番外1「ファントム・タクト」
迷宮"チュートリアル"。
日本人で最近のゲームをされている方はご存知だが、その意味はゲームをする上での一番最初に行なわれる説明形式のゲームプレイ。
意味としては、少人数への教育という意味である。
迷宮の教育。
つまり――迷宮の在り方を教える場としている迷宮とも読むことができる迷宮"チュートリアル"であるところの迷宮は開放して、2年の月日が流れた。
現在、ここを創造し、実質的な最高権力者であるところの迷宮創造主タクトは東の大陸へと新たな迷宮を創造するために向かっているため、留守となっていて彼の代役として彼の娘・レティシアがあらゆることへの司令役に就いていた。
......まぁ、タクトがこの場にいたとしても、実働部分では彼女が先頭を切って仕切っているので、創造とルール作りと物作りと生き物縛り以外に能がない彼はいてもいなくても、どっちでも構わないのだが。
さてその迷宮"チュートリアル”は主に2つに分かれている。
1つ目は迷宮ラウンジでそこには、まるで迷宮都市かとでも言うかのような広さと施設と奴隷の住居区、そして迷宮側に立つものにしか知られていない4氏族の住居区があり、迷宮"本丸"と呼ばれる2つ目の迷宮へでかけるための準備、または帰ってきて魔石を換金する場と泊まるための施設なども用意されているので、挑戦者にとっては割りと至れり尽くせりな場でもあった。
2つ目は本丸で、いわゆる命をかけた探索部分で魔法道具や、出てくる魔物を倒して魔石を手に入れては金に換金ということを行なうこの迷宮のアイデンティティである。
そんなラウンジと本丸は、門で繋がっていてそれぞれ独立した空間となっている。そのために今回のチュートリアルらしいトラブルに誰も気付くことなく、迷宮共感という力を持ったレティシアでさえも気付かないあるモノが生み出されたことでその後も、密かにある方面が活性化――騒がしくなることを未だこの時は誰も知る由もないことである。
* * * * *
「はーい!それじゃあ今日の訓練終わりー!」
「......はぁ~~~~~~~」
――ドサッ
能天気な声と死にそうな息を吐く声と崩れ落ちる音が、迷宮ラウンジ内の運営委員会通称D.C施設内に設えたトレーニングルームに響き渡った。
「うんうん!さすがは傭兵長の娘だね!3Gでもそれだけついてこれるなら、パパの嫁ポイントも急上昇だよ!」
――ガバ!
「ホントですか!......わ、私......やっと生めるんですね!」
さっきまであんなにヘバってたこととヤることもヤってないのに、気が早いなとはレティでさえも言うことができないほどの目の輝きをするファナに、能天気少女には珍しい苦笑いを浮かべてこう伝えた。
「なんでも......モジョちゃんがタクトファンクラブなんてのを立ち上げちゃったから頑張らない嫁ポイントによってゲットできなくなっちゃうよ?」
「あ。それなら私、モジョ様から"特別"会員ナンバー01番を頂いてます!」
この順応力と行動力は素直にすごいなとレティは心の中で思うのだった。
「ちなみに00番はモジョちゃん?」
「モジョ様は、娘部門で01番ですよ?」
娘部門って......。
ファンクラブに部門という思考もさすがは変態なモジョちゃんと関心するレティに自分への問いかけかパパの部屋から届く思考を感じると、それを共感能力でキャッチしてレティは応答した。
("サラリーくん、どうしたの?")
("忙しいところをごめんよ、レティ姉さん。ちょっと気になることがあるから、父さんの部屋へ来てくれないか?")
