現世へ
「これで大丈夫ですかね?ちゃんと普通の人間に見えますかね?」
現世…すなわち人間界へ行くための格好をしたりして準備を整えている。お菊も一緒に同行しても良いとの許可も貰っている。まあ、羅夢の計らいもあるのだろうが。
黄鬼は一人で行くつもりだったのに羅夢に
「なんでそんなつまらないことをするんだ!一緒に行かせるに決まってんだろ。お菊ちゃんもその方が楽しめるだろうしな」
そう言われてしまい仕方なく二人で行くことになってしまったのだ。
黄鬼としてはすごく憂鬱な気分である。まあ、自業自得なのだが……。
「えっと、じゃあ行きましょうか」と言って黄鬼は現世に向かった。するとそこには様々な店が立ち並ぶ繁華街があった。
「これが現世ですか……すごいですね」
「そうですね。確かにすごいですね」と答えるお菊だった。
「とりあえずどこかお店に入りましょうか」と言うと、
「現世に行ったらすぐに移住場所を探すように言われてたじゃないですか。野宿なんて嫌ですよ」
と言ってきた。
「え?そんなこと言われましたっけ?」と困惑する黄鬼だったがお菊は笑顔で答えた。
「忘れちゃったんですか?現世に行く前の打ち合わせで言ってましたよ。羅夢さんが」
「え!?そうでしたっけ!?」と驚く黄鬼だったがお菊は微笑みながら言った。
「はい、そうですよ。じゃあ、さっそく探しに行きましょう」と言いまずは不動産屋探しが始まった。
いろんな不動産屋を回ってみたが都会の家賃は高い。黄鬼の所持金ではたかが知れてるし、住む場所も限られてくる。
「なにか安い物件ないですかねえ?」と不動産屋に尋ねる。
「ご予算はいかほどで?お二人で暮らすとなるとこのような物件はいかがですかな?」
「うーん!ちょっと厳しいかな…」
「そうですか……しかしですね……お客様のご予算でしたら少々古くて狭いですけどこちらはいかがでしょうか?築年数も古いですが一応エレベーターもありますし、風呂トイレ別ですので多少不便かもしれませんが、生活するのには問題ないかと」
「うーん、一応聞くけどここで一番安い物件はどんなのがあるの?」
「い、一番安いのですか…えっと、まあ、うちの物件ではないのですが、委託でというなら…ありますけど。」
「え?どんな物件なの?」というと
「え!ああ、まあ場所的には本当に何不自由のない一等地なんですけどねえ…。お二人で住まわれても十分な広さもありますし…」
「じゃあいいじゃん。なんで渋るの?」
「いやあ、まあ……これなんですがね」
「タワマンじゃない!なんでこれ推さないの?」
「あー、まあ、ですね……これは所謂事故物件というやつでしてね。まあ、うちの物件じゃなくて、委託で相談されてて…中にはあなた達のように安ければいいという人もいたのですが…」
「ん?」
「何でも夜中にラップ音が聞こえたとか話し声が聞こえた、突然テレビがついたりと…」
「ふんふん」
「なんでも幽霊が出るという噂がありましてね。まあ、だからうちとしてもおススメできないんですが……まあ、ご覧いただいても結構ですよ。明日ご案内しますので」
「あ、今日見たいんだけど。今からとかダメ?」と聞くと
「え?今からですか?」と驚く不動産屋に黄鬼は
「うん、ダメ?」
と再び聞いた。すると不動産屋は
「まあ、大丈夫ですけど……どうせなら部屋の中もご覧になりますか?」
と言ってきたので
「うん、お願い」と言うと不動産屋は
「わかりました。では行きましょう」
と言ったので案内してもらうことにした。
現地に到着する。
「うわ、すげー!高そうなマンション。タワマンだ!ここ住めたら最高だね」
「う、うん、そ、そうですね(凄く高そうだけど…)」お菊の顔が引き攣り始めている。
「それでは中へどうぞ」
