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第17層「切欠の桃太郎」

「そういえば、聞いておらなんだがおぬしらは一体どこからきたんかねぇ?」


「ああ、そうだった」


 この大陸の歴史、この町のこと、そして身分のことなどこちらから聞くばかりで俺達のことはなにも話していなかったと思った俺は、詳細に自分たちが中央大陸から迷宮を開くためにきたことを教えた。


「迷宮......ねぇ。あたしゃあ、見ての通りもう老いすぎているから最近のことはとんと疎いんだけど......ここに来てそんなもんを作りにくるとは世の中わからんねぇ」


 迷宮なんて言葉も、ましてやそういったものもこれまでに見たこともなければ老婆のような反応は当然と言えた。

 それよりも、老いがなんだの言っているが先ほど俺たちを襲ったあの雰囲気――殺気とも違う何かの威圧感とも言える存在感からするに、全く衰えなんて見せていなかったように思う。


 指南役という元の肩書きは、それほどの警戒感を俺たちに示したのだ。


「お前さんらはこの大陸の......もし、水竜さんに目通り叶って許しを得たら迷宮をあの湖に作るのかい?」


「......作って誘って間引いてが俺の仕事だからそのつもりでいる......んだがな......」


「だが?」


「......水竜が果たして受け入れてくれるかが不安になってきたんだよ。てか、まず対面せずに、殺されるかもしれない危機感を感じるし」


「ま、人族憎しとあちらさんは思ってても不思議じゃないことを、ここに住まうものたちは行ってきたからねぇ」


 その言葉に俺も頷いて同意する。

 もしそれを俺がされたら、多分速攻で滅ぼすだろうと思えるほどのことをしたし、今も例の呪いが発動していないことを考えれば継続している可能性がある。

 解き放ち次第どうなるか、今の俺には全く分からなかった。


 そんな俺の思案顔に何かを感じたのか、薄く笑うと老婆は問いかけてきた。


「それで?......お前さんはこの町を――違うねぇ、我々をどうするんだねぇ? この町を征服でもするのかい?」


 俺はその質問に笑って答える。


「......ま、簡単だろうな。規模が大きいとは言え真四角に囲われているみたいだし俺の力で"簡単に全てを滅ぼすこと"も可能だ」


 あまりにも俺があっさり言ったからか、老婆はほう~と何やら関心をしていた。


「だがまぁ、その野望はそういう野望を持つ者が勝手にどうぞだし、俺の道義じゃない。俺はあくまで迷宮を創造して穢れ持つ奴を殺して、この町が生まれた歴史の被害者的な"あんたら"みたいな者を迷宮を利用して救おうとしているってだけだからな」


