いっぺん地獄へ行ってみる?
##### 現世
「あの女が死んでくれて彼もとうとう私の物ね♡」
と浮れている女性がいる。彼女の名は三田恵子。28歳のフリーターだ。恵子は沢木雄一郎(23)と不倫関係だった。
不倫とは言う物の雄一郎が出張先で出会い酔った勢いで一度切りとは言え行為を行っただけの関係性なのだが。
その事については彼自身も深く反省しており後悔もしていた。だが恵子にとっては一度でも彼に抱かれた事が何よりも幸せであり彼への執着が日に日に増していった。
そのため彼女は邪魔な美琴がいなくなれば彼が自分の物になると信じており
あの地獄乙女に美琴の呪殺を依頼し、見事その願いは叶えられた。
「今日も雄一郎のマンションに向かわないとね♪」
とウキウキしながら電車に乗る。何故マンションの場所を知っているのかと言うと彼女がGPSなどを用いて特定したからだ。
そしてマンションの前に着くとインターホンを鳴らした。すると中から出てきたのは雄一郎だった。
「あっ!雄一郎くん!来ちゃった♪」と言うと雄一郎は眉を顰めながら言った。
「……何度も言いますが……貴女の事なんて俺には微塵も興味ありませんよ。いい加減に帰ってくれませんか?」
と冷たい態度を取る雄一郎に対し恵子はニコニコしながら答えた。
「もう~そんな事言わずにさぁ!私と一緒に過ごそうよ!」と抱き着いてきたので雄一郎は慌てる。
「うわっ!?何するんですか!離れてください!」と言うが彼女は離れようとしない。むしろ更に強く抱き締めてくる始末だ。それを見た雄一郎は痺れを切らし強引に引き剥がすと言った。
「いい加減にしてくれ!警察を呼びますよ!」と脅し文句を口にするが彼女は全く動じていない様子で逆に笑いだした。
「えへへ〜ごめんなさ〜い♪」と可愛らしく謝ってくる。しかし全く反省している様子はない。むしろ楽しんでいるようにしか見えないのだ。
そこで雄一郎は彼女を無視して家に入る事にした。だがそんな事で諦める彼女ではない。雄一郎が玄関に入る前に体を滑り込ませてきたのだ。流石にこれは予想外だったようで雄一郎は驚いてしまう。
「ちょっと!何してるんですか!出て行ってください!」と言うが効果はないようだ。
(ダメだ……この人頭おかしい……)
そう思った矢先突然明かりが消え、辺りは真っ暗になり彼も意識をなくし、その場に倒れこんでしまう。
壁際にボーっと人影が現れてきた。
それはあの時の地獄乙女だった。
「依頼完了しましたので報酬を頂きに参りました。五千万円もらい受けます」と低い声で言い放つ地獄乙女。
その言葉を聞いた瞬間恵子の顔が強張った。
「なっ!?なんでお金払わなきゃいけないのよ!私は美琴の呪殺を依頼しただけでしょう!?」と反論すると地獄乙女は無機質の表情で
「契約書にはちゃんと書いてありますよ。説明もしたはずですが」と淡々と述べていく。すると恵子は慌てたように言った。、
「そんな事書いてなかったわよ!勝手に作り変えたんじゃないの!?」と言うが地獄乙女は首を横に振った後こう言った。
「いえ、きちんと契約書に記入しましたし説明もしました。依頼主の払える限度額を頂くと。あなたの場合、現在住んでいるマンションや現預金などの全財産の総額となります。物納でもいいですが」と淡々と話す。
それを聞いた恵子は怒りで顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「ふざけんな!金なんて払えるわけ無いだろ!払わねえからな!」と言うと同時に近くにあった花瓶を掴み投げつけようとしたが全く動かない。すると無表情の顔で
「あなた、いっぺん地獄へ行ってみる?」そう言い放つとあたりはどす黒い雰囲気に変わっていく。恐怖のあまり腰が抜けたかのように動かなくなり尻餅をつく恵子。震えながら後退りするが
「ヒィィ~~~!」と情けない声を上げその場から逃げ出そうとする。しかしその行動は無駄に終わった。
何故なら目の前に地獄乙女が立っていたからだ。その瞳からは底知れない闇を感じさせられており思わず後退る。
「ひぃ!来ないで!解った。解りました!なんでも持って行ってください」と青ざめながら言うと地獄乙女は
「それではこの書類にサインをお願いします。マンションの譲渡契約書、他もろもろの関係書類となります」
と紙とペンを手渡してきた。そこには山のように書類があったが彼女は恐怖のあまりそれを了承したのだが、
「え?あなた方って非現実的な存在のはずなのにそんな契約役に立つのですか」と恐る恐る疑問を
口にしてみた。
すると地獄乙女は淡々と語る
「当社は現実世界の法務、司法などと交渉可能です」と言い放った。さらに続けて
「今あなたが持っているすべての個人資産を頂きますので以後こちらでの生活は望めないかと思います」と淡々と告げられた。
そして地獄乙女は最後にこう言い放つ。
「この雄一郎というお方の家に住み着けばいいだけの話」
それを聞いた瞬間恵子は絶望した。確かにこのマンションは広くて綺麗だ。それに家具付きなので贅沢すぎる環境だ。
「さあ、はやくサインを」と迫られ渋々契約書にサインをするしかなかった。そして契約書にサインをすると同時に周りの景色が一変した。そこは見覚えのあるマンションの一室だったのだ。
「さあ、契約成立です。後は好きにしてください。私は帰ります。これから大変でしょうから」
地獄乙女はそう言い残すとその場から消えていった。雄一郎も意識を取り戻しキョトンとしていた。
残された恵子は茫然と立ち尽くす事しかできなかったのだった。
その後、すったもんだと雄一郎と言い争いの末、なんと一緒に住むことになってしまった。
雄一郎としても妻を失った寂しさ、詳しい事情は聞いていないが恵子の住む場所がなくて困っていること、そしてその原因が自分にもあると言われた事、そして何よりも一度切りの過ちだったとはいえ外見は好みだったという事が何よりも大きかった。
「はあ、これは何かの天罰なのかもな。これで彼女に償うことになるかもしれないし」と呟いていた。
だが後悔してももう遅いのだった。
これからは恵子を精一杯幸せにすることこそが自分に対する罰だと思う事にしたのである。
こうして奇妙な同棲生活が始まったのだった。
そしてその一部始終を高台から眺めている人物がいた。地獄乙女である。
「ふふ、あとは御夫婦で仲良くしてくださいな」と独り言を言うと彼女は闇夜の中へ消えていったのであった。
その後、雄一郎も恵子もこの体験後、心から反省し、毎日仏壇で美琴の位牌に手を合わせています。
それが贖罪になりますようにと祈りを込めながら。ちなみに恵子は美琴の件については墓場まで持っていくことを誓った。
いつか雄一郎にも話すべきなのかもしれないがタイミングが中々つかめないのであった。




