ミッション ドールのダンジョン12、13階層を攻略せよ。
それからは泥の海にポッカリと浮かぶ、水色の魔石をカレンのファイアで燃やしていった。
一度試しにとフランシスカさんがレイピアから風邪の刃を飛ばしたら、風が巻き上げる泥飛沫で悲鳴があがり、それを防ぐ為にマリリさんが創り出したストーンウォールが地面から立ち昇る時に巻き上げた泥によりさらに大きな悲鳴を上げさせた。
「もう、どろどろよ。」
「最悪ですわ。」
「この泥は落ちるのでしょうか。」
カレンは顔に着いた泥をローブの袖で拭い、フランシスカさんはレギンスの上に履いているミニのプリーツスカートの変わり様に嘆いている。マリリさんは修道服の胸元の泥汚れを見ながら洗濯の心配をしている。
「カレン、ボス部屋だぞ。」
既に全員が見えているその部屋の名前をタリリは嬉しいそうに叫んでいる。
「ボスは水属性のどろ人形らしい。今までも水属性だったけどな。」
「注意書きは?」
「泥に注意、飛び道具や魔法が必須と書いてあるな。」
「深くなるのかしら、嫌ね。」
カレンは足元の泥を見ながらそうボヤく。
「けど、やる事はいつも通りだろ?」
「そうね、通路から狙い撃ちよ。」
そうして俺たちはいつものポジションにつく。タリリと俺が扉を開け、少し離れてミカンちゃんとカレンとマリリさんが並ぶ。その後ろにフランシスカさん、エイミーさん、ヨナーちゃんと続いている。
カレンが確認を終え、指示を出そうを口を開け開きかけたその時、フランシスカさんの声が響く。
「エイミーさん、後ろです!」
フランシスカさんはエイミーさんに声を掛けると同時にレイピアを突き出して、エアリアルスマッシュを背後のどろ人形に撃っている。
エイミーさんはその声に180度のターンを決めて盾を構えヨナーちゃんの前に出る。
「きゃあ!」
2体目のどろ人形が腕を振り下ろしてきたが、エイミーさんは悲鳴を上げながらも見事防いで見せた。
残りの1体にフランシスカさんは、泥の上を走って近づきレイピアを魔石に向けて突き出した。その切っ尖は魔石の中心に当たり、魔石が半分に割れていく。
「ふう。」
「フランシスカさん、エイミーさんありがとう。助かったわ。」
溜息を吐きながら顔を拭うフランシスカさんに、カレンは手を振っている。
皆が落ち着いたのを見るとカレンは頷いた。それを合図に俺たちは扉に手を掛ける。
「敵は1体。落ち着いてやれば問題無いわ。フォローをマリリさんお願いね。」
「開けて!」
号令に合わせて力を込める。外開きの扉には泥の抵抗がありなかなか重い。俺はタリリに少し遅れて開ききった。
ボス部屋の中央部には水色の魔石を頭部代わりに乗せた泥人形がいた。そして、どろ人形は腕を振り上げるとビュンと腕だった泥の塊がカレン目掛けて飛んで来る。
「ストーンウォール。」
「ファイア。」
水っぽい音を立てて壁に泥が張り付くのと、ファイアがボスを焼くのはほぼ同時にだった。どろ人形は声を上げる事も無く消えて行った。ボスがいた事を示すのは壁の汚れと赤熱した天井だけだった。
「ナイス、カレン。」
俺はそう言い残すとボス部屋にコインを回収にむかった。
「うわぁ!!深っ!」
足を踏み出した先には床板は無く、俺は胸元まで泥に浸かった。俺を見下ろす皆の目にはハッキリとした同情と安堵が溢れていた。
「アンタ、助かったわ。」
「アースステップ。」
マリリさんは部屋の出口まで続く1本の足場を作っていく。
「すみませんが、枚数が多いのでなるべく早くお願いします。」
黄色の薄板の上をみんなは足早に歩いていく。そんな中を俺は泥を掻き分けて、コイン迄辿り着くと銀貨を回収した。
出口ではもちろん1人で通路まで這い上がった。タリリですら俺を助けようとはしなかった。むしろ皆遠ざかっていた気がした。
12階層の始まりの部屋には、11階層の始まりの部屋と同様に水路があり透明な水が流れている。
「これで洗えって事だったのね。」
カレン達はその側に膝をついて顔を洗っている。ちなみに俺は水が汚れるからと最後を仰せつかっている。
そんな彼女達を待っていると、時間が経ち泥が乾いて白くなってくる。段々とこのままで良いかと思えてくる。
「ほら、ここに立ちなさい。」
カレンは水路の側に俺を立たせると、鍋に汲んだ水を手渡して来た。
「頭から被りなさい。あ、ちょっと待って。」
カレンは慌てて遠ざかり距離を取ると、俺に被るように促した。水が跳ねるのを警戒して逃げやがったくせに、偉そうに。俺はヤケクソで何度か水を被ると、水を滴らせたまま両手を広げてカレンに駆け寄っていく。
「きゃーっ!こら来んな!バカバカバカー!!」
抱き着くギリギリの所で奴が杖を構えたのを見ると、目がマジだったので謝りながらも、鍋を取りに引き返した。
「近づいたらドライヤー代わりに燃やすから。」
くそ、こういう時は俺じゃなく女性陣のお色気水浴びシーンじゃないのかとマリリさんを見ながらしみじみと思った。
12階層は砂のゴーレムだった。砂場に黄色の魔石が転がっているそんな光景を何度も目にした。ザザザと音立てながら魔石が持ち上がって人の形を成そうとするが形成途中でファイアに焼かれていた。