「殺すとは......堂々といいなさるんだねぇ。お前さんが見知ったというその竜爺さんがお前さんに敵意を持たずに可愛がる様子がなんとなく分かるよ」


 可愛がるか。

 ただ一緒に酒を飲んで、現場作業中にだれそれの奴隷にいじられたとかクダ巻いているあの竜爺さんは、まず奴隷達に可愛がられていると思う。いい意味でも悪い意味でも。


「俺はまずドラゴンに敵対することはないから、まぁ迷宮のことはその辺も悩みではあるかな」


「ほう~? なんでだねぇ?」


「強くて、大好きで、憧れと畏敬を持つドラゴンに敵意なんて持ったら......そういうのがぶれちまうからだよ」


「ほっほっほ! ......お前さんは面白いことをいうねぇ」


 竜爺に似た笑いをする老婆は何やらツボに入ったのか、笑い声をあげるが俺は気を悪くすることはなく、それ以上に久々の老人との語らいにやっぱり楽しいなと思っていた。


 こういう自分よりも目上すぎる人との話は、時に自分へ何かしらのことを与えてくれる機会もくれると俺は妹の病院でとある老人達と話し合った経験から知っている。


 無論、いいことも悪いことも含めてなんだけど。


「結局、お前さんはどうするんだねぇ?ここを滅ぼさずにあたしらを救うとかいっちゃあいるが、一朝一夕にゃ埋まらないよ?100年の壁は」


「んー......。それなんだよな」


 そう。


 俺の理想としてはこの町で、この老婆やあの少年少女たちが表側を自由に歩きそこには首輪がないような――そんな町にしたい。


 すぐにやろうと思えばできる方法はある。


 ただ、そういったすぐに"なんとかできる力"じゃなくて......あくまで自主的に内側と外側の壁を打ち壊したい。


 実際に昔どこかの国で壁が取り払われた時のように。


 そんな方向転換に向いた方法があれば苦労はしないのだけど。


「ま、いきなり都合よくそんな方法が現れるもないさね。もう日も落ちてきよったし、今日はここに泊めてあげるからゆっくりしたらいいさね」


「いいのか?」


「ああ。ただし、食料はわけとくれ......持ってるんだろ?」


「......ははは」


 その言葉に俺は、案外強かだなと思うのだった。




 そんな風にしてここに泊まることが決まったために、俺は念話にてジャックス側へ連絡を入れた。何か言いかけていたが、『タクト遊ぶの手伝っテ』と言う呼びかけにひとまず伝えることだけを伝えて、念話を切ってしまったが......まぁ、急を要することであれば向こうから呼びかけがあるだろうと思って気にしないことにした。


 子供達のところに行くと、肩車どころか4人くらいを一斉に乗せて遊ぶオーリエと、あやとりで主に女の子から人気を集めるアラーネ、その胸ゆえか、やらしいそれくらいの年の視線に辟易するティニもまたどこか嬉しそうであった。


 そうして食事をすることになったのだが、見たままというか......ここでは、満足な調理道具すらもなく、みながどんな食事をしているのか気になったのだが、まぁいいだろうとして食料を出してみんなに振舞うことにした。


 こういう食事の改善――いや、この環境から改善は必要だと改めて思う。


 そして肉だー、新鮮な野菜だーという歓声の中で聞こえるそれらをオフクロから料理を習っているというアラーネの手でポーチから出された器具で調理されていき、できた料理は彼等にとっても初めてとなるのか、久々の贅沢なのかそれらの食事はあっという間になくなるほどの勢いでなくなってしまった。


 急遽用意すること3回分の食事を腹に溜めて、今はぐっすりさんの子供たちに糸目の老婆は苦笑いを浮かべてはこちらに礼を言ってきた。


「ほんに、ありがたいよ。お前さんらのおかげで、限りはあるが幸せな寝顔をこうして見れるんだからねぇ」


 限りはあるが、か。


「......」


 俺は黙って眠りにつくそちらへと一瞥してから、取り出したノートに向かって改めて考え始めた。草案みたいなのを書いては消し、また書いては消すのを繰り返す。こうやっていると迷宮を作り始めた頃を思い出す。


 アベさんたちと出会って2年か。

 それが長いのか、短いのかまだ分からないけどあの頃に比べれば俺も少しは成長できたのかを改めて考えさせられる。


 ......成長か。




「......タクト?」


「............ん?なんだ?」


 どうやら何度も読んでいたらしいアラーネの声に、一時考えるのをやめてそちらを向いた。


「......こっちの子が眠れないって、グズってる」


 アラーネが添い寝をするようにして眠れないのかゴロンゴロンしている子を指してそう伝えてきた。


 グズるのは、確か精神的か肉体的に不快を感じているって妹の病院でたまたま知り合った産婦人科の看護師さんが言っていたような気がする。


「股間とか濡れてないか?」


「............!」


 アラーネは、俺の言葉に何やら赤くなった後に、上目遣いでこちらを見てポソっと呟いた。


「タクトのエッチ」


「おまえのじゃない!」


 と、俺は言って、しまった起こしてしまうと慌てて口を手で塞いだ。

 そんな俺を見て、オーリエ、ティニはクスクス笑っているし老婆は老婆で、ほうほうと何やら糸目を見開いてキラリと目を光らせて注視していた。


「はぁ~......その子のだよ。俺が聞いた話じゃ、肉体的――つまり、お漏らしをしてて濡れているのが不快だからとか精神的――寝られなくて~とか、寝る体勢がなんか落ち着かない~とかそんなことを聞いた覚えがあるんだ」


「............でも、この子大きいよ?」


 見たところでは4歳か5歳くらいだ。

 ただ大きくても、精神的に成長できない原因――まぁこういった環境が原因とも考えられるのだが、そういうのもあってか実年齢に比べて未だにお漏らしをする子もいるようだし、グズる子供もいたりするってのもその看護師に聞いたことがあると伝えた。