("ほーい")
現在のレティの能力であれば、この場で力を使うことでサラリーの感覚と共感させてその見せたいものを見ることもできるが、それじゃつまらないと彼女はできる限り自分の足で向かい、直接見るようにしている。
その考えの発端は、タクトが拉致事件の際に受けたいざというときに使えなかった力ということも反面教師として学んでいることが多分に含まれているがレティは気付いていなかった。
「ファナちゃん、今からちょいとお仕事してくるからもう戻ってお仕事してても大丈夫だよー!」
「あ、はい!それではレティ様!本当に今日はご指導ご鞭撻ありがとうございました!ファナはこれにて失礼いたします!」
そうして胸の前でビシっと拳を当てるとファナはその場を去っていった。
その後ろ姿を見て、パパにはもったいないくらいにいい子だなと思うレティであった。
ファナと別れたレティは、そのままパパの部屋へと向かってサラリーに話しかける。
「サラリーくん、どうしたの?」
「あ、レティ姉さん。実はこの画像を見て欲しいんだけど」
そうして示されたのは、本丸側に設置された監視眼にて撮影されたらしい画像だ。そこには何かが横切る人影のようなものが映し出されていた。
「ここはどこなの?」
というレティにサラリーは、33Fと答え返した。
「33Fねぇ~......んー」
ボソっと呟いたレティは、そのまま頭の中で33Fと共感して繋がってみる。
しかしそこはいつもと変わりがなく、今まさに20F踏破者が足を踏み入れたということだけを感じえるだけとなっていた。
「今見た限りじゃ、特に変わったことはないけど」
「そうか......。いや、実はね――」
サラリーのその話に耳を傾けるとにわかには信じがたい話を聞くことができた。
「パパが、33Fに......それって証言者は誰なの?」
「あの時レティ姉さんが助けた初の踏破者たちのパーティだよ」
「おおー!......元気にやってるんだね~!」
この迷宮が襲撃された際に、仲間らしき者の裏切りにあって殺されそうなところをタクトが気に入っているからというだけで助けた経緯を持ち合わせていたので、レティも覚えていた。そういえば、彼等は直でパパに会っていると言うことも併せて思い出すと腕を組んで考えた。
「パパを直接見た人の判断だから......信憑性高いけど~。んーー!」
そんな声を発しながらも考えても分からないので、しばらく様子を見ようとなってその日は解散した。
翌日――
「......レティ姉、報告」
本丸警邏隊を指揮する妹のプーからレティは報告を受けていた。
「3F、14F、20Fと......なんかトトを見たって」
「またー?」
「............?」
あ、そうかプーちゃんは知らないんだよねとレティは考えると事情を説明する。
「............トトがいるはずない」
「だよねー。だから昨日も様子を見ようってことになったんだけどねー!」
そんなやり取りをしていると、ヤンキーから連絡が入った。
("レティの姉御!モジョの姉御とファナの奴が『父の乳がー』とか、『タクト様ぁ~ん』とか不気味な声を上げて迷宮本丸へと入っていっちまったぜ!")
ヤンキーの返しにため息とあららーという能天気な声で応答するしかない2人であった。
なお、その後もひっきりなしにタクトファンクラブ最多を誇る乙女の騎士団所属の奴隷騎士や、しれーっとプーまで参戦しては居るはずもないタクト大捜索が開始されたのは言うまでもなく......だが、いくら探してもタクトはどこにもいないという結果に収まってしまうのだった。
そんなわけで知恵を搾り出すために議題を『幻影の迷宮創造主の謎』と称して開かれた会議だったのだが平行線を辿ったのだ。
もちろん、この会議が開かれる前にタクトとコンタクトを取るために魔伝道具化させた『電書鳩』を飛ばし、返事として『うほ!魚祭りだひゃっほー』という意味不明な返しをしてきたので本人はちゃんと旅をしているらしいと裏づけが取れた。
そのため本人がこっそり帰ってきて驚かせようとかそんな幼稚なことをする性格でもないしとその案は却下された。却下されてから、原因が全く分からない状況は混迷を極めることとなった。
「レティ姉さんの力でも分からないのかい?」
