お菊ちゃんの九枚の皿
黄鬼が一生懸命金棒で亡者を叩きのめしている。
「おら!どうだ!」
ゴキ!、ドカ!、ガン!
「ぎゃー!!も、もう勘弁…し、してくださ…」
ゴキゴキ!!
「こらぁーー!!」
「あぐぅ……!!」
ガンガンガン!!
「いやああああぁー!!」
「おらあぁ!!」
「ぎゃああああぁぁー!!」
そんな光景を見て黄鬼は思わず笑みを浮かべてしまう。そして、そのまま勢いよく亡者を叩き潰していくのだった。
その様子を見ていた羅夢は
「いや、すごいねえ……こっちまで怖くなってくるよ」と呟くと隣にいた青嵐も同意するように頷いた。
「まったくね……あれはやりすぎよ。いくら地獄に落ちてきた連中だからって限度があるわよ」と文句を言う青嵐に対し、羅夢は苦笑いを浮かべながら言った。
「まあまあ、そうカリカリすんなって。気晴らしなんだよ、きっと」
「気晴らし?あれで気晴らしって言うの?」と呆れた様子で言う青嵐に対して羅夢は肩をすくめながら答えた。
「まあ、そういうことだよ」と言っているとお菊が現れ何か羅夢に話し始めた。
すると羅夢の顔は豹変し怒り始めた。そして黄鬼の髪の毛を掴み持ち上げる
「ギャー痛い痛い痛いって!何するんですか?」
「五月蝿い!」そういって髪の毛を掴んだまま頭の上でクルクル回し刀葉林の中に投げ込んでしまった。黄鬼は宙を飛んでいく。その距離、100m位。やがて着地したと思ったら地面に刺さり生える刃付きの草に全身を切り刻まれた。
「ぎゃああぁぁー!いたーーーい!」
「黄鬼!てめえ!またお菊ちゃん、泣かせやがったな!」
というと黄鬼は悔しそうな顔をして答えた。
「クソ!よくもやってくれましたね。やり返してやる!」
と怒りに満ちた表情を浮かべ立ち上がろうとするのだが傷が深く血まみれでうまく起き上がれなかった。
「まだ、生きていたのか!じゃあ死ねえ!」そういって黄鬼の脳天に金棒を叩きつけた羅夢。黄鬼の顔は真っ赤な血まみれになり倒れこんだ。
「羅夢さん!やりすぎですって!黄鬼にもちゃんと事情を聞かないと」と青嵐は諭すと
「あ、ああそうだな。おら!言いたいことがあるなら言ってみろ!」
「……」
「寝るなって……ほら起きろ!」
「ゲホ、ゲホ、羅夢さん酷いですよー。殺す気ですか?」
「殺す気でやったんだよ!お菊ちゃん泣かせやがって!」
「いや、僕が泣かせた訳じゃなくって。いや、僕のせいで泣いたんですけど、そーじゃなくって……」
「そーじゃなくて、なんだよ!お前お菊ちゃんが大切にしていた皿を粉々にしたんだって?なぜだ?」
「だ、だって九枚しかない皿なのに何度も数え直すからついイラっときて…いくら数えたって九枚は九枚だって言ってるのに」
「ま、まあ、その気持ちは分からないでもないが……ちょっと外で遊ぼうとかさ、そう言えばお菊ちゃん喜んだと思うんだけど……、あのな、黄鬼。お菊ちゃんにとってあの九枚の皿は特別なものなんだよ。九枚の皿は特別って語呂合わせになっちゃうけどさ、まあ、それは置いといてお菊ちゃんはね、自分の境遇を嘆いているんだ。あんまりにも悲しくてつい九枚の皿を数えたくなっちゃうんだよ、数えないと頭がおかしくなりそうで辛くて。お菊ちゃんは最後の一枚を探すためにずっと苦しんでるんだ。そんなお菊ちゃんを見て、なんとかしてやりたいって思うのが当然だろ」
「羅夢さん、随分詳しいんですね」
「当たり前だろ。お前よりずっと昔から知ってるんだからさ。そうだろ?青嵐」
「ええ、まあね」