 そんなことで一通り確認するが、特に湿りも不快になるようなこともないというので俺はんーと考えて、それならとノートを広げて簡単な物語を書いた。


 男の子の定番の童話――ももたろう。


 それらを清書して、間違いがないかを一通り確認するとアラーネに手渡した。


「......これは?」


「俺の世界で昔、男の子に大人気だったらしい冒険活劇の物語だ」


 その言葉に短く返事をして、パラパラめくって簡単に見ている。


 そして、読み聞かせをするように無口なくせに綺麗な通る声を持つアラーネの朗読が始まった。


 それは、起きていた少年――クリアムだったか、俺達に立ち向かってきた勇気ある少年も、それ以外の少年少女もみんなが食いつくかのようにしてアラーネの語るももたろうの鬼退治に釘付けとなっていた。


「サチホの山側の生活に似ているねぇ。......お前さん、物書きか何かしてたのかい?」


 たいそう珍しいとする話だったのか、糸目の老婆が聞いてきた。


「いや、全くだよ。だけど......俺が住んでいたところじゃ暗唱できるくらいにみんなが知っている有名な物語ってことで受け入れられているからな。まぁ、今じゃあゲームの影響か、読み聞かせされているのかすら謎だけど」


「げーむ......?」


 そう、ゲームだ。


 オヤジの若い頃にもすでにそういうブームがあって、俺の年の頃でもまだ続くロングリリース的な有名RPGがある。そう言った――




 ん?




 俺は自分の中に生まれたあるキーワードがピコンと音を立てるかのように点灯するかのように何の色も含まない声で思わず呟いた。


「........................あった」


 俺のポソっとした声に老婆も物語に聞き入っていたらしいオーリエも、ティニもこちらを向いていた。


「タクト、どうしたノ?」


 その言葉に返事をすることなく、俺はポーチから急いでノートを取り出して書き上げていく。ももたろうじゃないこの町のこの子たちを救うきっかけになるようなそんなストーリーを。


 そして立ち上がると――


「婆さん。......準備したいことがある。その前にこの町の概要図とか知らないか?あとは畜生ブルットの分布図なんかも作りたい」


「そんなのどうするんだい?」


「......きっかけにしかならないけどな、あるんだよ。効果的でしかも、俺にとっても好都合となる"ある方法"が!」


「......それは本当かい?」


「ああ。十中八九うまくいくかは五分五分になるけれど、今よりはずっとよくなるはずだ。そんな、起死回生にも近いきっかけくらいは作れると思うよ。......ただ、犠牲は払うことになるけどな」


「犠牲?」


 老婆は不審そうな目になったので、勘違いしたのかと俺は訂正した。


「ああ何もこの子たちとかそういう命に関わることじゃない。犠牲になるのは、この場所とかだけだ。後のことも俺の力でクリアできるから問題ない」


「くりあ?......ようわからんから詳しい話を聞こうかねぇ」


 それじゃあ集まってくれと、俺はみんなに集合をかける。

 ももたろうを読んでいたアラーネは、いつの間にか眠ってしまった子供を起こさないように移動してこちらに来た。


 あとは、そうだな。


 俺はあることを頼むために、この場にいないがいるある男へと話しかけた。


「イシャ、出てきてくれ。んで、出番だから出してくれ」


「ほいよー。あーだる」


 俺の皮膚に溶け込んでいたイシャは移植状態を脱皮することで、分離して姿を現した。その一連のできごとにここの連中は驚いていたようだった。


「ほいじゃ、2人ともでてこーい、と」


 脱皮とイシャがそのまま力を発動させると、今度は俺の頬――その内側から光とともに現れた2人の人影に今度はオーリエたちといった仲間達も驚くこととなる。


「まだ、子供いたノ?」


「............タクト、精暴」


 なんだよ精暴って。


 そんなやり取りをしている間にやがて、2人の人影が形を持って登場した。


「お~マイサンよ!なんでも、出番だというから登場させてもらったがね!」


 2人のうちの1人はそう言って何やらポーズを取る。


 父親扱いから息子扱いにシフトチェンジした第二世代となる新たな息子は、派手な衣装に身を包んでいてまるで舞台役者のようないでたちとダンディな髭、刈り上げた短い短髪といった髪型をした左の顔面から生まれしホムンクルスのアクターである。


「監督ぅ~。出番が遅いわよぉ~?アクちゃん、演じたくて演じたくて仕方がなかったわよ~ぅ」


 そう言ってしなを作り、俺を監督と呼ぶ舞台女優ともいえるような豪華で派手な胸空きのドレスと髪型もウェーブがかかっていて腰くらいはある綺麗な黒髪のホムンクルスは、右の顔面から生まれた娘のアクトレスである。


