ー4章ー 18話 「強欲王との謁見」
グランゼル・ドラクマとエドヴァルド・ハプス大臣の密談がひと段落した頃、一人の王城兵士が謁見の間に駆け込んできた。
「で、伝令!」
「何事かっ!今は会議中だと申したであろう!」
「し、失礼しました!……しかし、勇者パーティのお一人である、リゼル・クロイス様が研鑽の旅よりお戻りになられておりまして……長らく留守にしていたので、謁見を願いたいと申しております!」
リゼルは森に滞在している事を隠し、グランゼル王国へ魔王復活の兆しがある事を伝えにやって来ていた。
その心中は穏やかではなかったが、普段から感情を表に出さないリゼルが、この魔王復活の伝令役に相応しいとオルセアは判断した。
……あくまで人道的立場による情報共有。
その後の判断など、リゼルにとってはどうでもよかった。
「分かった、通せ」
グランゼル・ドラクマの一言で、謁見の間に通されるリゼル。
重厚な扉の先に広がる、贅の限りを尽くした広間の中央に敷かれた赤い絨毯の上を、ゆっくりと進んで行く。
「リゼル・クロイス、研鑽の旅より一時帰還しました。謁見の機会を賜り、恐悦至極にございます」
「堅苦しい挨拶はよい。何か事情があって帰還したのであろう?……申せ」
淡々と話すリゼルと、高圧的な態度のドラクマ。
研鑽の旅と称してベルムランド侵攻に参加しなかったリゼルに対して、あまり好意的には思っていないドラクマであった。
だが今、再びベルムランド王国侵攻が現実化しようとする最中の帰還に、勇者パーティのメンバーであるリゼルだけでも取り込む事が出来れば、攻勢がかなり有利に働くとの思惑による謁見の機会だった。
「世界各地で魔王復活の兆しが見られます。まだ弱いものではありますが、被害が少しずつ出始めている状況です。王におかれましては、この事態を……」
「よい!分かった。だが、魔物風情が多少現れた所で、我がグランゼル王国はビクともするまい。その事はお前も知っているであろう?……それに魔王を倒せなかったのは、オルセアを始めとするお前らの失態。その後始末を我らにやらせると言うのか?」
リゼルの話を遮り、まともに話を聞こうとしないドラクマ。
彼の頭の中には、ベルムランド侵攻以外なかった。
「いえ、これはあくまで情報共有です。魔王に関しては、私たちが今も動いているのでご安心を」
「さて、それはさておき……リゼルよ。研鑽の旅はそのくらいにして、我が軍に復帰せぬか?実はそう遠くないうちに、ベルムランド侵攻を再開しようと思ってな。お前さえ良ければ、相応の地位を用意できるのだがな……」
ドラクマは世界の事よりも侵略する事しか考えていなかった。
それは欲しいものは何としても手に入れようとする【強欲王】と揶揄される所以でもあるのだが……人はそう簡単には変わらない。
この男もまた、何も変わらなかった。
(何をふざけた事を。セリオンを無理矢理ベルムランド侵攻に使って死なせたクセに!)
リゼルは勇者パーティの要であり、友であった勇者セリオン・アーディアの末路を聞いていただけに、軍復帰の話……それ以上に無用なベルムランド侵攻の話に憎悪と言ってもよい程の感情が渦巻いていた。
しかしその感情を表に出す訳にはいかず、心を落ち着ける事のみに集中した。
「有り難いお話ではありますが、今も話した通り魔王復活の兆しがある以上、我らの失態を繰り返す訳には参りません。……それを王はお望みだと理解したのですが?」
この一言に、ドラクマは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたが、返す言葉がなかった。
「……そうか、残念だ。ならば魔王を倒してまいれ。この話はなしだ……立ち去るがよい」
こうしてリゼルはグランゼル王国を後にした。
次に向かったのはベルムランド王国。
しかし以前のベルムランド侵攻が、今も尚遺恨として残っている国が話を聞いてくれるのかは分からない。
ましてや勇者セリオンが部隊を率いていた争い……そう容易くはいかないだろう。
リゼルは当時のセリオンに思いを馳せながら、ベルムランド王国に向け街道を歩いていた。