「でも、もう100年以上昔の話だし、黄鬼が知らないのも無理はないがな。それでお菊ちゃんはお前のせいでまた苦しんでるんだぞ!わかってるのか!」
「す、すみません……し、しかし何なんですか?あの皿は?」
「あの皿って?」
「あの九枚の皿ですよ」
「お前さ、噂でも聞いたことがないのかよ?番町皿屋敷のお菊ちゃんて言ったら有名だぞ」
「知りませんよ、そんなの」
「え!?知らないの!?マジで?」
「ええ……すみません」
「まあ、いいや……、私も詳しくはないんだがね、昔、どこかの藩主の家に奉公していた娘がいたそうだ。で、その娘には十枚のお皿を管理する仕事が与えられたんだが、ある日誤って一枚割ってしまいそれを隠蔽したんだ。それがバレて罰として井戸に突き落とされてしまい、そのまま死んでしまったという悲しいお話らしいぞ」と言うと黄鬼は驚いた顔をして言った。
「そ、そんな事が……」
「ああ、それで幽霊となり夜な夜な這い上がっては数を数えているっていう話だよ。まあ、幽霊になっても数えるくらいだからな。よっぽど気にしてたんだろうよ」
「そうだったんですね……」
「まあ、黄鬼が知らないのはしょうがないさ。何百年も前の話だしな。てか本当に青嵐は知ってたのかよ?」
「そりゃ知ってるわよ」
「へー意外だな。まあ、そういう事だ。で、その幽霊というのがお菊ちゃんなんだ」
「それほど執着してた物を…、おい、解ってるのか?事の重大さを」と言って羅夢は黄鬼を睨みつけた。
それに対して黄鬼は縮こまりながら答える。
「そ、その……僕が悪かったです。謝りますから許してください」
「許すかどうかはお前が壊した分を弁償したら考えてやるよ」
「べ、弁償って……」
「そうだよ、弁償だよ」と言って羅夢はにやりと笑った。
「で、でもあれは特殊な皿なのでしょ?いったいどれくらいの代物なんですか?僕の給料何ヶ月分位なんですか?」
と震えながら尋ねる黄鬼に羅夢は答えた。
「さあな。価値なんてねえよ。だってありゃお菊ちゃんが使ってた皿じゃないんだからな。本物はとっくに壊れてこの世にはないしな。」
「え?どういう意味ですか?」
「だーかーら、あれは偽物だよ。まんまパクリだよ。まあ、似たような皿を持って落ちてきた亡者の持ち物だったのを奪い取ったんだよ」
「え!?そうなんですか!?」と驚く黄鬼に羅夢は続けた。
「ああ、そうだよ。だから今更本物を用意しろって言われても無理だろ?まあ、いいや、そんなことはどうでもいいよ。要はお菊ちゃんの心の問題なんだよ」
「心……ですか?」と不安げな顔をする黄鬼に羅夢は言った。
「そうだよ、心だよ。あのな、お菊ちゃんはお前が壊した事を非常に悲しんでいるんだよ。そんなお菊ちゃんを見てお前は何を思う?」
「な、何を思うって……そりゃ悲しいですね」と答える黄鬼に羅夢は頷きながら言った。
「そうだろ?じゃあ、それに対してお前はどう責任を取るつもりだ?」
「責任って言われても……」
「例えばだ、お前がお菊ちゃんの代わりにその皿を集めて持ってきてあげるとかな。まあいい。少し暇をやるから現世に行って探して来いよ!」
「え?今すぐですか?」
「ああ、早く行けよ。お菊ちゃんはお前のこと待ってるぞ」
「え?待ってるんですか?」と戸惑う黄鬼だったが羅夢はニヤニヤしながら言った。
「ああ、そうだよ。早く行って来いよ。俺も気になるんだよな、どんな反応をするかね」と言うと黄鬼は焦り始めた。
「わかりました!行きますよ!」
そう言って走っていく黄鬼を見送った。




