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第34話 どこか不思議なラブラブ——

雫とは、まず腹ごしらえをした後、とあるホテルへと俺達は足を踏み入れていた——


ここは前々から雫が行きたがっていたホテルで、彼女自らが事前に予約を済ませていたこともあり、非常にスムーズな入室ができた。

まあ、高校生の身分でどうやってホテルを予約したかなどについては、今はあえて聞かないことにしよう。良い子の高校生諸君は絶対に真似しないように。


なんだかんだで、雫とホテルに泊まるのは既に3回目。

入室するやいなや、俺達はだいぶ慣れた手つきで荷物を置き……そのアジアンリゾート風の美しい内装に二人で感動したり、楽しくバカな会話を交わしていた。

そして気づけば、雫に誘われるがまま、俺は彼女と一緒に広々としたジャグジー風呂に浸かっていた。


「うわぁ〜。ここすっごいね〜!お風呂も泡泡にできるし最高じゃん!」

「雫、お前すげぇノリノリだな……まあ喜んでくれてるなら良かったけど」


あたりを見渡すと、間接照明に照らされたどこかアジアンテイストで高級感ある造りが、背徳的な非日常感を引き立てている。


そんな空間で、俺と雫は最近の俺たちの間ですっかりお決まりとなった、俺が後ろから雫を抱き込むバックハグ状態で浴槽に浸かり、何気ない会話に華を咲かせていた。


「ん? 湊人、なに目そらしてんの?あ〜〜wwどうせあたしのおっぱい見てたんでしょ? えっち〜ww」


まあ情けない話だが、俺は目線が未だに定まらないまま、たっぷりの泡を纏ってふよふよと湯船で揺れる雫のデカいおっぱいから、俺は必死に理性を保って目を逸らし続けているのが現状だったりもする。


「おまえなぁ……目の前にあんなのあったら、その……仕方ないだろ……」

「いいよ湊人なら?遠慮せずいーっぱい見てもww」


雫はそう言って、湯船の中でバシャリと音を立ててこちらに振り向き、俺と正面から向き合う体勢に変えてきた。


視界には桜色に染まった雫の顔と、濡れて肌に張り付く長い黒髪とインナーカラーの青。そして泡の隙間から惜しげもなく晒される、白くて柔らかな形の良いパイと谷間。


「おっ、おい、ちょっと雫!?」

「まぁまぁwwほら、こっち見てよ湊人!はいっ、ぎゅ〜〜♪」


俺の慌てふためく様子を面白がっているのだろう。

しまいには、雫は悪戯な笑みを浮かべて俺の首に濡れた両腕を回し、そのまま勢いよく抱きついてきた。


「……っ!」


素肌と素肌が直接密着し、雫のふんわり弾力のあるそれがムニュッと押し付けられ。もちっと形を変えてゆく。

既に俺の理性は風前の灯火。なのに、なぜか大層ご満悦な雫。


そんな彼女は俺の首に腕を回したまま、少しだけ上目遣いになって俺の目をじっと見つめてながら、ふと言葉を落とす。


「ねぇ、湊人……あたしの事、好き?」

「そりゃ……もちろんその、好きだよ……言わせんなよ……」

「ぷぷっww湊人照れてる〜ww」

「こんな状況で照れるに決まってんだろ?!」


俺の素直な反応に、雫は心底嬉しそうに目を細めてクスクスと笑っている。

しかし、その笑みは長く続かなかった。


なぜなら、雫は突如として冗談めかした空気の一切ない、ひどく真剣な瞳で俺を真っ直ぐに射抜いてきたから。


「じゃあさ……もし、あたしが急に居なくなったら……湊人は寂しい?」


温かいお湯の中に一滴の氷水を垂らしたような、どこか不穏な雰囲気を孕んでいたその一言。

それを受け、俺の頭の中では嫌なイメージが急激に膨んでしまい、つい声を荒げて聞き返してしまった。


「……は?……おい、それはどういうっ……」


「ねぇ湊人、そんな本気でびっくりしないでよwwただのカップルのよくある例え話じゃんww『私が死んだらどうするー?』みたいなやつ!」


急にお腹を抱えるようにして笑い出した雫。

これが、世にいうリア充の甘いトークというやつなのだろうか?

あまりにも乱高下する彼女のペースに、俺は完全に置いていかれているみたいだ。


「そう言われても……俺、そういうの慣れてないんだよ……」

「ごめんごめんww……でも、その焦り方だと湊人はめっちゃ寂しいんだろうね〜ww」

「そりゃ……当たり前だろ?!」


寂しいに決まってる。そんな事、冗談でも言わないでくれ。

そう叫びたかったが、口に出すことができなかった。


せっかくの甘くて幸せなこの空気を、壊したくなかったから。


「よかったぁ、湊人があたしにゾッコンで!」

「ゾッコンて……なんか言い方古いぞ、お前……」


呆れたようにツッコミを入れると、目の前の雫の空気感がまた別のものへと変わり、俺の目を改めて見つめ直してくる。

その表情は、先ほどの悪戯っぽいものとは違う、たまらなく愛おしそうに瞳を潤ませているみたいで——


「湊人……あたしも大好きだよ……」


急にトーンを落とした、甘えたような、それでいてどこか真剣味を帯びた声。

その言葉を合図にするように、俺たちは惹きつけられる磁石のように自然と顔を近づけ、唇を重ね合わせていた。


深く、長いキス。

自然と雫の舌が俺の唇を割り、熱く絡みついてくる。


ほどなくして小さく甘い吐息が漏れ、名残惜しむように唇が離れると、二人の間に銀色の唾液の糸がツーッと引き、切れてゆく。


既に目の前には、完全に火が点いてとろんとした目をした、少し照れくさそうな雫の顔が浮かんでいる。


「えへへ〜♡」


急な空気の変換に、俺の心と身体が全くついていかない。

でも、これがカップル特有のそういう『雰囲気』になるためのスイッチなのだろう。いつも雫はいつもこんな感じで、ふざけて照れ隠しをしてから、急に本気モードの顔になる。まるで、自分の弱さや恥ずかしさを強引に掻き消すように。


「雫——」


熱に浮かされ、ただ彼女の名前を呼ぶのが精一杯な俺に、雫はコツンと自分のおでこと俺のおでこをくっつけて、至近距離でこちらを見つめてくる。

そして、そのまま俺の耳元へと濡れた顔を滑らせ、甘い声で囁いてきた。


「ねぇ……もうさ……ここでしちゃおっか?」

「おい、それは……」

「いいじゃん、いいじゃん♡せっかくの広くて豪華なお風呂だよ? ……あ、もちろん後でベッドはベッドで、もーいっかい楽しむけど♡」


エロくも無邪気に、耳元に吐息を吹きかけながら誘うその声。


そんな強烈な誘惑に俺が断れるわけもなく……俺はすぐにその誘いに乗った。


いや……正確には。


俺はさっきの雫の一言で胸の奥に渦巻き始めた、この不吉な胸騒ぎを取っ払いたかったのだ。


肌を重ね、雫の存在を感じて彼女と真っ直ぐに向き合いたかった。

難しいことなど、何もかもを忘れてしまいたかった。


だから——


俺は彼女の誘いに応えるようにもう1度キスをして、自分の頭の中を完全に空っぽにしたのだった——


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