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第35話 朝チュンは賑やかに——

——ねぇ、みっ……みなと。おはよ……。


まどろみの中、聞き慣れた甘い声が脳内に響く。


——昨日は……楽しかった……。


重たい瞼を開けようとしても、なかなか上手く身体が動かない。

昨夜の激しい運動の疲労と、柔らかすぎるホテルのベッドのせいだろうか?

手足が鉛のように重い。


——まだ寝てる?寝てる……わよね……。


「……んっ……」


俺は言うことを聞かない身体にどうにか命令を下し、重い瞼を薄く開く。

焦点が合わない。眩しい光が差し込んでいるわけでもないのに、何もかもがぼやけて、視界が真っ白だ。

でも、俺のすぐ隣には、たぶん雫がいるはず。


「……しず……く……今、起きるから……」


いまだ開けない視界にうんざりしながらも、俺は目のピントを絞ろうと躍起になった。

白ける視界の真ん中に誰かの顔がゆっくりと浮かび上がり、段々と輪郭を結んでくる。


その顔は、間違いなく俺の知っている美しい少女の顔で。


——大好きだよ……みなと——



————————



「……ん……夢?」


ゆっくりと瞼を開くと、間接照明に照らされたアジアンテイストなホテルの天井が見える——


意識が完全に浮上しきらぬままそっと顔を横に動かすと、そこには寝返りを打って俺の方を向き、気持ちよさそうにスースーと寝息を立てて眠る雫がいた。


その反則級に可愛く無防備な寝顔を見て俺はホッと胸を撫で下ろすと、起こさないようにそっと枕元のスマホに手を伸ばし時間を確認する。


時刻はまだ朝の7時を少しまわった所。

こういうホテルは外の光が入らないから、時間感覚が完全に狂ってしまう。


……まだ早いし、もう少し寝てよ……。


今日は9時過ぎくらいにのんびり起きて身支度をしてチェックアウトし、どこかで適当に昼飯を食べて流れるまま解散、というゆるい予定を昨日雫と決めていた。

だから、まだその時間まではだいぶ猶予がある。


俺はスマホを適当に放り投げ、広く柔らかいベッドの隣で眠る雫にそっと身体を寄せていき、彼女に軽くハグをするように横から抱きついた。


これは最近、彼女の隣で寝るたびについやってしまう俺の無意識の行動だったりする。


「……うにゅ……」


俺のハグに反応した雫はそんな声を上げて軽くもぞもぞと動くと、俺に抱きつき返してきた。


昨夜からだいぶ薄れているが、それでも雫特有の甘い香水とホテルのシャンプーの香りが混ざったいい香りが鼻先をくすぐり、密着した腕から伝わる温かい体温と柔らかな感触に、俺の心は満たされていく。


幸せだ。大好きな彼女と朝を迎えるなんて、これ以上の至福があるだろうか。


そのまま流れでベッドの上でぞもぞと互いに密着していると、雫の手が俺の右手を導くように引き寄せ、俺の手のひらにスポッと柔らかく温かな『なにか』が触れた。


……柔らかくて、ふわふわだぁ……。


まあ、こんなシチュエーションでこの弾力。考えるまでもなく多分……おっぱいである。


昨日はお互いにホテル備え付けの薄いバスローブのようなガウンを着て、だいぶ無防備な格好で寝たので、なにかの拍子にガウンの隙間に手が入り、偶然触れてしまったのだろう。


起きていれば理性で自重したかもしれないが、まだ寝ぼけ眼の俺は、無意識のうちに思わずそれを優しく、愛しむように撫でてしまった。


すると、隣でピクッと彼女が身体を小さく震わせ……。


「んっ……あっ……」


そんな色気のある甘い吐息が漏れたかと思った、次の瞬間——


「……へっ……はわっ?!」

「……っ?」


ひどく小さな驚きの声が上がり、次いでシンと静寂が空間を満たした。

俺はその予想外の反応にウトウトしながらも目を薄く開け、腕の中の彼女の方を確認してみる。


すると、そこには目を限界まで丸く見開き、顔から火が出そうなほど真っ赤に染め上げながらこちらを見つめる少女がいた。


「あっ……悪い雫……起こしちゃったか?ごめんごめん」

「………………」


俺がのんきに声を掛けても、彼女は無言で激しく目線を泳がせるばかり。


……なんか、おかしい……。


そのただならぬ空気が、俺のまどろんでいた意識を急速に浮上させてゆく。


「雫……?」

「ああっ……あのっ……みなと……くん」


……ん?ちょっと待て……今、くん……て……?


雫は俺のことを呼び捨てにするはずだが……。

既に頭から湯気が出そうなほど顔を赤く染め、目が回りそうなほど視線が踊っている彼女。 そこでようやく、俺の鈍い脳がこの異常事態の正体に気づき始めた。


「……えと……もしかして……朝凪……?」

「…………ええ…………おっ、おはよう……湊人くん……」


……っ!!


