ミッション ドールのダンジョン14、15階層を攻略せよ。
100話まで残り1話です。
「あの〜。ちょっといいですか?」
後ろからエイミーさんが声を掛けてくる。
「どうしたの?」
「タリリさんが石でも投げて、場所を教えたらどうでしょうか?」
「なるほどね。」
「あ、ほらアソコにいますよね。えい!」
エイミーさんは予め握っていた小石を楯の陰からオーバースローで投げた。
その小石は真っ直ぐに、まるで吸い込まれるかの様に魔石にヒットした。そしてはっきりと断言出来ないが魔石の破片が飛んだ気がした。小石の破片かもしれないが。
「当たったわよね?!」
「エイミーさん、凄いー。」
「あらあら。」
カレンに魔石が割れているかも知れない事を伝え、ファイアの魔法をギリギリまで待つ様に頼んだ。
そして俺たちは足元の割れた魔石を見て、再び驚かされていた。
「エイミーさん、何かしてたの?」
「凄いです。ビュンビュンです。」
「盾が重いので、このスタイルが合っていらっしゃいますわ。」
「あ、あの、はい、ありがとうございます。」
ここでしばらく投石用の石を拾い集め、20個程を腰の革袋に仕舞い、残りはジェシカさんのエプロンへと放り込んだ。
一方でタリリも運動神経は抜群でエイミーさんほどでは無いが、ゴーレムの居場所を知らせるには十分なコントロールだった。
2人の投石による位置の指示は劇的にカレンのストレスを減らしていた。歩き辛さによる遅々たる歩みは変わらないが、ほぼ立ち止まる事無く進める様になった事は大きな進歩だった。
そして誰も捻挫する事無く「13階層 ボス部屋」と書かれた扉を見つける事が出来た。
「エイミーさん、やってみる?」
「えー!ボスですよね?」
「そうよ、私もフォローするから。」
「でも、良いんですか。」
「アイツみたいに、駄目って言ってもやるぐらいになると困るけどね。」
「はい、ありがとうございます!」
いつものカレンの立ち位置にエイミーさんが立つと、カレンは彼女の斜め後ろに控えた。
「アンタ、エイミーさんの記念すべきボス戦なんだから気合い入れて扉を開けなさいよ。」
変な鼓舞を受けながら俺たちは扉を開いていく、そして扉がまだ開き始めのその隙間が10センチを少し超えた時、石が直線の軌跡を描いて黄色の魔石に向かって行った。確かに投げるタイミングまで指示はしていないが、その早さに目を疑った。とうぜんボスのストーンゴーレムは何の反応も示してはいない。
カツンと音を立てて、魔石は石を弾くが同時に魔石からも破片が飛んだ。
「….!」
誰かの息を飲む音が聞こえた気がした。
頭部以外を大小の石で構成したゴツゴツとしたストーンゴーレムは糸の切れた操り人形の様に、崩れ落ちその場所に石の山を築いた。欠けた魔石はその頂上で跳ねると石が敷き詰められた床で転がる事も無くその姿を俺たちに晒した。
「凄い、凄いわ!」
俺は少し鳥肌が立っている。それぐらいの鮮やかな投石だった。カレンも同様でエイミーさんの右手を両手で握りしめてブンブンと振っている。
「あ、ありがとうございます。」
エイミーさんは山となったボスとカレンを交互にみながら、恥ずかしそうに笑っていた。
ここは14階層で煉瓦ゴーレムが占有する通路だ。ここは13階層よりもずいぶんと分かり易い。綺麗に敷き詰められた赤褐の煉瓦の床の上に時折、白っぽい煉瓦が山になっているのだ。
「耐火煉瓦ってアンタが言うから、心配してたけど大丈夫そうね。」
攻略本に拠れば、この煉瓦ゴーレムの煉瓦はピザ窯などや溶鉱炉などに使われる耐火煉瓦になっているらしい。その両腕で頭部を護られたら普通のファイアボールの魔法では魔石を壊す事が難しいらしい。
しかし、ウチの猫娘のファイアは一体何℃になっているのかと思う。眼前の耐火煉瓦のゴーレムも炎が収まると欠けらすら残っていない。
ファイアボールを防ぐ腕も纏めて燃やし尽くして安心した表情を見せるカレンを今度は俺が褒めてやりたくなり、そのフードを被った頭へと右手を伸ばす。
「相変わらず、カレンも凄いな。」
「辞めて。」
パシッと左手で迎撃されると、マリリさんや、フランシスカさんが思わず振り向くような冷たい声と視線を浴びせられた。
その視線にカレンは少し慌てて
「あ、アンタが耳を触ろうとするから…。」
「いや、ごめん。」
「そうですわ、耳や尻尾はデリケートな場所ですから気を付けてあげて下さいね。」
「尻尾?」
「はぁ?見せないわよ。」
「そういえば、さっきの犬の人は尻尾でてたな。」
そう言ってカレンの尻尾を見ようと、顔を下げて行く。
「それが駄目なんでーす!」
カレンが手のひらで腰を隠すと、俺に体の正面を向けた。それと同時にジェシカさんがドンと俺を突き飛ばした。
そういえばカレンの尻尾を見た事無いなと、よろめきながらも腰にフォーカスを合わせるが隠された物は見えない。