「うん、共感能力でならパパがどこにいるかくらいすぐに判るけど気配とか全く感じないからねー!」
「それじゃあまずは順番に話を整理していこうか」
そうしてモジョ製の黒板を用いて経緯を書き出していく。
最初に発見したのは、初踏破者のパーティで33F。
その翌日は複数が発見されていずれもバラバラの挑戦者、10F踏破者、20F踏破者で階層は3F、14F、20F。
「何か法則性みたいなのはないのかしら?10進法の理論で言えば......最初の33Fは3つ繰り上がって、翌日は4Fだから繰り上がりなし、14Fは1つ繰り上がり、20Fは2つ繰り上がるって考えはどうかしら?」
「3,0,1,2......ってこと~?」
頭脳担当組のジョイの言葉に、エロナが解釈としてあげるもレティは納得することができないでいた。どうにも......引っかかるからだ。
「レティ姉さんは納得してないみたいだね。何か気になることでも?」
「......んー、なんかどっかで見たことあるような感じがするんだよねー」
「どこかで?」
その問いにレティはうんと答えると、手をパンパンと叩いた。
「とりあえずこの件は今のところ、周知ってことで!あー、情報提供者でもし接触ができたら賞金とか設けてもいいかもね!」
「分かった。そのように手配するよ」
そうしてその日の第1回会議は終わりを迎えた。
それから3日が経った時、有力な情報――というか、実物がモジョとファナによって捕獲されることとなった。
目の前にいるのは、どこからどう見てもタクトそのものの姿をした何かだ。
「......父さん、に見えるけど違うわよね?」
「父の乳の匂いはしないから父じゃないわ!」
「で、でも~タクト様が......目の前に......!」
そんなやり取りの中でレティはしばらくタクトもどきを見つめていた。
「レティでも捉えることができなかった原因がなんとなく見えた気がしたよ」
「どういうこと~?」
レティはエロナの疑問に、指を一本立てて提案した。
「エロナちゃん、これからこれまでに目撃されたところで魔力計測をしてくれる?それで分かると思うよ!」
「は~い」
そうして暢気な鼻歌を歌いながら出て行くエロナを見送るように、ジョイが見つめた後再度レティへ目を向けた。
「レティ姉さん?......一体どういうことなの?」
「それは......確証が取れればジョイちゃんにも分かるよ!」
そんなやり取りをしている間にも、今まであった場所にタクトモドキがないことに気付いたレティはため息を吐くと――
「モジョちゃんにファナちゃん?......それはここに置いて置くからもってっちゃダメ!」
ギクっとして2人は置いて置くという言葉で別のことを考えるも、レティにそれは通用せずに侵入して愛でるのもだめと釘を刺されるに至った。
それから3日をかけて行なわれるエロナによる魔力判定が行なわれる中、次々とタクトもどきがランダムに現れるようになって挑戦者や踏破者称号を持つ者たちからは『ファントム・タクト』として扱われるようになり、襲撃されたり、迷宮の無事祈願の対象として祈られたり、普通に挨拶したりなど迷宮における恒例行事になりつつあった。
そして、判定が完了して結果を知らせる場での会議場。
「レティお姉ちゃんが言っていたことが理解できたよ~」
という舌っ足らずな言葉とともに説明をするエロナに、集まったものたちはなるほどといわざるをえないものだった。
「つまりは、各階層にて循環の基点となる部分にて父上の魔力が凝り固まって出来上がった一種の魔力体のようなものと?」
「うん~!そして、今はありもしないツルハシを手に各所で岩壁に向かって何かを振るう姿が確認されていることを考えれば迷宮を作るという意思の下で行動しているって感じかな~?」
そう、この報告の前にレティからもたらされた情報によってさらに追加されたタクトもどきの行動はまさに迷宮を作るかのようにするいわゆる意思を感じさせるファントム・タクトが生成されるようになったということだ。
危害を加えることはなく、見た目がタクトそのものということもあって手が出しずらいと警邏隊も警備隊も困った事態であると報告されている。
「............対策できてるの?」
「お父さんに内緒でね、レティお姉ちゃんの提案である場所でファンクラブ用に展示しようって話が持ち上がっているから生み出された順にそこへ移していくことで対処する予定だよ~」
