パンデミック‼
その顔無しの死神によって次々と犠牲者が増えていく中、自衛隊員達は自衛隊医療センター内において隔離されていた。
もちろん院内で勤務している医師や看護師、さらには患者までもが同様に院内にて軟禁状態となっていた。
斑黒病の特効薬のワクチンを所持しているレーアエンタープライズに対して各国は様々な要求をしてきた。
ワクチン提供の交渉は難航していたが、レーアエンタープライズ側は厳しい条件をつけていた。
それはワクチン製造権利を譲渡する事と引き換えに莫大な金銭の支払いを求めたのだ。
当然そんな要求をのむ国など無く、時間だけが過ぎていった。
するとある国の総理大臣が
「このままでは我が国の国民が皆殺しになってしまう。レーアエンタープライズの社長が提示してきた条件を呑むしかないだろう」と言ってしまった事により国際社会から非難轟々の集中砲火を浴びたのだった。
だがそれでもレーアエンタープライズの社長の態度は変わらず、なおも強硬な姿勢を崩す事はなかった。
「レーアエンタープライズってもしかして妲己さんの作戦に乗ってるの?本当に?あんな疫病神の肩入れするなんてバカじゃねえの?」
羅夢が呟くと氷雨が答えた。
「ああ、おそらくそうだろうな。奴の目的は未だに分からんが、このままいけばいずれ地獄にやってくる事になるだろう。その時にこそ真価が問われるというものだ」
「そういうもんですかね。今のところは世界中でパニック状態ですよ」と青嵐が言うと美琴が補足するように言った。
「そうですね。ほとんどの国がレーアエンタープライズと揉めてますからね。まあ、中には交渉に成功している国もありますけど……」
それを聞いていた黄鬼は不安そうな顔をしながら言った。
「大丈夫なんでしょうか?このまま放置していたら世界は滅んでしまうのでは……」と心配そうな表情をする。
それを見た氷雨はため息交じりに言った。
「まあ、所詮は人間が引き起こした問題だ。我々が出しゃばる事ではない」
「それはそうですけど……」と黄鬼が言い淀んでいると羅夢が口を開いた。
「まあいいんじゃない?どうせ最後には妲己さんが制裁を加えるんだし。私たちは何もしないでおこうよ」と言った。
「そうだな。それが一番だろう」と氷雨も賛同した。そして妲己の計画は順調に進んでいった。
だが、妲己の作戦通りにレーアエンタープライズがワクチン製造の独占権を獲得し、莫大な利益を手に入れたころ、ここからが本当のショーの始まりだったのだと思い知らされることとなる。
それは一つの報道から始まった。
出版元は世間からはゴシップ紙と揶揄され購読層はフィクションと割り切り娯楽の一種として読んでる人達ばかりの新聞だ。
しかしその内容は衝撃的だった。
『レーアエンタープライズの裏の顔、日本財政界の闇を暴く!可憐さんからの真実の手紙』といった見出しで発行されたのだが、これがなぜかフィクションには見えない程で、
特に『この手紙が公になってる頃には私はこの世にはいないでしょう』という内容と共に殺害されたとされる可憐の手紙の全文を掲載していた事に世間は騒然となった。
そしてその内容というのがレーアエンタープライズの裏の顔と書かれていたものなのだが、それは可憐がレーアエンタープライズの社長に対しての暴露メールの内容だった。
その内容とはレーアエンタープライズの社長が斑黒病のワクチンを製造するために非人道的な人体実験を行なっている事や、政府機関の一部の要人に多額の献金をしている事などが暴露されたものであった。
さらに言えば可憐は斑黒病のワクチンを作るためにレーアエンタープライズの研究員を脅迫していた事や、
斑黒病の感染経路を特定する為に研究員たちの家族を拉致監禁した上で人体実験を行い、多くの犠牲者を出していたことも明らかにされた。
はじめは、またいつものゴシップネタかと笑い飛ばしながら読んでいた購読者もいたが、あまりにも内容がリアルで、しかも可憐が遺書として書いたと思われるメールの文章にはレーアエンタープライズの社長に対しての恨みつらみが書き綴られており、その文章からは非常に強い怨念が感じられるものであった。