そうして「12階層 ボス部屋」と書かれた豪華な扉の前に来た。
「ボスは土属性のサンドゴーレムよね。」
「ああ、コイツも魔法は使って来ないな。だけどコイツも飛び道具があるから注意が必要らしい。」
「これも飛び道具か魔法推奨よね。」
「ああ、そう書いてる。」
そこまで説明を聞くと、皆はポジションに着き始めている。俺も扉に手を掛けた。
すると扉が自動で開き、俺は態勢を崩した。
「え?!」
「おお、待て待て!」
そこには巨大な棍棒を下げた上半身裸の大男がいた。そして続くのは10人の女性ばかりだった。
そこにはローブを着た魔法使いも、鎧で固めた銀髪の女性、弓を肩に掛けたエルフ、際どい水着の様な鎧を付けた褐色の女性、日本刀を下げた犬の獣人の女性と様々な女性が続いている。
「済まんな、もう少し待ってくれ。真ん中で待ってれば楽勝だからよ!」
どうやらこのパーティが帰還途中でボスを倒してしまったらしい。大男は俺たちのパーティをジロリと見回すと床に尻餅をついている俺の肩をドンと叩いた。
「おお、お前も中々やるな。平等に愛してやれよ。」
その言葉に呆気に取られていると、再びドンと背中を叩かれ前のめりになる。大男はそのまま女性たちを引き連れて通路へと歩いていく。
「くうぅぅぅー。あれが本当のハーレムパーティですかー。こんなヘタレとは違いますねー。」
「いえ、わたくしはちょっと。」
「私も服は着てほしいです。」
「マリリさん、胸毛濃くなかったじゃない?」
「それでもです!」
カレンの指摘に心底嫌そうに否定しているマリリさんが印象的だった。
「確かにカケルとは違って歴戦の戦士を感じさせるな。戦ってみたいぞ。」
そんな彼女らを無視して俺はボス部屋の魔方陣の前でショートソードを構えて立っている。俺だってこれぐらいやれると見せてやるつもりだ。
もちろんその為の準備も欠かさない。魔方陣まわりの砂は全て掻き分けて、魔方陣が光を帯びるその瞬間を見逃さない様にしたし、素振りも何度か繰り返した。
すると誰かに袖を引かれて、振り返るとミカンちゃんがメイスを差し出していた。
「ミカンちゃん、いいの?」
「はいです。当たれば良いです。」
そのメイスは予備のメイスだ。ミカンちゃんはトゲの付いたメイスを使っているが手渡されたのはずんぐりむっくりの奴だった。
俺はミカンちゃんが両手でメイスを構える横でメイスを頭上に掲げてたまま、今か今かとボスの出現を待つ。ミスってもミカンちゃんがフォローしてくれるから大丈夫と気分を落ち着かせる。
何度めかの深呼吸の後、魔方陣が黄色の光を帯びる。そして光の柱の中に魔石が浮かび上がるのが見える。そして身体を砂が構成していく。
「やるです。」
ミカンちゃんの声にビクッとしながらも、掲げていたメイスを真っ直ぐに振り下ろした。メイスは光の中を進み魔石を捉え、そのまま魔方陣を打ち付けた。
俺の耳にはメイスが床を打ち付ける音しか聞こえなかったが、魔石は床で跳ね俺たちの遥か前方に飛んで行った。
砂に落ちた魔石を追う為にミカンちゃんは、既に落下地点に駆け出している。それを見て俺も走り出す。
ミカンちゃんが見下ろす砂の上には、割れた魔法石が転がっていた。
「良し。」
「カケル、返すです。」
「ああ、ミカンちゃんありがとう。」
ミカンちゃんはタスキがけにしていたメイス入れの袋を下ろすと、俺から受け取ったメイスを入れ背中に縛り付けると、テテテとカレンへと走って行った。
「やるじゃない、ミカンちゃんが褒めてたわよ。」
おお、カレンが素直に褒めて来たことに驚きながらも俺たちはハイタッチを交わした。
「なぁ?この後のゴーレムは石、煉瓦、鉄って続くけど弱点が頭の魔石なら、問題無さそうだな。」
おれのイメージでは、弱点の魔石は身体の中に埋め込まれていて、硬い外装がそれを邪魔をするって感じなんだけどと思い返す。
「楽でいいじゃない。」
カレンの感想にそうだなと単純に納得した。そんな余韻を感じながら俺は13階層へと降りて行った。
「ここには水路は無いんだな。」
13階層始まりの部屋も煉瓦の部屋だった。ここでは休憩せずにそのまま通過した。そしてこの通路は非常に歩き難くい、石のゴーレムが守る階層だけあって大小の石がゴロゴロとしている。
「ゆっくりでいいわ。一歩一歩慎重にね。」
不安定な石を踏み外す事で捻挫するのが怖い。皆壁に手をつき身体を支えながら進んでいる。時折、大きな岩を迂回して進まなくてはならない為に壁から手を離すときが不安定になる。
しかもそういう場所に限って魔石が転がっているのが見える。
「カレン。」
「どこ?」
タリリが視線で説明しきれずに、指でさすが石に囲まれており分かり難い。
「あの赤っぽい石の横だ。」
「んー?ファイア。」
火柱が上がり床に敷き詰められた石が赤熱している。
「違う、あっちだ。」
「今のところより奥なの?」
「そうだ、もう少し奥だ。」
「ファイア。」
先程より奥に6本の炎の柱が同時に出来上がる。
「どう?」
「ああ、倒したぞ。」
ゴーレムを倒す事よりも、意思の疎通に疲れを見せる2人を俺たちは眺めながら進んで行った。




