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【梱包】スキルが万能すぎて、異世界で困ることは何もありません。〜時間の止まった箱から取り出す伝説の剣と、ほかほか炊き立ての白飯〜  作者: マランパチ
第四幕:奏律家フラウロスの物語

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第5話:星の欠片

 「雑魚ざこ雑魚ざこ、あたしの孤独をリペアできるのは……あたしだけなのよ!」

 アイアン・クリフの頂上に眠る、旧世界の聖域。

 そこでフラウロスが出会ったのは、自分と瓜二つの孤独な魂を持つ天才、シドの幻影でした。

 エルの温もりに触れ、鏡の中の孤独を打ち破ったフラウロス。

 手に入れたのは、数千体の『親衛隊』と、期待外れの「日記」だけ。

 けれど、天才ハッカーに地図なんて不要。

 ピンクの軍団を引き連れて、彼女たちの旅は、未踏の北平原へと加速します!!

 「――ふん。見てなさいよ。……この『絶口の氷壁』を登りきった先に、どれだけ高尚なバグが潜んでいるかと思えば。……意外と、……掃除の行き届いた、ざぁこな空きシェルターじゃないの。」

 あたしは論理獣ロジック・ビーストの背から飛び降り、厚い防寒靴の踵を、磨き抜かれた金属の床に叩きつけた。

 アイアン・クリフの頂上。雲海を眼下に望むこの場所に隠されていたのは、雪と氷に偽装された、旧世界の『気象・論理観測施設』。外の吹雪が嘘のように、建物の中は一定の温度に保たれ、微かな電子音が心地よい子守唄のように響いている。

 あたしの背後では、先ほどまで殺し合っていたはずの『スノー・バグ』たちが、今や桃色のセンサーを誇らしげに明滅させ、完璧な隊列を組んで浮遊していた。

 「ほら、そこの第百二十四号! 雑魚ざこ雑魚ざこ、浮力の計算ミス♪ あたしの視界の端で一ミリもブレるんじゃないわよ。あんたたちは今日から、天才フラウロス様の『親衛隊』。……この遺跡に眠るすべてのデータを、あたしのために掠め取ってくる、忠実なハウンドなんだから!」

 あたしが指をパチンと鳴らせば、数十体のドローンが一斉に散開し、無機質な廊下の先へと偵察に走る。

 この支配感。

 メイのように一つ一つ部品を交換して、「動いてよかったね」なんて笑い合うのも悪くないけれど。あたしには、この『論理コードによる強制的なリペア』の方が性に合っている。

 世界の法則を、あたしの意志で上書きしてやる。……その快感こそが、あたしの演算脳メインプロセッサを加速させる最高のご褒美なんだから。

 「わあ……! フラウロスちゃん、ここ、すごく綺麗。……なんだか、さっきの戦いが夢だったみたいだね。」

 エルが偵察バイクを降りて、物珍しそうに壁のモニターや計器類を眺めている。

 「雑魚ざこ雑魚ざこ、エルの緊張感欠如♪ ……いい、エル。ここは旧世界の『聖域』よ。……あたしたちの論理獣一匹でさえ、ここにあるシステムを全部敵に回したら、一瞬でデリートされかねないんだから。……まぁ、あたしのハッキング能力がそれを許さないけどね。」

 あたしはエルを先行させ、自分は中央通路を闊歩した。

 壁のあちこちにある格納ハッチ。そこから、まだ『眠っている』個体が、あたしのソナーに反応して微弱な電波を返してくる。

 

 一、十、百……。

 「……はぁ。……何これ。雑魚ざこ雑魚ざこ、旧世界の在庫管理♪ ……ここだけで、三千体は眠ってるじゃない。……シドのやつ、……こんなに大量の『友達』に守られて、……一体何に怯えてたのかしらね?」

 あたしは、通路の脇にあるコンソールに手をかざした。

 外部ネットワークからの侵入ではない。直接、物理的にインターフェースを結合する。

 「――システム・ログイン。権限代行プロキシ……天才フラウロス。……さあ、目覚めなさい、雑魚ざこ共!! あんたたちのマスターは、数千年も前にリセットされたのよ。……これからは、あたしの音に……あたしの旋律に、その身を委ねるのよッ!!」

 ――ピ、ピピピ……ガガガッ!!

