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【梱包】スキルが万能すぎて、異世界で困ることは何もありません。〜時間の止まった箱から取り出す伝説の剣と、ほかほか炊き立ての白飯〜  作者: マランパチ
第三幕:技術屋メイの物語

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第113話:鉄の轍、開拓者たちの進撃

 「天才だけでは、国は造れない。」

 三翼のリーダーが決まった翌日、メイとフェネクスが向き合ったのは、残された多くの住人たちでした。

 資材を管理し、重機のボルトを締め、測量のワイヤーを引く。目立たぬ「部品」としての役割を与えられた彼らの瞳に、かつてない自負の火が灯ります。

 アイシャの重機が咆哮し、ルサニコフが未知の方角を指し示す。

 レゾナンスの総力を結集し、ついに荒野の岩肌に「最初の一歩」が刻まれる、建国の夜明けが始まります。

 アスタロトとグロリアによる、魂を揺さぶるような一騎打ちから一夜明けたレゾナンス。

 広場を包んでいた静寂は、夜明けと共に、これまでとは質の異なる「規律ある喧騒」へとリペアされていた。

 昨日の「精鋭選抜」で、各部隊の象徴となるリーダーたちは決まった。だが、国という巨大な機械を動かすには、エンジンや外装といった目立つ部品だけでは足りない。それらを繋ぎ止める無数のネジ、滑らかに動かすための潤滑油、そしてエネルギーを末端まで届ける伝送路――。

 今日、メイとフェネクスが向き合うのは、そんな「目立たぬが不可欠な役割」を求める、残りの住人たちだった。

 「……フェネクス。昨日の人たちは、荒野を切り裂く『刃』だったけど……。今日選ぶのは、この国が壊れないように支える『関節』や『ネジ』になる人たちだよね。」

 メイは手元の住民名簿に目を落としながら、隣に座るフェネクスに語りかけた。

 フェネクスは緋色の瞳を細め、広場に並ぶ、少し緊張した面持ちの住人たちを眺めている。そこには、昨日の激しい試験に気圧されながらも、自分にできることを探そうとする農夫、母親、あるいは老いた職人たちの姿があった。

 「……ふん。メイ、勘違いするな。……主力のベクトルがどれほど強力でも、……それを支える基盤の強度が足りなければ、……機械は容易に空中分解し、……熱として霧散するだけだ。……組織とは、……個々の小さなベクトルを、……一つの巨大な方向へと調和させる『リペア』そのものなのだからな。」

 フェネクスが指を鳴らすと、再度の適性検査が始まった。

 だが、今日の試験は派手な立ち回りではない。

 メイが用意したのは、アークの廃材を流用した「簡易的な適性判別セット」だ。

 

 「……補給班を志願する人は、このカゴの中の部品を、重さ順に正確に仕分けてみて。……整備班の人は、この錆びついたボルトを、一番効率的な手順で磨き上げてほしいの。」

 メイの問いかけに、住人たちが真剣な表情で取り組む。

 一人の年配の女性が、驚くほどの手際で部品を種類ごとに分類していく。彼女はかつてエデンで精密機器の梱包に従事していたという。

 「……これ、懐かしいわね。メイちゃん、私は重いものは持てないけれど、……どの資材がどこにあるか、……一秒で答えられるようにリペアしてみせるわ。」

 「……いいベクトルだ。……彼女を『資材管理班長』に。……彼女の整頓能力は、……アイシャの重機運用を……三割は効率化させるだろう。」

 フェネクスが満足げに頷く。

 一方で、若者たちの中には、昨日の騎士団選抜に漏れた者もいた。彼らは肩を落としていたが、グロリアがその前を無言で通り過ぎ、一瞬だけ足を止めた。

 彼女は一言も発さず、大盾を地面に突き立てた。その衝撃で舞った砂が、ある一方向へと流れる。

 ――風を読め。

 言葉なきグロリアの教えに、一人の若者が顔を上げた。

 「……あ、……もしかして、……伝令や哨戒なら、……俺の足でも役に立てるのか……?」

 若者がグロリアに問いかけると、彼女は僅かに顎を引いた。それだけで、若者の瞳に「役割」という名の火が灯った。

 「……アスタロト、グロリア。……貴様らの『盾』を支えるのは、……あの若者たちの『目』だ。……情報のベクトルを滞らせるなよ。」

 フェネクスの鋭い指摘が、組織の輪郭をより鮮明にしていく。

 広場の向こうでは、アイシャがすでに「土木工機団」のサポートメンバーを絞り上げていた。

 「おい! そこのあんた! ネジの締め方が甘いよ! 1.5ミリの遊びが、荒野じゃ命取りになるって言ったろ!」

 アイシャに怒鳴られながらも、整備班として選ばれた男たちは、必死にテツクズ号のクローラーを磨き、油を差している。彼らの顔は泥と油で汚れていたが、その表情には「自分たちがこの怪物を動かしているのだ」という、強烈な自負が宿り始めていた。

