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【梱包】スキルが万能すぎて、異世界で困ることは何もありません。〜時間の止まった箱から取り出す伝説の剣と、ほかほか炊き立ての白飯〜  作者: マランパチ
第三幕:技術屋メイの物語

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第112話:境界の響き、二つの盾

 「我らが求めるのは、ただの盾ではない。魂の『聖域』だ。」

 ついに始まった、騎士団長アスタロトと寡黙な新星グロリアによる頂上決戦。

 夕闇の広場で火花を散らす、最強の大剣と不動の大盾。

 言葉を介さず、ただ衝撃のベクトルだけで語り合う二人の守護者。

 レゾナンスの空の下、物理法則さえもが凍てつくような、魂の共鳴レゾナンスが幕を開けます。

 レゾナンスの広場を包んでいた喧騒は、もはや影も形もなかった。

 夕刻の陽光が荒野の砂塵を黄金色に染め上げ、長く伸びた二つの影が、乾いた大地の上で静かに対峙している。

 一方の影は、レゾナンス騎士団長・アスタロト。

 彼女が手にする大剣は、抜かれた瞬間、周囲の空気を物理的に「重く」変質させた。エデンの高純度合金を幾重にも折り重ね、毎日の精密なメンテナンスによって鏡面のように磨き上げられたその刀身は、沈みゆく太陽の光を反射し、まるで燃え盛る業火を纏っているかのようだった。

 もう一方の影は、沈黙の志願者・グロリア。

 彼女は一言も発さず、身の丈ほどもある無骨な大盾を身体の前面に構えている。先ほどの試験で合金の人形を粉砕した際の傷が盾の縁に残っているが、それがかえって、この防具が幾多の「死」を撥ね退けてきたという事実を冷徹に物語っていた。

 「……メイ。……この適性検査は思ったよりも得るものがあったようだな。……今、……この広場の中央で、……二つの巨大な『境界ベクトル』が衝突しようとしている。」

 メイの膝の上で、フェネクスが黄金の翼を微かに震わせ、審判の如き瞳を細めた。

 「……アスタロトの剣は、……外へと向かう圧倒的な『破砕』。……グロリアの盾は、……内へと全てを飲み込む『無』。……どちらの強度が勝るか、……この荒野の物理法則さえもが、……固唾を呑んで見守っているぞ。」

 メイは祈るように拳を握りしめた。

 「……アスタロト、本気だ。……あんなに鋭い目をした彼女、……エデンを破壊した時以来だよ。」

 「……グロリア。貴殿に問う。」

 アスタロトの声は低く、そして大地を揺らす鼓動のように響いた。

 「盾とは何か。……ただ飛来する礫を避けるための板か? ……それとも、臆病者が身を隠すための殻か?」

 グロリアは答えない。ただ、盾の裏に隠された左腕の筋肉が、ミリ単位で調整され、重心をさらに低く沈めた。彼女の沈黙は「拒絶」ではなく、アスタロトの問いに対する「全身全霊の回答」の準備だった。

 「――我にとって、盾とは『聖域』だ。何者にも侵されぬ、魂の絶対境界。」

 アスタロトが大剣を上段に構える。

 「ならば、その境界が我が剣に耐えうるか……否か。……死力を尽くして証明してみせよ!!」

 刹那、アスタロトの姿が消えた。

 正確には、爆発的な踏み込みによって、視覚の追従を置き去りにしたのだ。

 ドォォォォォンッ!!

 

 一撃。

 大剣が、グロリアの大盾の真っ正面へと叩きつけられた。

 衝突の瞬間、目に見えるほどの衝撃波が円形に広がり、周囲の石畳を粉砕して舞い上げた。

 

 「……ッ!!」

 フラウロスが思わず集音器から手を離し、耳を塞いだ。

 「……ざぁこな音じゃない! ……世界が軋む音がしてるわよ、これ!」

 アスタロトの一撃は、単なる筋力によるものではない。全身のバネ、大剣の自重、そして「一撃で全てを断ち切る」という鋭敏な意志が一点に収束した、究極のベクトル。

 並の防具であれば、この一撃を受けた瞬間に中の人間ごと「圧壊」していただろう。

 しかし、グロリアは、下がっていなかった。

 彼女は大盾をわずかに傾け、アスタロトの剣の「芯」を、盾の「重心」で正面から受け止めていた。

 

 ギギギギギ……ッ!!

