロスは異世界から私が連れてきたのよ」と言って得意げに話す。
「はぁ?異世界だと?どこから連れてきたのだ?」と聞くと羅夢はさらりと答えた。
「たぶん欧州辺り。もうよく覚えてないわ」
「とにかく、私の専用犬にする予定だったの。でも、あれもう一匹オルトロスというのもいたはずだけど…どこいったのかな?」と言うと羅夢は鎖に繋がれているケルベロスに近づき頭を撫でた。するとケルベロスは嬉しそうに尻尾を振った。
「なんだと、こんなのがもう一匹いるのか!おい、お前たち探せ!早く!」と激を飛ばすがすでに時遅し、他の部下が血相を変えて報告してきた。
「等活地獄で三つの頭を持ったってあれ?ここにも同じ犬?」
「え?そっちにも?」
「やっぱりこれってあの伝説のケルベロスでは?」
「じゃあこっちは何なのよ?」
「じゃあやっぱりそっちはオルトロスって奴かい?」
「……」
「……」
氷雨は頭痛がするのかこめかみを押さえていた。
「おい……羅夢」
「何よ、今忙しいのよ」と素っ気なく答える羅夢。
「お前、ケルベロスとオルトロスの区別くらいついてるんだろうな?」
「もちろん!オルトロスって名前だったと思う」
「はいはい、もういい。どうするんだ?この二匹」
「どうするって?」と聞き返す羅夢に対して氷雨が苛立った様子で言う。
「だからどうやって元の世界に帰すつもりなんだ!まさかこのままここに置いておくわけにもいかないだろう!」
「いいじゃない、地獄の番犬という事で」とにっこり答えると氷雨はため息をついた。
「番犬て…亡者たちが入れんだろうが!こんな門の前にいたら」
「あらそうかしら?」と首をかしげる羅夢に氷雨が呆れた口調で言った。
「いい加減にしろ!」と一喝するも羅夢はケロッとした表情だ。
「わかったわ、じゃあ、門番として働いてもらえばいいんじゃない?亡者たちは入れるようにしてさ」と言うと氷雨は頭を抱えて蹲った。
「あ、ああそうか……そうだな。それがいいかもしれない……」と言って力なく立ち上がる。
「でしょ?」と羅夢は嬉しそうだ。
「しかし、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。きっと上手くいくわ」と自信満々に答える羅夢に対して氷雨は不安そうだった。
「ところでケルベロスとオルトロスはちゃんと区別がつくようにしろよ。でないと門番として意味がないだろう」と氷雨が言うと羅夢は頷いて言った。
「そうね。じゃあこの子達にネームプレートでも作ってあげましょう」と言うと早速作業を始めた。
氷雨はその様子を見ながら頭痛が増してきたように頭を抱えていた。そして氷雨はぼそりと言った。
「こいつは……いずれ閻魔大王様に直接報告しないとまずいな……」と独り言を言っていた。
その言葉は羅夢には聞こえてはいなかった。
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閻魔大王(以下閻魔)「はあ……今日は平和だなぁ」
閻魔は窓の外を眺めながらため息をついた。
「氷雨様もいないし……最近羅夢も大人しいし……ああ、こういう日が毎日続くといいのに……」
「そうだ。今日もゆっくり休もう」そう言うと椅子にもたれかかりうたた寝をし始めた。
そしてそのまま眠りについた。しかし、その眠りを妨げるようにドンドンと扉を叩く音が響いた。
「何だよぉ……誰だよぉ……」と言いながら目を擦りながら扉を開けた。
するとそこには焦った様子の鬼たちがいた。
「どうしたんだい?そんな慌てて……」
「閻魔大王様!大変です!」
「何事だ?落ち着いて話してくれ」
「それが……その……あの……」
「なんだ?はっきり言ってくれよ」と言うと一人の鬼が叫ぶように言った。
「羅夢様が異世界から連れてきた犬が暴れております!」
「え?またか……羅夢が原因か……」と閻魔は再び頭を抱えた。
「とりあえず見てこよう……」と言い部屋を出て行った。
そして氷雨の元へ向かい事情を聞いた。氷雨は深刻な表情で言った。
「そうですか……わかりました」と言って電話を切った後、深いため息をついた。「はあ……また厄介なことに……」
そして部屋に戻ると先ほどの鬼に言った。
「お前たち!羅夢を呼んできて!」
「承知いたしました!」と言うと走っていった。
しばらくして氷雨は報告書をまとめ始めた。そしてまとめ終わった時に丁度羅夢がやって来た。
その手にはケルベロスとオルトロスのリードを持っていた。
「おい!これはどういうことだ?」
「あら、氷雨様。どうしたのよ、そんな怖い顔をして」
「どうしたではないだろう?お前が連れてきた異世界から連れてきたという二匹が暴れているのだぞ!」
「ああ、その事。多分大丈夫よ、この子たち賢いから」
「賢いなら暴れないだろうが!とにかくどうにかしろ!」と言うと氷雨は羅夢を睨みつけた。
「お、ねーちゃん、何かミスでもしたか?」そう言ってごつい体格をした青鬼のが羅夢のお尻を撫でた
「おい!青鬼、何してるんだ!」氷雨が大声で叫んだ時にはすでに遅かった。
「この無礼者め!」羅夢は青鬼の後頭部をつかむとその顔面を石柱に思い切りぶち当てた。
ゴキッという骨の砕ける音と共に青鬼は床に倒れ込んだ。
「青鬼!」と氷雨が叫ぶと羅夢は冷たい目で見下ろし言った。
「もう少し楽しませて欲しかったのに……」と言いながら倒れている青鬼の頭を踏みつけた。




