妲己の悪だくみ
「妲己……あなたからして欲しいお話というのはなんなの?商売の話でしょう?まさかとは思うが衆合地獄で客寄せパンダになるなんて言うんじゃないだろうね?」
「ふふふ。流石にそれはないわよ。だって私は魔界の女帝よ?」と彼女は微笑む。
「でも商売の話なのは間違いではないわね」と彼女は答えると氷雨は「やっぱりか」と言いたげな表情で続きを促した。
「実はね一代で大金持ちになった男を見つけたのよ」と妲己が言うと氷雨は呆れた顔をした。
「ああ、もうわかったよ。どうせその男を魅了して彼の周りを混沌とさせたいのだろう」と聞くと彼女は嬉しそうに笑いながら言った。
「さすが氷雨様!わかってるじゃないの!」と妲己は嬉しそうに言った。
「つまりその男の欲望を煽ってトラブルを起こさせたいから協力してほしいと言うことね」
「そういうこと!」と妲己が答えると羅夢が割って入ってきた。
「ちょっと待って!それって単なる迷惑行為じゃない!そんなの許可できるわけないでしょう!」
しかし氷雨は冷静に言った。
「まあまあ羅夢。落ち着きなさい。妲己の狙いはわかっている」
「わかっている?」と羅夢が聞き返すと氷雨は続けた。
「その男がトラブルを起こした後に生まれる感情……恐怖・憎しみ・後悔……そういった負の感情を吸収したいんだろう?」
その言葉に妲己はニヤリと笑った。
「ええ、その通りよ。地獄の住人たちはみんな欲望にまみれて殺し合いが始まるのよね。その時の後始末をお願いしたいわけ。魂だけは処分に困るわ…」
「なるほど、それで我々に手伝って欲しいわけか」と氷雨は納得したように頷いた。
「つまり、妲己さんがその男を誘惑して暴走させた後、争いごとを起こし死亡した人たちの魂を回収してほしいと」と青嵐が確認するように言うと妲己は頷いた。
「まあ簡単に言うとそういうことね。魔族の影響下で亡くなった者は自動的にこっちの世界に来ないのが厄介なのよね。取り付いてきて困るのよ」
「解った。できる限りの協力はする」と氷雨は承諾した。
「じゃあさっそくその男の資料を持ってくるわね」と言うと妲己はどこかへと去って行った。
「なんだか凄い方ですね」と青嵐が言うと
「まあ、やってること自体はディアボロス達と変わらないけどね」
羅夢は苦笑いをするがすぐに真剣な表情になり
「氷雨さん、大丈夫?正直あの人のやり方はちょっと危険な感じがするんだけど」
すると氷雨は少し考えてから答えた。
「まあ、大丈夫だろ。昔からあんな調子だしね」
「氷雨さんがそう言うなら……」と納得する二人。
「あっ!そうそう氷雨さん。私、美琴ちゃんを連れて黄鬼の代わりに等活地獄に行ってきましたよ」
「美琴ちゃん?あの子が?よくあの地獄を平然と見学できたもんだ」と氷雨が感心したように言うと
「ええ。あの子凄いですよ。あの牛頭や馬頭を見ても平然としていましたから」と青嵐が答えると二人は驚きの表情を浮かべた。
「へえ~。それはすごいな」と羅夢が感心すると氷雨も頷いて言った。
「確かにそれは凄いね」と言ったところでちょうど妲己が戻ってきたので話題を変えた。
「この男よ。一代で成り上がった実業家で一代で築いた財産は数千億円。日本を代表する企業グループを率いる男よ」
と妲己は写真を差し出すとそこに映っていたのは四十代くらいの男性だった。
「へぇ~。これがその男か……」と羅夢が眺めていると氷雨が尋ねた。
「で、この人をどうするつもりなんだい」
「彼のお金を使って世の中を混乱させるのよ。例えば人工ウイルスを使ってパンデミックを引き起こさせ彼だけがワクチンを持っていて高額で売り出すとかね。もちろん政治家にはワクチンとお金をばらまいて口封じをして、頃合いを見てばらせば国民の怒りなんて相当でしょ」
妲己の話を聞いて羅夢は眉をひそめた。
「あんた……ひどい事考えるね……下手すればクーデターよ」
「ふふ。だからいいのよ」と妲己は微笑む。それを聞いた氷雨はため息をついて言った。