と言われてエントランスに入ると広いロビーにソファなどが置かれていた。奥の方には受付らしきものもあり警備員もいた。
「すげえなここ」と驚きながらエレベーターに向かった。
「あの、お部屋はどのお部屋なんですか?」とお菊が不動産屋に聞くと、
「32階ですね」と答えてくれた。
32階に到着する。なかなか落ち着いた雰囲気のお部屋だなと思っていたら、
「ここですね。どうぞお入りください」と不動産屋に言われたのでドアを開けるとそこには広々とした空間が広がっていた。
「うわぁ~すごーい!いいところじゃない?」
と感動しながら見ていると不動産屋が説明してきた。
「そうですね。こちらのお部屋は4LDKでしてね。広々としたリビングダイニングキッチンになっております。寝室は和室と洋室がありますね。収納スペースも充実しておりますので荷物が多くても安心ですし、南向きなのでとても日当たりもいいですよ」
「あ、あの、これって本当に安いの?すごく立派なんだけど……」
とお菊が心配そうに尋ねてきたので、
「ええ、そうですね。通常ですと家賃100万以上のお部屋なのですが……あまりにも強烈な事故物件ですからね。今は月々8千円と言う破格の‥‥」
と答えてくれた。
「安いわね。ねえ、お菊ちゃんここにしようよ」
「え?ちょ、ちょっと待って下さい。事故物件ってなにがあったんですか?」
「ああ、えーとですね。いわゆる首吊りですね」
「首吊り!?」
「そうなんですよ。しかもこの部屋でね。それでこのマンションでは自殺は御法度となっていて事故物件扱いになってしまったわけです。まあ、事件性はありませんし警察の方にも確認を取っていますから大丈夫なんですがね。それでも超常現象が強烈過ぎて借り手がいないのですよ」
「超常現象って?さっき言ってたラップ音とかの事ですよね?」
「はい、そうです。どうします?やはりやめておきますか?」
と聞いてきたので黄鬼は即答した。
「うーん、まあ、そんなことより、この部屋を今日から借りることって出来ない?」
と言うと不動産屋は驚いていた。
「はあ……まあ、構いませんが……本当に宜しいのですか?」と聞いてきたので黄鬼は
「うん、いいよ」と答えると不動産屋は少し考えてから言った。
そして、
「それではこちらの契約書にサインを」と言って契約書を手渡してきたので黄鬼は
「これでいい?」
と言ってサインをした。
「はい、ありがとうございます。ではこちらがカギになりますのでどうぞ」
と言って渡してくれた。
「さて、これからどうしようか?ねえ、お菊ちゃんはどうする?」と聞いてみると、
「え!?私は特に……何も……」と答えるので
「そっか!じゃあさ、ちょっとコンビニでお酒でも買ってきてもらっていい?お金渡すからさ」
「え?でも……」と戸惑うお菊に対して黄鬼は
「大丈夫だよ。すぐそこにあるし。ここからなら徒歩5分くらいのところにあるから」と言うとお菊は渋々了承してくれた。
「わかりました……じゃあ行ってきますね」
そう言ってお菊は買い物に出かけて行った。
さてと……とりあえず家具は揃っているから問題ないな。それにしても綺麗な部屋だなあ……
なんて思いながら部屋の中を見て回っていると
ガチャ!バタン!!!
いきなり玄関が開いて閉まる音が聞こえた。
え!?何?今、お菊ちゃん出て行ったばかりだよね?
そう思いつつも玄関を見に行くと……なんとそこには制服姿の女子高生が立っていた。
「え?だ、だれ?」と驚いていると女子高生はこちらを振り向いて
「ひゃ!え?え?」と言って自分の顔を指さすので黄鬼はコクコクとうなずいた。
すると彼女は言った。
「えっと…見えてらっしゃる?」と自分の顔を指を指すのでまたしてもうなずくと彼女はさらに驚いた表情になった。