「......これで新たに3人メ?」


「ほわ~腕から頬から色々とすごいですの」


 オーリエの呆れみたいな声と感心するティニという極端な反応だったのだが、俺は2人を紹介して今作戦に必要だから出したと伝えた。


「............タクトは、一体どれだけの子供をヲ?」


「もういないって。新たに生まれたのはこの3人だけだ。..................今のところは」


 今のところはという発言に、なんかじと目で見られている気がした俺はコホンと咳払いをすることでごまかすと、別行動を取っている内側の仲間にも作戦を聞いてもらうために念話で呼びかけることにした。



("アベさん!ジャックス!......ちょっと協力してくれ!")


("ガウガウ")


("いきなりかよ、んで、いつ――")


("お前のくだらん話はあとだ!事情は追って手紙を電書鳩使って送るから今はとりあえず作戦だと思って聞いてくれ")


("ガウ!")


("わ、分かったよ旦那。旦那は相変わらずタクトに甘いよな~こいつはこいつで相変わらず、やること見つけたら一直線野郎だしよぉ。んで、なんだよ?話ってのは")


 お前もお前で愚痴っているくせに最後は結局話を聞くよなとは言わない。


「今仲間とも念話で繋がっているから一緒に聞いてもらう。んじゃ説明させてもらうぞ。今作戦は――」




 そうして、一通りの説明をしてチョコチョコと入る質問に答えては、俺のほうももしかしたらと思って老婆に質問をするなどしてすっかり夜も更けた頃にようやく全ての話を終えた後に聞こえてきたのは、ジャックスのぼやきである。


("......ぶっとびすぎっていうか、まぁなんていうか......確かにそれならいけるかもしれねぇけどよ。って、旦那もそんなノリノリで......")


「本当にそんなことが可能なのかい?」


「......ま、多分な」


「顔つなぎくらいなら構わないさね。あたしゃこれでも、この町じゃ長いほうだしねぇ。......説得も引き受けようじゃないか。だがねぇそのための食料は......相当かかると思うさね」


「それくらいなら、とあるところで望みのままにもらった奴があって、まだ手をつけてないのがいっぱい残っているから、それを預けるしなんなら金も出すから頼むよ」


「......わかったよ。......結構、この家にも愛着はあったけどねぇ」


 家を失うこの作戦に思わないところがないのか、ため息を吐く老婆。


「代わりは、俺が作るから安心してくれ。当面の資金もあるから、調達できるだけ内側から仕入れれば困らないしな」


「......タクト、私はどっチ?」


「あー、それは、今のこのままが"その"メンバーだ」


「......オーリエさん、やったね」


 一体何の話をと思ったが、何やらムンと両手を握ってアピールするティニのほうに向くと、そこには張り切ったかのようなティニがこちらを見ていた。


「私もお役に立てることがあればなんでもいたしますの!」


「あ、ああ。......期待してるよ」


 俺の言葉にはいですのと伝えてくるが......果たしてこの子とあいつで大丈夫かと少々不安を感じる。


 ま、いいか。


 と、そんな感じでこちらは薦める方向でまとまった。


 一方あちらでは、何やら騒がしい感じがした。


("今、念話つかえねぇ3人に話をしたらデニアもシーアもリリィもいい案だって褒めてるぜ。まだ全容は把握してねぇから、一刻も早くそこは頼むぜ")


("おう。今、聞いた内容を書きながらも作戦を考えているからもうすぐ届けることはできるぞ")


("器用なやつだぜ。まぁいい。そんじゃ打ち合わせは明日だな?頼むぜ")


("ガウガウ")


("ああ。んじゃ、アベさんもジャックスもおやすみな")


 そうして念話を切った後に俺は手を動かして、この作戦のきっかけを作ってくれた今は、夜も遅くまた聞き触りが良かったらしい物語・ももたろうを聞いたために今は安らかに眠る子共たちのためにも、張り切って今作戦における準備に取り掛かるのだった。




 あらゆるものを作成、準備、訓練、とやるべきことを集中して行なった結果、あっという間に時間が過ぎていき、作戦の説明から2日が経った。


 ――いよいよとなった本日、作戦は実行に移されるのだった。


ホムンクルスは、19人になりました。

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