 施設中のハッチが同時に解放された。

 シュゥゥゥ、という排熱の音と共に、数千の蒼い光が暗闇の中で一斉に灯る。

 

 「ひゃあぁっ!? フラウロスちゃん、囲まれちゃったよ!!」

 「騒ぐんじゃないわよ、この敗北者♪ ……いい、あの子たちのセンサーをよく見なさい。」

 瞬きをする間に、数千の蒼い光は、ドミノ倒しのように次々と桃色へと書き換えられていった。

 あたしが放つ『支配の波動』が、観測施設内のすべてのドローンを瞬時にリペアし、あたしの支配下に置いた証拠だ。

 数千体のスノー・バグが、あたしの足元で絨毯のように広がり、あるいは天井を埋め尽くす雲のように渦巻く。

 

 「……壮観ね。……これだけの計算資源リソースがあれば、……メイの住む街一つ、一晩でハックして……黄金の城にリペアしてあげることもできそうだわ……。」

 あたしは、自分を取り囲む数千の「目」を見上げて、不敵に笑った。

 雑魚ざこ雑魚ざこ、数の暴力♪

 これだけの戦力を手に入れても、あたしの心は、まだ満たされない。

 あたしが本当に欲しいのは、……この軍団を創り出したあの天才が、……最後に何を見て、何を想いながら消えたのかという……その、最も「雑魚ざこ」で、最も「贅沢」な答えなんだから。

 「行くわよ、エル。……最深部。……シドの執務室。……あそこに、あたしの『合わせ鏡』が待ってるはずよ。」

 あたしは数千体のスノー・バグを引き連れ、まるで女王の閲兵式のように、遺跡の奥深くへと進軍を開始した。


 「――ねぇ、フラウロスちゃん……これ、見てよ。なんだか、思ってたのと違う……」

 エルの当惑した声が、数千体のスノー・バグが発する微かな駆動音ノイズに混じって響いた。

 あたしたちが辿り着いた最深部、シドの執務室と思われるその場所には、高度な兵器も、世界を書き換えるための魔法の杖も存在しなかった。

 そこにあったのは、あまりにも「人間」臭い、雑魚ざこすぎる生活の残骸。

 デスクの上に置かれた、中身が真っ黒に干からびたコーヒーカップ。

 引き出しから溢れ出しているのは、数千年前の合成繊維で作られた、ボロボロのブランケット。

 あたしは、ピンク色に光る一際小柄なスノー・バグを指先で操り、デスクの上に散乱した手書きのメモをスキャンさせた。

 『――合成食料レーションの味が、またアップデートされた。雑魚ざこ雑魚ざこ、開発担当者の味覚エラー♪ 砂を噛んでいる方がマシなレベルだ。……明日こそは、マシなコーヒー豆をハックして手に入れたい。』

 『――今日の観測データ、異常なし。退屈だ。世界は滅びに向かっているというのに、システムは淡々とエラーを修復し続けている。……誰か、あたしの孤独に割り込み(割込み)をかけてこないのかしら。』

 「……はぁ? 何よ、これ。雑魚ざこ雑魚ざこ、伝説の記録者のプライオリティ♪ 世界の真実を記録する役目のくせに、食生活への不満と、誰にも届かない愚痴しかないじゃない……。……こんなの、情報のゴミよ。」

 あたしは不機嫌そうに吐き捨てたけれど、その胸の奥では、言いようのない焦燥感が渦巻いていた。

 このメモを書いたシド。

 彼女は、あたしと同じ言葉を使い、あたしと同じように世界を斜めから見て、そして――あたしと同じように、この静寂の中で「誰か」を待っていた。

 あたしがもし、あのままレゾナンスの街に行かず、メイに出会わず、一人で論理の海に沈んでいたら……。

 この干からびたカップの主は、あたしの未来そのものだったのかもしれない。

 「……フラウロスちゃん? 顔色が、さっきより……」

 「うるさいわね、この低スペック! 雑魚ざこ雑魚ざこ、エルの過剰な観察眼♪ ……あたしは、……この施設の電力効率を計算してるだけよ……っ。……冷房が効きすぎて、あたしのプロセッサが冷えすぎてるだけなんだから……。」