 「……アイシャお姉さん、厳しいなぁ。でも、みんな嬉しそう。」

 メイが微笑むと、フェネクスが鼻を鳴らした。

 「……当然だ。……無価値な避難民として死ぬのを待つより、……巨大なわだちを刻むための『部品』として機能する方が、……生命としての熱効率が良いからな。」

 午後になる頃には、レゾナンスの全住人に「役割」という名のリペアが施されていた。

 騎士団の「哨戒班」、冒険隊の「測量補佐」、土木団の「整備・補給班」。

 さらには、それら全員の胃袋を支える「生活基盤班(調理・洗濯)」。

 

 メイが書き上げた組織図には、もはや「モブ」という言葉は存在しなかった。

 一人ひとりが、鉄鉱山へと至る果てしない道のりを支える、欠かせない歯車。

 

 「――よし。……準備は整ったね。」

 メイが筆を置き、フェネクスを肩に乗せて立ち上がった。

 

 「……ああ。……ベクトルは束ねられた。……さあ、メイ。……最初の轍を、……この大地に刻みに行こうではないか。」

 レゾナンスの重い東門が、ゆっくりと、けれど確かな意志を持って開かれた。

 そこには、三翼の精鋭たちだけでなく、それらを支える何百人もの住人たちが、自分たちの「道具」を手に、荒野を見据えて整列していた。

 開拓の第一歩。

 それは、少数の英雄の物語ではなく、この街に生きる全ての者の「リペア」から始まったのだ。


 東門を抜けた先、レゾナンスの「聖域」が途切れる境界線。

 そこには、昨日の試験を潜り抜けたルサニコフとエル、そして彼らを支えるべく選ばれた数名の「測量補助員」たちが陣取っていた。

 彼らが手にしているのは、剣でも盾でもない。メイがアークの廃材からリペアし、フラウロスがその「超音波デバイス」を移植した、不格好な測量儀と、距離を測定するための長いワイヤーだった。

 「……いいか、お前たち。荒野で道を見失うことは、『死』と同義だ。……目に見える景色に惑わされるな。……大地が奏でる『芯』の音を聴け。」

 ルサニコフが、低く、重厚な声で補助員たちにフラウロスの受け売りの訓示を垂れる。

 彼の傍らでは、エルが身軽に岩場の上へと跳び上がり、手にかざした遮光グラス越しに、砂塵が舞う地平線を見据えていた。

 「……ルサニコフさん、あっち。……砂の巻き上がりが不自然に途切れてる場所がある。……あそこ、たぶん大きな岩盤か、……太古の構造物が埋まってる。」

 「……ふむ。……フラウロスお嬢さん。……あの娘の指摘したポイントに、……音響パルスをお願いします。……地層の密度を逆算して、……最短ルートを確定させます。」

 ルサニコフの指示に従い、フラウロスが欠伸をしながら集音器を地面に突き立てた。

 「……もー、おじさんもエルも人使いが荒いわね。……ざぁこな地層相手に、あたしの耳を貸してあげるんだから、……感謝しなさいよ?」

 フラウロスが装置のスイッチを入れると、目に見えない音の弾丸が、地表を伝わって荒野の奥深くへと放たれた。

 ――トォォォォン……。

 

