不動明王の炎
##### 燃えさかる豪炎の山の上空
「ふう、大体この辺りでいいかな?」と侍女が言って筋斗雲を止めると、下は見渡す限りの炎に包まれた火山が広がる光景だった。そしてそこへ向かって美琴を落とそうとしたが必死に抵抗する。
しかし上半身は縛られているので抵抗むなしく真っ逆さまに落とされてしまった。
どす――――ん!燃えさかる豪炎の中に叩き落とされた。
「ふぎゃぁぁーーーー!」断末魔のような悲鳴が響き渡った。だが亡者なので死ぬことはなかった。それでも熱さや痛みは感じるのだ。
しばらくして意識を取り戻した時、すでに体中の水分は蒸発しており全身大火傷を負っていた。さらに周囲には硫黄の匂いが充満しており目が染みて涙が止まらなかった。
そこへ美琴を落とした侍女がやってきた。
「あらまあ、可哀そうな位にボロボロになったわねえ」と言って美琴を拾い上げると再び空中へと舞い上がり山頂近くで美琴を落とし燃えさかる炎の中へと戻した。
「もう一度死になさい」と言って落とされる美琴であった。
「ぎゃあぁぁーーーー!」と再び響き渡る悲鳴。しかし死ぬことは許されなかった。
その光景を眺めていると突然、氷雨がやってきた。
「ごくろうさま。状況はどうなってるのかね?」と尋ねてきた。
それを見た侍女はすぐに正座すると挨拶した。
「閻魔様にお使えする氷雨様ですね、弁天様の命にてこの穢れた魂を浄化させています」と答える侍女に対して氷雨は
「そうか、それはご苦労様でした。あとどのくらいで終わるかな?」と聞くと侍女は答えた。
「そうですね……この分だと後二刻もすれば終わるのではないでしょうか?」と答える侍女だったが氷雨は言った。
「ありがとう、ちょっと彼女と話ができるかな?」
「うーん、どうでしょうかねえ。豪炎に焼かれて会話のできるような状態ではないと思いますが…」
と困ったように答えた。
そこで氷雨は直接、美琴に話しかけた。
「美琴くん、聞こえるかい?」と呼びかけると美琴は薄らと目を開けて答えた。
「あ、氷雨様、どうしてこんなことに?」と尋ねてきたので氷雨は答えた。
「申し訳ない。単刀直入にいうがこれは不動明王の炎なんだ。」と言った後で
氷雨は続けた。
「簡単に言ったら聖なる炎に焼かれてるんだよ。この炎は悪いものをすべて焼き尽くす炎なんだ。いくら清らかな心と体を持っていても地獄と言う場所にいるだけでおのずと穢れがまとわりついてしまうのだ。そしていずれは身も心も本当に穢れてしまうんだよ」と言うと美琴は驚いたように聞いてきた。
「え?私の魂って清らかな魂なんですか?」と美琴が聞くと氷雨は答えた。
「そうだね。本来なら天国に行ってもおかしくない位の清らかな魂だよ。だからこそ地獄に居るという事自体が不自然なんだよ」と氷雨が言うと美琴は納得したようだった。
「じゃあ……私はどうなるんでしょうか?」と不安そうに尋ねると氷雨は答えた。
「まず先に君が今持っている穢れを完全に取り除かないといけないね。それとこの炎は聖なる炎とはいえ不動明王の炎だからかなり痛いと思うけど我慢してくれるかい?」というと美琴は覚悟を決めた表情をして頷いた後、気を失ってしまった。それを見て氷雨は言った。
「よし、もうしばらくすれば解放されるはずだ」と言い残して氷雨は去っていった。
そして数十分後、炎が収まったあとで侍女は美琴を拾い上げると氷雨に報告をした。「終わりました」と告げると氷雨は
「そうか、ありがとう。じゃあ彼女は地獄に連れ帰るよ」と言って美琴を担いでいった。
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その後、しばらくして目を覚ました美琴はベッドの中で目を覚ました。
「ん……ここは?」と呟くと横から氷雨の声が聞こえた。
「ここは地獄の休憩室だよ」と言うと美琴は尋ねた。