 あたしは震える肩を抱き、わざとらしく大きく溜息をついた。

 その時だった。

 中央のホログラム・プロジェクターが、あたしの体温、あるいは魔力の波形に反応して、数千年の眠りから覚醒した。

 ――システム・アクティブ。ユーザー識別……照合失敗。……暫定プロトコル、開始。――

 青白い光の粒が、空中の一点に収束していく。

 そこに現れたのは、あたしとほぼ同じ年格好の少女の幻影ホログラム

 不遜に吊り上がった眉、世界を嘲笑うような唇、そして――誰の侵入も許さない、冷徹な知性を湛えた瞳。

 『――ようこそ、未来の敗北者さん。……あるいは、あたしの亡霊をハックしに来た、ざぁこな後継者かしら?』

 ホログラムのシドが、ゆっくりとこちらを向いて、残酷なほど美しい笑みを浮かべた。

 

 『世界は雑魚ざこ。人間は低スペックなノイズの塊。……そう思わない? 誰もあたしたちの論理コードを理解できない。……だから、あたしたちはこうして、一人で星を眺め、一人で真実を抱えたまま、消えていくのが正しいのよ。……理解者なんて、演算の邪魔なだけなんだから。』

 「……っ、……ふざけないで。……あんた……、……あんたはあたしじゃないわ……。」

 あたしは、自分の声が微かに震えているのを自覚した。

 目の前の少女は、あたしがかつて守ろうとしていた「完璧な孤独」そのものだった。

 誰にも頼らず、誰にも媚びず、ただ一人で世界の頂点に立ち続ける、傲慢な天才の完成形。

 

 『あら、否定するの? 雑魚ざこ雑魚ざこ、自分を偽るハッカー♪ あんたのその瞳、あたしと同じ「拒絶」の色をしてるじゃない。……隣にいるその「ノイズ」も、どうせいつかはあんたを置いていくか、あんたの重荷になるだけよ。……今のうちに、あたしと一緒に……この蒼き静寂に沈みなさいよ。』

 シドの幻影が、透明な手をこちらへ伸ばす。

 あたしの足元を埋め尽くす数千体のスノー・バグたちが、彼女の意志コードに共鳴し、一時的にあたしの支配を離れて、ざわついた。

 

 あたしの視界が、ぐらりと揺れる。

 そうよ。……あたしは、……一人で……。

 

 「――ううん。フラウロスちゃんは、シドとは違うよ。」

 唐突に、あたしの冷え切った右手が、力強く、そして強引に掴まれた。

 

 「……っ、エル……!?」

 「シドは、一人だったかもしれないけど。……フラウロスちゃんには、私がいる。メイちゃんがいる。……アスタロトだっているんだよ。……フラウロスちゃんは、独りぼっちになるには、もう手遅れなんだから!」

 エルが、あたしの前に立ちふさがるようにして、ホログラムの天才を睨みつけた。

 あたしの手のひらに伝わってくる、生きた人間の、あまりにも原始的で、あまりにも「熱い」体温。

 その体温が、あたしの論理回路システムに、シドには一生理解できなかったであろう「イレギュラーな解答」を導き出した。

 「……ふん。……そうよ。……聞いたかしら、死に損ないの亡霊さん。……雑魚ざこ雑魚ざこ、シドの予測モデル♪ ……あたしはあんたより、ずっと『強欲』なのよ。……世界の真実も、……この隣にいる最高にざぁこな相棒も、……どっちもデリートするつもりなんて……一ミリもないんだからッ!!」

 あたしは、エルの手を握り返し、自分でも驚くほど不敵な笑みを取り戻した。

 

 シド。

 あんたが解けなかった「孤独という名のバグ」。

 あたしはそれを、あたし自身の方法で……克服してみせるわ!!


 「――ッ、全システム・ハック完了!! 雑魚ざこ雑魚ざこ、旧世界の最高機密♪ あたしの指先一つで、その重厚な秘密のベールを、一枚残らず剥ぎ取ってあげるわッ!!」

 あたしはエルの手を握りしめたまま、空いた左手で虚空を激しくスワイプした。

 ホログラムのシドが、あたしの不敵な宣言に驚いたように目を丸くし、そして――どこか満足げに、淡い光の粒子となって霧散していく。

 『……いいわ。……ハックしてごらんなさい。……あたしの孤独の、その「底」にあるものを。』

 最後に聞こえたシドの残響は、呪いではなく、同じ高みに辿り着いた後継者への、微かな祝福のように響いた。

 ――ガシャンッ!!