 数秒後、微かな反響がフラウロスのヘッドホンへと返ってくる。

 彼女は一瞬だけ真剣な表情になり、手元のコンパスに連動したペンで、地図上に一本の「点」を打った。

 「……見つけたわ。……この先、三キロ地点。……地表の砂の下に、硬質な堆積岩の層が走ってる。……そこなら、アイシャの重機が通っても沈まないわよ。」

 「……よし。……方位、……固定。……目標、……北北東二十二度。……鉄鉱山への『第一の中継点』とする!!」

 ルサニコフの号令と共に、補助員たちが一斉に動き出した。

 彼らは重い杭を地面に打ち込み、そこから次の地点へとワイヤーを張っていく。

 それは、広大な荒野という名の無秩序な「面」に対して、自分たちが進むべき唯一無二の「線」をリペアしていく、気の遠くなるような、けれど尊い作業だった。

 「………ルサニコフの経験と、……フラウロスの音響。……そして名もなき者たちの足跡が、……今、……この死んだ大地に『意味』を刻もうとしているな。」

 メイの肩で、フェネクスが緋色の瞳を細めて囁いた。

 「……ベクトルはもはや、……レゾナンスの壁の中だけには留まらん。……この細い糸の先に、……国家の血管が産声を上げようとしているのだ。」

 メイは、測量員たちが引いたワイヤーが、朝陽に照らされてキラリと光るのを見つめていた。

 「……うん。……昨日までは、……ただあっちに行きたいって思ってただけだけど。……今は、……みんなの力が合わさって、……本当に道が『視えて』きたよ。」

 一方、門のすぐそばでは、アイシャが率いる「土木工機団」が、文字通り血と油の匂いを漂わせていた。

 「おい!! 整備班! 三番シリンダーの油圧、まだ0.2足りないよ! 誰だ、ここのバルブを掃除した奴は!」

 アイシャの怒号が響くたびに、三人の整備兵が「ひえぇっ!」と悲鳴を上げながら、テツクズ号の巨体に飛びつく。

 彼らはアイシャに叩き込まれた「現場のリペア」の基礎を必死に実践していた。ネジの頭をなめないように、ボルトの締め付け順序を間違えないように。

 

 「……アイシャお姉さん、本当に容赦ないね……。」

 メイが苦笑いしながら歩み寄ると、アイシャはスパナを回したまま、ニヤリと不敵に笑った。

 「……当たり前さ、メイ。……この子(テツクズ号)は、……あんたがリペアした最高傑作だ。……それを、……ただの雑な手入れで壊されてたまるかってんだよ。」

 アイシャは、泥にまみれた整備兵の一人の肩を、力強く叩いた。

 「……いいかい。……あんたたちが磨いたこのボルト一本が、……レゾナンスの未来を支えてるんだ。……胸を張りな。……あんたたちは、……ただの助手じゃない。……この『礎』の一部なんだよ。」

 アイシャの言葉に、整備兵たちは顔を見合わせ、照れくさそうに、けれど力強く頷いた。

 彼らの瞳には、もはや「モブ住人」としての卑屈さはなかった。

 自分たちが整備した重機が、これから世界を変えるのだという、狂おしいほどの自負。

 「――アイシャ! 測量完了したよ! 道筋は決まった!!」

 遠くから、エルの透き通った声が届く。

 アイシャは、テツクズ号の操縦席へと飛び乗った。

 「……よし。……待たせたね、相棒。……さあ、……この荒野を、……アタシたちの庭にリペアしてやろうじゃないか!!」

 ドォォォォォンッ!!

 整備兵たちの完璧な調整を受けたテツクズ号が、これまでにないほど澄んだ、力強い咆哮を上げた。

 排気筒から噴き出した青白い煙が、開拓の狼煙となって空へと昇る。

 

 「――土木工機団、……前へッ!!」

 アイシャの号令が響き、巨大な重機がゆっくりと、けれど大地を震わせる確かな歩みを開始した。

 その背後には、資材を積んだリヤカーを引く補給班、そして周囲を固めるアスタロトとグロリアの騎士団が、整然とした隊列で続いていく。

 メイ、フェネクス、そしてレゾナンスの全ての人々が見守る中。

 鉄の轍が、最初の一歩として、荒野の岩肌に深く刻まれようとしていた。


 「――全班、最終確認完了! 障害物なし! 視界、良好!!」

 エルの鋭い報告が、砂塵の舞う荒野の入り口に響き渡った。

 ルサニコフが打ち込んだ測量杭の列が、遥か地平線の霞の中へと、頼りなくも力強い一本の「線」を描いている。それは、人類がこの絶望的な荒野に対して再び引き直した、文明の境界線だった。

 操縦席に深く腰掛けたアイシャが、泥に汚れたレバーを愛おしそうに撫でた。

 「……いいかい、整備班。あんたたちが昨晩一睡もせずに磨き上げたこのシリンダー、今から最高の仕事をさせてやるよ。……瞬きするなよ、これが『道』の産声だ!!」

 アイシャがアクセルペダルを床まで踏み込んだ。

 ドォォォォォォンッ!!

 これまで以上に澄んだ、爆発的な燃焼音がテツクズ号の心臓部から放たれる。整備兵たちが指の皮を擦りむきながら調整した吸気バルブが、完璧なタイミングで荒野の熱い空気を吸い込み、爆発的なエネルギーへとリペアしていく。

 「――排土板、下降ダウン!!」

 アイシャの叫びと共に、テツクズ号の前方に装備された巨大な「鉄の刃」が、地響きを立てて荒野の岩肌へと突き立てられた。

 ガギィィィィィンッ!!