「まあ確かにそうかもしれんが……あまり派手にやりすぎるなよ。あくまでも水面下で動いてくれ。そうでないと我々も面倒になるからな」と念を押すと妲己は頷いた。
「わかってるわ。私としては今回のことがきっかけで世の中に混乱が起きてほしいと思っているだけ」と答える。
「そうか……わかった。あまり目立たない程度であれば構わないぞ」と氷雨は了承した。
「天国の神様達にはばれないようにやれよ。もしバレても知らんからな」
「大丈夫よ」と妲己は余裕の表情で言った。
「それで?具体的にはどうやって事を起こすんだ?」
「ふふふ。誰に言ってるの。私の能力は人を魅了すること。それを使えば簡単よ」と自信ありげに言う。
「なるほど。つまりこの男が欲望に染まった時にその力を使うわけだな」
「そういうことよ。」と妲己は微笑んだ。
「わかった。できるだけのことはする」と氷雨は言った。そして妲己は去って行った。
「本当に大丈夫なのかなあ?」と羅夢は心配そうに言う。
「まあ、妲己の能力は強いからな。大抵の男なら落ちてしまうだろう」と氷雨は言った。
「それに彼女の言う通りうまくやれば大儲けできるかもしれないしな」と付け加えると羅夢は苦笑いした。
「まあそうかもしれないけどさ……なんだか最悪の女ですね」
「とにかく我々は妲己のサポートをするだけだ」と氷雨は言った。そして妲己の作戦が始まろうとしていた。
### 衆合地獄
羅夢は今日もデスクワークに追われていた。
「あ~もう!忙しい!どうしてこんなに仕事があるの!?」と愚痴をこぼす羅夢を見て
黄鬼がニコニコしながら近づいてきた。
「羅夢さん。この間は申し訳ありませんでした。お菊ちゃんの機嫌も良くなり助かりましたよ」と言った瞬間に後ろから青嵐が頭を軽く叩いた。
「だ・か・ら!浮気はダメって言ったでしょ!」と青嵐が叱りつけると黄鬼は必死に弁解する。
「違うんです!僕はただ……」
「言い訳するな!」と羅夢が雷を落とすと黄鬼は泣きそうになる。
「……ごめんなさい」
「黄鬼さん、軽蔑します!」と美琴も怒りを露にする。それを見て氷雨はため息をつきながら言った。
「まったく……。まあ今回はお菊ちゃんも大目に見てくれるそうだから良かったものの次はないと思いなさいよ」
「はい……」としょんぼりする黄鬼。
するとそこへ妲己が現れて言った。
「あら?どうしたの黄鬼?元気がないじゃないの?」
「あ、妲己さん……」と黄鬼は彼女を見て少し顔を赤らめる。それを見た青嵐は彼を睨みつけながら言った。
「妲己さん!また黄鬼さんに変なこと吹き込まないでくださいね!」
すると妲己は苦笑いしながら答えた。
「もう二度としませんよ!……多分」
「多分てなんだよ!多分て!」と青嵐が突っ込むが妲己は笑っているだけだった。それを見て氷雨は呆れたように言った。
「お前たち本当に飽きないな……。まあいい。黄鬼、お前はもう帰りなさい。今日は早く寝て疲れを取ることだ」
「はい」と素直に従う黄鬼。そして妲己に向かって言った。
「あの……妲己さんも……また今度食事でも……」
「ええ!是非!」
と微笑む妲己。それを聞いた羅夢は回し蹴りを黄鬼の頭部に炸裂させた。
「いでっ!」
「黄鬼!あんたも懲りないわね!妲己さんに近づくな!」
と怒鳴る羅夢だったが黄鬼は涙目になりながら訴えた。
「羅夢さん……ひどいですよ……」と言ったところで羅夢が追い打ちをかけた。
「五月蠅い!浮気する奴に慈悲はない!」
と怒り心頭の羅夢に黄鬼は完全に怯えていた。
「まあまあ、羅夢さん落ち着いてください」と美琴がなだめるが羅夢の怒りは収まらない。それを見かねた氷雨が言った。
「羅夢。もういいだろ。これ以上は過剰防衛だぞ」と言うと彼女は渋々納得したようだ。
「チッ……わかったよ」と舌打ちしながら引き下がる羅夢。
すると妲己がにっこり笑いながら言った。
「ふふ。面白いわねあなた達。黄鬼君もまた誘ってくれる?今度は二人っきりでね♪」
「はい!喜んで!」と目を輝かせる黄鬼を見て青嵐はため息をついた。
「まったく……この子は本当に学習しないんだから……」と呟く青嵐であった。