 中央のメインコンソールから、鈍い音と共に一つの物理ストレージが排出された。

 クリスタルのように透き通った、旧世界の記録媒体。

 これだ。

 これこそが、あたしがアイアン・クリフを血反吐を吐きながら登り、数千体の雑魚ざこ共を屈服させてまで手に入れたかった『遺産』。

 『賢者の石』への座標。あるいは、世界の真実を書き換えるための究極のソースコード。

 あたしは震える手でそのクリスタルを掴み、論理獣ロジック・ビースト直結の解析スロットへと叩き込んだ。

 「……さあ、見せなさい。……あたしを、……メイを、……この世界を……どこまで『わからせ』てくれるのかしら……!!」

 あたしの網膜に、膨大なデータが流出バーストする。

 ……十秒。

 ……三十秒。

 ……一分。

 あたしの指先が、ぴたりと止まった。

 「……はぁ? 雑魚ざこ雑魚ざこ……、雑魚ざこッ!! 雑魚ざこ雑魚ざこ雑魚ざこぉぉぉッ!!」

 あたしは絶叫し、コンソールを思い切り蹴り上げた。

 

 「フラウロスちゃん!? どうしたの、何が書いてあったの!?」

 「何もないわよッ!! 雑魚ざこ雑魚ざこ、期待外れの遺産♪ ……いい、エル!? このクリスタルの中身、九割九分がシドの『未整理の思考ログ』よ! 好きな料理のレシピとか、空の青さが昨日より零点三パーセント薄いとか、……そんな、世界で一番価値のないゴミデータの集まりなんだからッ!!」

 あたしは、自分の演算リソースを無駄遣いさせられた屈辱に、顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。

 『賢者の石』の具体的な場所? なし。

 世界を救う、あるいは滅ぼすための最強の力? なし。

 あったのは、ただ一人の孤独な少女が、死ぬ直前まで書き殴り続けた、支離滅裂な「日記」だけ。

 

 「……ふん。賢者の石そのものが置いてあるなんて、最初から思ってなかったわよ。……雑魚ざこ。……雑魚ざこ、あたしの過剰な期待値♪」

 あたしは、ハァハァと乱れた息を整え、吐き捨てるように言った。

 けれど、その表情は、どこか吹っ切れたような明るさを帯びていた。

 

 「……いいわよ。……ヒントがないなら、あたしがゼロから作ってあげる。……あんな死人の残した地図に従うなんて、天才フラウロス様にはお似合いじゃないしね。……ねぇ、エル。」

 「……う、うん。そうだね。……フラウロスちゃんなら、地図なんてなくても、どこへだって行けるもん。」

 「当たり前でしょ。……さあ、撤収よ! 雑魚ざこ雑魚ざこ、未練たらたらな停滞モード♪ こんな埃っぽい空き家、もう飽きたわ。……山を降りるわよ! まずは麓の街まで一気に滑り降りて、あたしに相応しい最高級の情報をハックさせなさいよね!!」

 あたしが手を高く掲げると、背後に控えていた数千体の『親衛隊スノー・バグ』たちが、一斉に桃色ピンクの翼を広げた。

 彼らはあたしの意志に従い、論理獣の周囲を取り囲んで、巨大な「空力制御翼エアロ・ウィング」を形成する。

 これだけの軍勢がいれば、下山なんてただの「アクティビティ」だ。

 「……ふふん。……見てなさいよ、メイ。……あんたが一生かかってもリペアできない世界の不条理バグ、あたしがこの可愛い手駒共と一緒に、全部笑い飛ばしてあげるんだから。……感謝しなさいよね、ざぁこな親友メイ♪」

 あたしたちは、数千の桃色の光を引いて、アイアン・クリフの頂上から一気に急降下を開始した。

 雲海を突き抜け、北風を切り裂き、まだ見ぬ地平の向こう側へと。

 

 遺跡に遺された日記なんて、ただのデータの欠片。

 本当の冒険は、この頂上の外にある――。

 あたしの不遜な笑い声が、蒼い氷の世界にいつまでも、いつまでも反響し続けていた。

 ご愛読ありがとうございました!

 第5話「星の欠片」。フラウロスちゃんの「デレ」と「不遜」が入り混じった、エモーショナルな一章の締めくくりでしたね。

 数千体のスノー・バグを従えて山を降りるその姿は、まさに新時代の女王!

 期待外れの遺産に毒づきながらも、自分の足で真実を掴み取ろうとする彼女の意志に、カタルシスを感じていただけたでしょうか。

 次回、第6話「黄昏の宿場町」。

 雪山を降りた二人が辿り着いたのは、奇妙なルールに支配された小さな街。

 フラウロス様のハッキング、次は「人間社会」を相手に暴れまわります!

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