そのよそよそしさはボス部屋までも続いている。
「ほら、アンタ早く準備して。」
カレンの後ろから扉の前へ向かう時も、彼女は背中を隠す様に体の向きを変えていた。最初は好奇心だったが、だんだんと罪悪感が芽生えて来た。極力視線を天井に向けるようにした。まるで痴漢を疑われないように両手を挙げてアピールするかの様に、なんとかもう見ていないとカレンに伝えたかった。
「エイミーさんも準備はいい?」
「はい。」
「開けて。」
ボス部屋の扉が重い音を立てて開いていく、今回はタリリより俺のが僅かに早いために、右半分の隙間が大きくなっている。
「えい!」
エイミーさんの素早い振りかぶりからの投石フォームは綺麗でだった。たった今頭上から石は手放された。
「エイミーさん、ガードして!」
煉瓦ゴーレムもエイミーさんと似た動作で、自らの右手だった煉瓦を飛ばして来ていた。
ガン、カツと2種類の音が響く。最初は煉瓦がエイミーさんの盾にぶつかった音、続く音は煉瓦ゴーレムの左手がエイミーさんの石を弾いた音だ。
小さな悲鳴を上げるがエイミーさんは左手に構えるオーバルシールドでその身を守っていた。
エイミーさんが腰の革袋から次弾を取り出そうとしているが、煉瓦ゴーレムは左手を既に振りかぶっている。
「ファイア。」
瞬時に炎に包まれた煉瓦ゴーレムは崩れながらも、炎に包まれた左手を投げつけて来た。
「ストーンウォールです。」
「ストーンウォール。」
その赤熱する左手は扉の手前で、バウンドしながらもストーンウォールに当ると、その勢いを止めた。
「すみません、すみません。」
クルクルと前後に体の向きを変えながら謝るエイミーさんに、マリリさんは落ち着きなさいと諌め、言葉を続けた。
「エイミーさんそんなに恐縮する必要は何も有りません。今の投石は確実に魔石に当たるコースでしたし、もし手が滑ってあらぬ方向へ飛んで行ったとしてもです。」
「そうよ、パーティなんだからみんなでするの。エイミーさん1人で頑張らなくてもいいのよ。」
「そうですよー。結局倒せたんですしー。」
「ありがとうございます、カレンさん、マリリさん。」
エイミーさんはそれでも、性分なのかペコペコと頭を下げている。
「あー、ジェシカさんも結局倒せたから問題無いって言ってるからな。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
エイミーさんは後ろを振り返ると、ジェシカさんがいると予想を付けてお辞儀をしていた。
「カケルさん、サンキュー。」
ジェシカさんは俺に向かって親指を立てている。それに右手を挙げて返事をした。
さて、ドールのダンジョン15階層はアイアンゴーレムだ。コイツも煉瓦ゴーレムと同じく分かりやすい。煉瓦の床の上に銀色の鉄が積まれている。不思議な事に赤くも黒くも錆びていない。
ならこのダンジョンは優秀な鉱山かと思えば、そうは上手く行かないらしい。ある程度の時間が経過すると安定化前のコイン同様消えてしまう。
ただ唯一の例外がジェシカさんのポケットの中だ。そこから取り出さない限り消える事は今までは無かった。ただ、取り出した物がどれぐらいで消えるのかはまではよく分かって無い。
そんな事を考えていると前方から熱風が来る。カレンのファイアがアイアンゴーレムを消滅させているその証拠だ。しかしゴーレム自体は消えているが、床や天井は赤熱するだけで穴が開かないのは不思議な修復力が働いているからなのだろうか?
「いきます!」
カレンのファイアの合間に何回か、エイミーさんも投石している。さっきの是正処置なのか予備の石を1個握り込んだまま投げている。今のところ的を外す事も無く1個の石だけで事が済んでいるが。
それから30分も歩いただろうか、タリリのボス部屋を見つけたと告げる声が若干、緊張感無く歩いていた俺を現実に引き戻した。
「今回はエイミーさんが2投したら、私も攻撃するわ。マリリさん、ミカンちゃん援護をお願いね。フランシスカさんはその次のフォローを。」
みんなはその指示に返事をすると、それぞれの配置に着く。エイミーさんもさっきよりはいい顔をしている。
「開けて!」
しかし扉は開かない。再び力を込めるが微動だにしない。
「扉を開ける音や足音はしなかったから、戻りの採掘者だろ。」
タリリが扉に手を掛けたままの姿勢で意見をいう。確かにさっきもハーレムパーティとすれ違ったばかりだから十分有りえる話だ。
「どうするの?」
「戻りのパーティなら余裕だろう。ヨナーの時と違いミッションも出てないしな。」
「ぴろりろーん!」
(ミッション ベリス邸の奴隷を助けろ 制限時間 18時間)
タリリの言葉がフラグだったかの様に、ミッションの開始を報せるチャイムの音が鳴り響いた。
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