「どうしてこんな所にいるのでしょうか?」と言うと氷雨は説明した。
「まずは君の魂を浄化するために弁天様の命令で炎の中に投げ入れられたんだよ」と言うと美琴は納得したように頷いた。
「でも私が清らかだなんて信じられません。確かに私は悪いことなんてしていませんが地獄で働いているのですから穢れているはずですね」と答えると氷雨は言った。
「それに最近では、妲己やディアボロス、ベリアルといったような魔族ともかかわった事も大きいね」
それを聞いた美琴は目を大きく見開いて驚いた様子で言った。
「え?私も呪われてるんですか?」と言うと氷雨は否定した。
「違うよ、呪いなんて受けていない。ただ影響を受けた可能性はある」と答えた。
「影響?」と不思議そうに尋ねる美琴に対して氷雨は言った。
「まあ、呪いを受けた訳じゃなから安心してくれ。でも悪魔達と一緒に仕事をしている以上ある程度の影響は避けられないだろう」と言った。それを聞いた美琴は少し悲しそうな表情をして俯いてしまった。
「そうなんですね……」と小さな声で呟く美琴に対して氷雨は言った。
「でも大丈夫だ。君の魂は強いから簡単には穢れないよ」と言った後で
「ただし、もしも心が闇に飲まれそうになったらいつでも相談するんだよ。いいね?」と言うと美琴は笑顔で答えた。
「わかりました!ありがとうございます」と言った後、
「ところで私はずっとここに寝ていたのでしょうか?」と尋ねると氷雨は答えた。
「そうだよ。まあ、それほど長い時間というわけではないけどね」
と答えると美琴は続けて尋ねた。
「そうなんですね……それじゃあもう仕事に戻りますね」と言って起き上がろうとするのを氷雨が制止した。
「待ってくれ。もう少し休んでいた方がいいだろう」と言うが美琴は首を振って答えた。
「いえ、もう大丈夫です」と答えると氷雨は
「そうかい?それじゃあ今日はもう仕事は休むと良い。ゆっくり体を休めなさい」と言った。
それを聞いた美琴は素直に頷き、そのままベッドで眠りについた。
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目が覚めて起き上がると妙に体が軽くなった感じがした。
「白バラは やさしい悪魔♪ ひなげしは おしゃべりが好き♪」
そんな歌を歌いながら身支度をしていると
「おはよう美琴ちゃん!」と羅夢が挨拶して来たので「おはようございます」と返すと羅夢が聞いてきた。
「ねえ、美琴ちゃん燃やされたんだって?熱くなかった?」
と聞いてきた。美琴は
「はい、かなり熱かったです」と答えると羅夢が聞いてきた。
「そうなの?私も燃やされてみたいわぁ~」というので「え?」と聞き返すと羅夢が答えた。
「だって、どんな感じなのかなって興味あるじゃん!」というので美琴は少し困った表情をしながら答えた。
「正直に言いますけど羅夢さんだと全部燃えて消滅してしまいますよ」
と答えると羅夢は「え?私燃えやすいの?」と聞くので美琴は答えた。
「はい、悪魔や鬼はあのー…言いにくいんですけど…心も肉体も穢れてると思うので…いや、羅夢さんは違うと思いますが…あのー」と返答に困りながら答えると羅夢は笑いながら答えた。
「いいよいいよ、気にしないで。まあでも確かにそうかもね~」と言っていた。
「じゃあさ、美琴ちゃんならまた燃やされたいって思う?」と聞いてきたので美琴は考え込んだ。確かにあれはとても辛い体験だったけど穢れを落とすためには仕方がない事かもしれない。それに今の私は生まれ変わったように体が軽くなったのだ。
美琴は羅夢に言った。
「いえ、もう二度と経験したくないです」と答えると羅夢は笑いながら言った。
「ははっ、そうだよねー、でも地獄で働いてるからには定期的に燃やされると思うから覚悟はしておいた方がいいと思うよ」
と言われて美琴は絶望を感じながら「はい……」と返事をした。




