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ー4章ー 22話 「勇者の最期の願い」

セリオンが指揮をする部隊は、ベルムランド国境付近へ差し掛かっていた。


英雄、勇者と呼ばれた男は、今正規軍を引き連れて盗賊まがいな行為に及ぼうとしている。


….…彼の意志とは無関係に。


「セリオン隊長!突撃の準備が整いました。いつでも行けます!」


報告に来た兵士の声を上の空で聞いていたセリオン。

心ここに在らずといった表情に、兵士たちが少しザワついた。


(俺はここで何をしているんだ……?)


澄み渡った空を見上げながら、土埃が頬を掠める。


「お前たち……家族に別れは告げてきたか?」


ポツリと呟いたセリオンの言葉に、笑い声が辺りを包んだ。


「冗談はよしてください、隊長!勇者であるセリオン様が指揮をなさるんです。そんな事誰もしてませんよ!」


(錬度が低いと心の有り様までこうなるのか……つまり全て俺任せって事。……はは…笑えてきた)


いよいよベルムランドの城壁が見えたところで、セリオンは皆に告げた。


「ここは今から戦場になる。自分の身を自分で守れなければ、グランゼルの地を二度と踏めぬものと思え」


セリオンという存在だけで、士気は最高潮に高まっていた。

だがこの一言は全ての兵士の心に突き刺さった。


……兵士達は悪くない。


セリオンにはこの争いの結果が見えていた……惨敗……或いは全滅するだろうと。


こちらの存在に気がついたベルムランドは、慌てて城門で待機していた部隊が、次々と陣形を整え始めた。


準備が整う前に崩すしかない。

そう思ったセリオンの合図と共に、火蓋が切って落とされた。


「突撃!!」


一斉にベルムランドの城門目掛けて突き進むセリオン部隊。


戦況は悪くなかった……いや、むしろ押しているとさえ思える戦いだった。


暫く硬直状態になったが、着実に城門へと進んでいた。


………だが。


背後から土煙を上げて迫る何かがあった。

ベルムランドの別働隊だ。


完全に背後を取られ、逃げ場を失ったセリオン部隊。


「おいおい、勇者セリオンじゃないか!何であんたがこんな事してるんだ!?」


その声に振り返ると、そこに居たのはベルムランドの閃光、レオルド・クレイグだった。


彼は突然光の如く戦場に現れては、瞬く間に敵戦力を壊滅的に追い込む事から、その異名が付けられた。


「レオルド・クレイグか!……はは、俺もつくづく運がないな」


セリオンはレオルドと剣を交えながら話をした。


「何で勇者様がうちの国に攻め込んでくるんだ?個人的な恨みか何かか?」


「違う!……これは国の総意だ。俺はそれに従っただけだ」


レオルドは感じていた……セリオンの歯切れの悪さを。


「世界を救った奴がする行為とは思えないがなぁ。..…なぁセリオン、あんた何がしたいんだ?」


分かっていた……もはや勇者の矜恃は欠片もないと。

こんな事をしても無用な血を流すだけなのだと。


……それでもやるしかなかった。


愛する人たちを守るために。


セリオンはレオルドが手を抜いている事に気がついた。

まるで話を聞いてやると言わんばかりに。


「なぁレオルド……こんな事をしておいて虫のいい話なのだが……」


「お?話す気になったか!よし、言ってみろ」


「……俺を……殺してくれ」


悲鳴と怒号、剣と剣がぶつかり合う音が支配する世界で、二人の周りだけ音が消えた。

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