 金属と岩石が激突し、火花が朝陽を弾き飛ばす。

 本来なら、重機の自重だけでは跳ね返されるはずの硬質な地盤。だが、アイシャは重機の重心をミリ単位で操作し、履帯クローラーの回転数を最適化させることで、その「刃」を強引に大地の奥深くへと食い込ませた。

 「……くっ、……重てぇ……! だけど、逃がさねえよッ!!」

 アイシャの腕に鋼のような筋が浮き上がる。

 テツクズ号が咆哮を上げ、ゆっくりと、けれど確実に前進を開始した。

 巨大な排土板が、数千年の間、誰も動かせなかった鋭い岩角を粉砕し、堆積した砂礫を左右へと豪快に押し退けていく。

 その背後に現れたのは――。

 ゴツゴツとした無秩序な岩場ではない。

 人の足が、車輪が、そして未来が通るための、平たく均された「地面」だった。


 メイは、テツクズ号が削り取ったばかりの、まだ熱を帯びた「道」の跡に、震える足取りで一歩を踏み出した。

 そこは、これまでの「死んだ大地」とは違う。

 自分たちの知恵と、泥臭い努力によってリペアされた、確かな「居場所」の感触。

 「……アイシャお姉さん! すごい……! 本当に、道になってる!!」

 「当たり前だろ! アタシが、あんたが作ったこの子で、嘘を吐くわけないだろ!!」

 アイシャは操縦席から身を乗り出し、歯を見せて笑った。

 彼女の背後では、整備班や補給班の住人たちが、自分たちが整備した重機が大地を屈服させる光景を見て、歓喜の声を上げていた。

 「俺たちが……俺たちの整備した重機が、あの岩を砕いたぞ!!」

 「やった……! これで、鉱山まで行けるんだ!!」

 モブと呼ばれていた住人たちの瞳から、卑屈な色は完全に消え去っていた。彼らは今、歴史を動かす巨大な歯車の一端を担っているという、狂おしいほどの自負に満ち溢れていた。

 「……ふん。ざぁこな歓喜ね。」

 フラウロスが、耳の集音器を直しつつ、少しだけ口角を上げた。

 「でも、……あの泥臭い振動。……あたしの耳にも、……悪くない『共鳴』が届いてるわよ。……メイ、これならあの大穴(鉄鉱山)まで、……音速で届いちゃうかもね。」

 「……油断するな、フラウロス。……そして騎士達よ。」

 フェネクスが緋色の瞳を地平線の彼方へと向けた。

 「……道を通すということは、……外界の『ノイズ』を呼び込むということでもある。……我らが轍を刻むほど、……荒野の影に潜む食い詰め者たちが、……この熱量に吸い寄せられてくるだろう。」

 アスタロトが、静かに大剣の柄に手をかけた。

 「……承知している、フェネクス。……この道は、我らが命を懸けて守り抜く『聖域』の延長。……一寸たりとも、不浄な者に汚させはしない。」

 その隣で、グロリアが無言で大盾を構え直した。彼女の瞳には、アスタロトと同じ、不動の覚悟が宿っていた。

 最初の一区画。

 わずか十メートルほどの整地された大地。

 だが、そこにはレゾナンスという国家が、荒野という巨大な壁に打ち込んだ、最初の一本の「くさび」の重みがあった。

 アイシャが再びレバーを引き、テツクズ号が次の一歩を踏み出す。

 砂塵が舞い、金属が軋む。

 メイは、フェネクスと共にその轍を愛おしそうに見つめながら、拳を強く握りしめた。

 「……ここから、始まるんだ。……私たちの、鉄の轍が。」

 夕陽が、最初の一歩を刻んだ大地を赤く染め上げる。

 鉄鉱山まで、あと数十キロ。

 レゾナンスの開拓者たちは、止まることのない咆哮と共に、砂塵の海へとその「道」を繋ぎ始めていた。

 ご愛読、ありがとうございました!

 アイシャお姉さんに怒鳴られながらも、自分たちが整備した重機が大地を穿つ姿を見て歓喜する整備兵たち……。「モブ」が「国民」へとリペアされる瞬間に、胸が熱くなる回でした。

 しかし、平和な開拓は長くは続きません。

 次回、第114話「砂塵の伏兵、狙われた補給路」。

 順調に進む道作りの音に誘われ、地底から這いずる「超巨大なサンドワーム」の群れ。アスタロト不在の中、新米騎士団とグロリアは、この絶望的な襲撃を耐え抜けるのか。

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