内容の衝撃さに多くの人々の間に動揺が広がる中、特に話題となったのが可憐という女性が以前、レーアエンタープライズの社長と婚約していたという点だった。
そして可憐がレーアエンタープライズの社長に殺害されたのではないか?という憶測がネットを中心に拡散していった。
それを受けて世間はレーアエンタープライズを批難し始め、特にワクチンを求めていた国々では大規模なデモ活動が起こり、レーアエンタープライズに対する圧力が高まっていった。
当然、このような事態となれば各国政府も黙ってはいられず、レーアエンタープライズに対して抗議文を送ったり、対応を協議したりしていたのだが……それとは別に日本の政府内ではその抗議文を送られた先のレーアエンタープライズに対する政府の対応があまりにも鈍い事が問題視され、国会の質問攻めにあっていた。
「政府はレーアエンタープライズに対してどのように責任を取らせるつもりなのか?」「レーアエンタープライズの社長に対して厳重な処罰を科すべきではないのか?」「そもそもレーアエンタープライズの社長は斑黒病の原因を作り出した張本人なのではないのか?」と糾弾の嵐となった。
それを受けた政府は緊急の会議を招集し、その場でレーアエンタープライズの社長に対して事情聴取を行なう事を決定した。
しかしレーアエンタープライズの社長は「自分は無実であり、ワクチン製造に携わっていたのは可憐という人物であり自分は全く関わっていない」と主張したのだが……
##### 地獄の休憩室
報道を見ながら妲己がケラケラ大笑いしている姿を目にした鬼達は顔をしかめていた。
「お前って悪魔みたいな奴だな。」と羅夢が怒りを露わにしていると妲己が彼女に向かって言った。
「みたいではなくて魔族ですから」そしてさらに続けてこう言った。
「あなただって鬼じゃない。非難される筋合いはないと思いますよ」
羅夢は反論できずに歯噛みしていた。すると妲己が言った。
「それにね……これはまだまだ序の口なのよ。これからもっと面白くなってくるわよ」とニヤリと笑う妲己だったが……
そこへ青嵐が口を挟んできた。
「いい加減にしなさいよ!あんたのせいでどれだけの人が犠牲になったと思ってるの!」と怒りを露わにして叫んだ。
それを聞いた妲己は笑いながら答えた。
「犠牲?ふふ、そうね。確かに犠牲者は多いでしょうね。でもね……それは彼らが勝手にやっていることで私には関係ないわ」と言った。
それを聞いた青嵐は怒りに震えながら言った。
「ふざけるな!お前のせいだ!」
それを聞いていた鬼達は騒ぎ出した。
「そうだ!責任取れよ!」
「くたばれ疫病神!」
「魔族なんて消えてしまえ!」
しかしそんな罵詈雑言を浴びせられている妲己だったが全く動じる事はなかった。そこに氷雨が割り込んで来た。
「まあまあ、羅夢さんそんなに熱くならないで。ほらそれに青嵐さん達も落ち着きなさい。確かに妲己のやってる事は酷い事だと思うがそれはそれで魔族としての役割なのだから仕方のない事なのです。逆に羅夢さん、あなたは獄卒長という役職にありながらいささか優しすぎる所もありますねえ。まあそれがあなたの良い所でもあるんですがねえ」と冷静に言い放つ氷雨だった。
「氷雨様……あなた……」
青嵐が少し驚いたように言いかけると妲己が言った。
「ふふ。流石は氷雨様。わかっていらっしゃいますね」と妲己が微笑むと氷雨は続けた。
「それに妲己の行動は人間に対する因果応報でもあるんだ。お前達もわかっているだろう?」
と全員に向かって問いかけた。
そして沈黙が流れ、誰も何も言えずにいた。
そんな中、美琴だけがポツリと言った。
「それでも私は認められません……」
その言葉を聞いた妲己は美琴に視線を向けた。
「まあまあ、あなたは真面目な子ですね。でもいいですか?あなた方がどう思おうが所詮は魔族が作り出したシステムなんですから気にする必要はありませんよ」と妲己が諭すように言った。
それを聞いた美琴は俯いてしまった。そしてそれ以上何も言わなくなってしまった。
そんな彼女を見て妲己は満足そうな表情を浮かべると、再びテレビの画面に目を向けたのだった。