 鋼と鋼が噛み合い、火花が夜の始まりを告げるように散る。

 アスタロトは剣を押し込みながら、驚愕を隠せなかった。

 グロリアは耐えているのではない。盾を通じてアスタロトの力を「吸収」し、地面へと逃がしているのだ。彼女が踏みしめる大地には、蜘蛛の巣状の亀裂が走り、衝撃の凄まじさを物語っていた。

 「………………。」

 グロリアの口から、初めて短い呼気が漏れた。

 それは苦痛の声ではない。次なる「転換」への合図。

 グロリアが盾をわずかに引き、次の瞬間、内側から爆発的な力で押し返した。

 シールドバッシュ。

 アスタロトの大剣を跳ね除け、その勢いのまま、盾のエッジをアスタロトの喉元へと突き出す。

 「――甘いッ!!」

 アスタロトは跳躍し、空中で身を翻しながら剣を閃かせた。

 

 一進一退。

 レゾナンスの広場は、今や二人の守護者が描き出す、死の舞踏の舞台へとリペアされていた。

 メイ、フェネクス、フラウロス、そしてアイシャ。

 誰もが、瞬きすることさえ忘れ、この「矛と盾」の激突に見惚れていた。


 空中で身を翻したアスタロトが、着地と同時に大地の砂塵を爆ぜさせた。

 一撃。それで終わるはずがない。

 アスタロトは、大剣の重厚な自重を「制止」させるのではなく、その慣性を円運動へとリペアし、二撃、三撃と加速させていく。

 「――防ぐだけでは足りぬ! 守護とは、敵の戦意を挫く絶望の壁であれ!!」

 アスタロトの咆哮と共に、大剣が「面」ではなく「線」となって、グロリアの死角を突く。

 上段からの唐竹割り、地を這うような薙ぎ払い、そして切っ先を弾丸のように突き出す刺突。

 シュッ、シュッ、と空気を切り裂く鋭い風切り音が、広場に幾重にも重なって響く。

 対するグロリアは、その怒濤の連撃に対し、最小限のフットワークで応じていた。

 彼女は盾を「構える」のではない。アスタロトの剣筋が描く物理的なベクトルに対し、盾の「面」を最短距離で、かつ最も衝撃を逃がしやすい「角度」で差し込み続けていた。

 ――ガギィィィンッ!

 ――カカッ、キンッ!

 激突のたびに、摩擦熱で焼けた金属の匂いが周囲に立ち込める。

 グロリアの動きは、まるで精密な演算装置マシーンだった。アスタロトの剣が盾に触れる刹那、彼女は手首の返しだけで衝撃の方向を「屈折」させ、地面や虚空へと逃がしていく。

 アスタロトの全力が、グロリアの盾という名の「虚無」に吸い込まれ、霧散していくのだ。

 「……ざ、ざぁこじゃない……! なによあの二人、化け物……?」

 フラウロスが、思わず集音器の感度を下げた。

 彼女の耳には、二人の筋肉が軋む音、骨が衝撃に耐える微細な振動、そして極限まで研ぎ澄まされた集中力が生む「静寂の共鳴」が、爆音のように聴こえていた。

 「……素晴らしい死合だな……」

 フェネクスが、メイの肩の上で黄金の翼を大きく広げた。その瞳は、もはや一時の娯楽ではなく、この世界に産まれ出た「新たな法則」を見届ける審判のそれだった。

 「……二つの極致が、……今、……このレゾナンスの地で、……互いに成長し続けているぞ。」

 「……あいつ、やるね。」

 腕を組んで戦いを見つめていたアイシャが、不敵に口角を上げた。

 「グロリアのあの盾……グロリアの腕の中で、完全に『身体の一部』になってる。ボルトの一本、装甲の一枚一枚が、彼女の呼吸に合わせてしなってるんだ。……あれはもう、ただの防具じゃない。……彼女の魂の『外殻』だよ。」

 攻防が三十手を超えた瞬間。

 アスタロトが、あえて大剣を大きく振りかぶり、背後を晒すような大振りの一撃を放った。

 誘いか、あるいは疲労による隙か。

 グロリアの瞳に、初めて鋭い「光」が宿った。

 彼女は盾を身体の側面に引き寄せ、バネのように溜め込んだ全身の力を、右の拳に――大盾のグリップを握る拳へと込める。

 ――ズ、ゥゥゥゥンッ!!