その瞬間、俺の頭の中の血液が一気に沸騰し、急激に血が上った。

俺は勢いよく弾き飛び、急いで彼女のガウンの隙間に突っ込んだ手を引っ込めて彼女から距離を取った。


「ごごごっ?!ごめん朝凪?!違うんだ! これは……なんていうか……わざとじゃなくて!」

「だだだだっ、大丈夫よっ!?雫だと思ったのよね?!そうよね!?」

「そっ、そうなんだけど!?俺、朝凪だって気づかなくて!?本当にごめん!!」


……やばい……俺、朝凪のおっぱいガッツリ揉んじゃったよ!?キスの次はこれかよ!?


ベッドの上でバスローブ姿の二人が真っ赤な顔をしてアワアワと慌てふためく。

シュール極まりない地獄の朝が開幕。


「い、今、すぐに雫を起こすわね!?」

「いやいや大丈夫!? まだ朝早いし朝凪も寝てていいぞ?!」

「いいわ、すっ、すぐ呼んでくるからっ!」


朝凪は恥ずかしさの限界を迎えたのか、バサッと布団を頭までかぶって立てこもり、俺との対話を強制的にシャットアウトしてしまった。


そして、数十秒の静寂の後——


「…………み〜な〜と〜っ!!」


バサァッと勢いよく布団をめくって現れたのは、鋭いジト目で俺を睨みつける雫だった。 そして、現れるなりすぐに荒々しい怒声がベッドに落ちてくる。


「ちょっと!澪に聞いたけど、澪のおっぱい揉んだんだって!?なにしてんのぉ?!」

「……っ!?」


雫は横になったままズリズリと俺に詰め寄り、眉を潜めてグイッと顔を近づけて迫ってきた。


……まさか、そんなセクハラ情報までリアルタイムで共有されるなんて。


「いやっ!?そのっ、あれは完全に事故でっ!」

「事故でも故意でも関係ないのっ!あたしは澪とデートしてもいいって言ったけど、おっぱい揉んでいいなんて一言も言ってないよっ!!」


……それはそうだ。


「ごめん、雫……」


これに関しては俺はひたすら平謝りする他なかった。

しかし、雫はさらにエスカレートしてゆく。


「ん〜〜!もうっ!!おっぱい揉むなら、ちゃんとあたしだとわかってから揉んでよ!! あたしならいつでもウェルカムだけど澪のはだめっ!こんなん、他の普通のカップルなら完全に浮気現場だかんね!?やばいよマジで?!NTRだよ?!」


外見が全く同じなのに、どうやって寝てる時に判断すればいいんだよ!?

とは口が裂けても言えず、俺はベッドの上でへこへこと雫に頭を下げ続けるしかないのが現状だ。


「はい。本当にすんません……」


俺の情けない謝罪に、雫はふぅとわざとらしく大きなため息を吐き、頬をプクッと膨らませてみせた。

そして、そんな怒った顔のまま、俺を真っ直ぐ見やってとんでもない爆弾を落とす。


「じゃあ、澪に手を出した罰として……湊人は今からあたしとえっちです!!」


……ん?ついに俺の耳がおかしくなったか。聞き間違いじゃないよな?いま確かに……。


「えっ……?い、今から?」

「そう!今から!まだチェックアウトまで3時間以上あるんだから2〜3回は出来るでしょ!?昨日、湊人が疲れちゃって先寝ちゃったから……あたし不完全燃焼なのっ!」

「そっ……それはぁ……申し訳ないと思ってるけど……」


俺の情けない声が、アジアンな室内に響き渡る。

そう、昨日。俺は2回、戦を交えただけで体力の限界が来てしまい、そのまま泥のように眠りについてしまったのだ。


男として情けない限りだが……実は、雫は底なしの性豪だったりもして……。

本人は自覚ないみたいだが、もう、なんか色々と凄いのだ。


雫はベッドからバッと上半身を起こすと、俺の鼻先にビシッと人差し指を突き立てまくしたててくる。


「だめ!これは罰なんだからねっ!はいっ!早く服脱いで!!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!わかったからまず準備する時間を……」

「問答無用!早くぬげぇぇぇ!」

「うわっ?!」


急にガバっと俺に覆い被さった雫は、まるで飢えた女豹のように俺のガウンの帯を乱暴に解きにかかってきた。


これ、男女逆だろ普通。


一方で、雫も既にガウンはあられもなくはだけており、白い素肌と一糸纏わぬ暴力的な胸の膨らみが俺の目の前で激しく揺れている。


「いっ……いやぁぁぁぁぁ!!」


こうして朝も早くから俺の情けない悲鳴とともに、雫による強制的なラブラブタイムがスタートしてしまい……結局その日、俺はチェックアウトのギリギリの時間まで彼女に徹底的に搾り取られることとなった。


幸せな地獄。


おい、朝から4回だぞ……俺、腰がないなった——



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