 グロリアのシールドバッシュが、アスタロトの胴体へと炸裂する。

 衝撃波がアスタロトの甲冑を歪ませ、彼女の巨体を数メートル後方へと弾き飛ばした。

 勝負あったか、と思われたその瞬間。

 「――その一撃を待っていたぞ、グロリア!!」

 弾き飛ばされたはずのアスタロトが、空中で不自然に身を翻した。

 彼女はグロリアから受けた衝撃のベクトルを、自らの回転運動へと「変換」したのだ。

 

 空中で独楽のように高速回転するアスタロト。

 その遠心力の全てを乗せた大剣が、落雷の如き速度でグロリアの頭上から降り注ぐ。

 

 「…………ッ!!」

 グロリアは、回避を捨てた。

 彼女は大盾を頭上高く掲げ、右手を盾の内側に添えて支える。

 

 ――ドガァァァァァァァァンッ!!

 

 広場全体が、地震のような轟音と共に大きく揺れた。

 グロリアの足元の石畳が完全に砕け散り、巨大なクレーターが形成される。

 舞い上がる土煙の中、金属と金属が、互いの存在を否定し合うかのような、耳を刺す軋み音を上げ続けていた。

 「……グロリアさん!!」

 メイが叫ぶ。

 煙が、夕風に流されて消えていく。

 そこには、膝をつくことなく、アスタロトの必殺の一撃を、真っ向から盾一枚で受け止めたグロリアの姿があった。

 大盾の表面には、アスタロトの剣先が数センチほど食い込んでいる。

 だが、グロリアの瞳は、微塵も死んでいなかった。

 彼女は一言も発さず、剣を噛ませたままの大盾を、さらに上方へと「押し返した」のだ。

 

 「………………。」

 言葉なき咆哮。

 グロリアの全身から、アスタロトの威圧を上回るほどの「沈黙の闘志」が溢れ出す。

 二人の守護者が、至近距離で互いの視線を火花散らせる。

 

 「……くははっ! ……素晴らしい! ……これこそが、……我が求めていた『答え』だ!!」

 アスタロトが狂喜に満ちた笑みを浮かべ、剣を引き抜くと同時に、再び距離を取った。

 次は、どちらかが倒れるまで止まらない。

 レゾナンス最強の「矛」と「盾」が、ついに限界を超えた最終局面に突入しようとしていた。


 砂煙が薄れ、二人の距離は十歩。

 アスタロトの大剣は、幾度もの激突による摩擦熱で陽炎を纏い、グロリアの大盾は、表面の塗装が剥げ落ちて鈍い銀色の地肌を剥き出しにしていた。

 どちらの武器も、持ち主の凄まじい「熱量」を受け止め、限界まで軋んでいる。だが、折れてはいない。それぞれの魂を宿した鋼は、あるじの意志に応えるように、その硬度をより一層増していた。

 「……来るか、グロリア。」

 アスタロトが、低く構える。

 彼女の全身から溢れる闘気は、もはや広場全体を包囲する「圧」となっていた。

 グロリアは、依然として沈黙を貫いていた。

 だが、彼女の左腕が、これまでにないほど深く盾のグリップを握りしめる。

 一歩。

 彼女が地を踏みしめた瞬間、石畳が「クレーター」状に陥没し、その身体が低空を飛ぶ矢のごとき速度でアスタロトへと肉薄した。

 「――ッ!?」

 アスタロトが剣を迎え撃とうとした、その刹那。

 グロリアの手から、あの大盾が「離れた」。

 投擲。

 身の丈ほどもある質量が、独楽のように高速回転しながら、アスタロトの視界を遮る壁となって迫る。

 「……小細工を!!」

 アスタロトは大剣を横一線に薙ぎ払い、回転する盾を真っ向から叩き伏せようとした。

 ――ガギィィィィィンッ!!

 火花が散り、盾が弾き飛ばされる。

 だが、それはグロリアの「計算」の内だった。

 弾かれた盾は、近くの家屋(石製)に衝突し、その反射を利用して、アスタロトの背後へと鋭く跳ね返った。

 跳弾。

 「……なんだと!?」

 アスタロトが背後の気配に反応し、身を翻した瞬間。

 

 盾の「影」に隠れて肉薄していたグロリア本人が、アスタロトの懐へと飛び込んでいた。

 武器はない。

 だが、彼女の右拳には、これまでの全ての試練で培った「砕」のベクトルが凝縮されていた。

 ドォォォォォンッ!!

 

 グロリアの拳が、アスタロトの胸甲へとめり込む。

 衝撃波がアスタロトの背中側に突き抜け、広場の砂塵を円形に吹き飛ばした。

 「……が、ふっ……!」

 アスタロトの呼吸が止まる。

 だが、彼女は倒れない。大剣を杖代わりにして地を穿ち、その反動でグロリアの首筋へと回し蹴りを放つ。

 グロリアは、空中で戻ってきた大盾を、磁石に吸い寄せられるかのような精密さで左腕に「再装着」した。

 ガキィィィィン!!

 アスタロトの蹴りを盾で受け止め、その衝撃を利用して、二人は再び距離を取る。

 「……ざぁこな連携じゃないわ。……盾を『投擲武器』と『移動の遮蔽物』に同時にリペアするなんて、……あの女、……フラウロスの装置よりよっぽど質が悪いわよ……。」

 コンテナの上で、フラウロスが震える指で髪を弄りながら、戦慄混じりの賞賛を送った。

 「……メイ。……観測は、……終局へと向かっているぞ。」

 フェネクスが、メイの肩の上で、これまでにないほど神々しい黄金の光を放った。

 「……二人のベクトルが、……今、……完全にシンクロした。……互いを殺すためではなく、……互いの『境界』を高めるための、……究極の共振レゾナンスだ。」

 メイは、涙を浮かべながら、その光景を網膜に焼き付けていた。

 「……綺麗。……あんなに激しくぶつかっているのに、……二人の魂は、……今、……一つの大きな『盾』になろうとしているんだ。」

 アスタロトとグロリア。

 二人は同時に、最後の一歩を踏み出した。

 アスタロトの大剣が、夕闇を切り裂く烈火の一閃を描く。

 グロリアの大盾が、全ての光を飲み込む深淵の防壁を展開する。

 ――ドガァァァァァァァァァァンッ!!

 今日一番の、そしてレゾナンスの歴史に残るであろう大音響。

 広場の中央で、剣の切っ先と盾の芯が、完全に「一点」で静止した。

 衝撃波が、二人の足元から同心円状に広がり、周囲の廃材を軽々と吹き飛ばす。

 

 ギギギ、ギギギ……。

 剣は折れず、盾は砕けない。

 ただ、二人の呼吸だけが、重なり合う。

 「……くははっ……。……はぁ、はぁ……。」

 アスタロトが、剣を押し当てたまま、満足げに笑い声を上げた。

 「……見事だ、グロリア。……貴殿の盾……。……我が剣を持ってしても、……一寸たりとも、……魂を削り取ることはできなかった。」

 グロリアは、初めてアスタロトの瞳を真っ向から見据え、そして――。

 

 「…………感謝、を。」

 

 掠れた、けれど鈴を転がすような、清冽な声。

 それが、グロリアがこのレゾナンスで発した、初めての言葉だった。

 アスタロトが剣を引き、鞘へと納める。

 グロリアもまた、盾を背負い、深く、静かに一礼した。

 

 「……合格だ。……我が右腕として、……そしてこの街の『不動の境界』として。……共に歩もう、グロリア。」

 広場を埋め尽くしていた住人たちから、地響きのような歓声が沸き起こった。

 それは、最強の盾が二人揃ったことへの、そして「三翼の選別」が、最高の形で完結したことへの祝福だった。

 夕闇の中、メイがリペアした「三部門合同の紋章」が、かがり火の光に照らされて高く掲げられる。

 騎士団長アスタロトと、その影を支える沈黙の盾グロリア。

 冒険者ルサニコフと、荒野の牙エル。

 重機を操るアイシャと、設計を担うメイ。

 

 そして、その全てを冷徹に、けれど誇らしげに見守る、緋色の瞳のフェネクス。

 

 「……ふん。……メイ、……これでようやく、……国家という名の機械の『部品』が揃ったな。……リペアは完了だ。……さあ、……この荒野を、……我らの轍で塗り替えてやろうではないか。」

 レゾナンス。

 三つの翼を得たその街は、今、真の「自立」へと向けて、力強く進軍を開始した。

 ご愛読、ありがとうございました!

 アスタロトの大剣を受け切り、沈黙を破って応えたグロリアの「言葉」。二人が至った守護の極致に、胸が熱くなる結末でした。

 これで「騎士」「冒険」「土木」の三翼がすべて揃い、レゾナンスは真の国家へと脱皮を遂げます。

 次回、第113話「鉄の轍、開拓者たちの進撃」。

 アイシャの重機が咆哮し、選ばれし精鋭たちがついに荒野の開拓へと漕ぎ出します。

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