「それならおとーたんにいつでもあまえられるー」
「あらあら、お食事も用意したほうがいいのかしら?」
「まぁ、私たち特権でそういうの許可してもらえばいいし、オフクロお姉ちゃんは別に食事を用意する必要はないよ~?だって相手はお父さんでもただの魔力体だからね~」
「はっはー!オヤジにばれたらえれぇめにあいそうだってもんだぜ!」
「ははっ、それも超面白そーってか~センパイにばれたら超めんどーになりそうじゃん?」
という能天気な会話が続く中でエロナは苦笑いを浮かべつつも、レティのほうへと視線を送る。ありがとという目でエロナを見返すとレティははいはーい!と手を叩いた。
「ともかく、そういうわけで今後も魔力の循環地近くにはパパもどきが現れると思うけどドンドン隔離していくし、この件に関してパパに知られるわけにはいかないから緘口令を敷くから、みんなよろしくね!」
娘長を自負するレティの言葉にみなが返事をして会議は散会していった。
「ところでレティお姉ちゃん?......あの時言ってたどっかで見たことあるとかレティお姉ちゃんがきづかないはずだと妙に納得してたのってどういうこと~?」
と、エロナに問いかけられたレティはああ~それ?と返して説明をした。
「パパが持ってるゲームであった設定で『魔力が集中的に集約して吹き溜まりが起きる場所では魔物化がすごく進むため、超S級モンスターが出る』っていうゲームがあってなんかあれと似ていたから、もしかしてってね!」
そして2本指を立てるとさらに説明を続けた。
「レティが気付かなかった理由は、パパの魔力に警戒心なんて抱くことはないからって意味だよ!」
生みの親であり、繋がりさえもあるタクトに対してレティは敵愾心はおろか警戒心など持ちようがない。タクトの性格は熟知しているし、仮に自分が不要だとしてもレティはそれを簡単に受け入れて、自ら命を絶つということも厭わないほどの存在であるタクトだからと自身で納得していたのである。
「そっか~。でも、敵対とかしてきたらどうするの?」
その問いにレティはん~と考えるが、あるものを見てエロナにそれを見るように言った。
「......ねぇ、あれ見て!」
そうしてレティがモニターを指した。
その指した指を追いかけるようにエロナが監視眼に目を向けると、モジョが新たに生み出されたタクトもどきに向かって抱きつこうと飛びついた後、タクトもどきにチョップで迎撃されるというものが映し出されていた。
「あはは~!まるでパパみたいだね~!」
「でしょ?だから、心配ないよ!」
そんな2人の笑い声はパパの部屋でしばらく続いていた。
1週間後。
さらにタクトもどきはアクションを増やして、『何かを描くタクト』、『何かを準備して手を翳すタクト』、『何もない空間にひたすらチョップを繰り返すタクト』といったアクションをするタクトもどきが増えたために、それらをレティの力で回収して、迷宮創造はできない代わりに予備スペースとなる部分に砂にするツルハシで拡張をして工事をしたおかげで、様々なアクションをするタクトもどきの展示会館が秘密裏に開館をするのだった。
開館からかなり盛況で、タクトファンクラブの会員が連日のように押しかけて、それぞれの行動をひたすら行なうタクトをただじっと見て愛でる光景が随所で示されていた。また、その中でも特に大人気だったのが『何かを撫でるタクト』という体験コーナーだったのは、言うまでもないことである。
「これで一件落着だね!」
「......レティ姉さん、バレたらどうするつもりなんだい?」
その言葉にレティは満面の笑みを浮かべると――
「そりゃもちろん、記憶を改ざんさせ――あ......?」
「ど、どうしたんだい?」
「......なんかよく分からないけど、今パパに悪口言われた気がした!」
「???」
繋がっているからかというそれを羨ましく思いながらも、今後の秘密の展示開館に関してタクトに対してある意味で、同情的な思いを抱くサラリーににっこりと笑って何か怖いことを考えているレティの2人であった。
こうして、タクトが預かり知らぬところで起こった騒動は決着した。
この先も決して本人が知ることはないタクトもどき展示会館は、その後もそのまた後もレティによる非常に強烈なセキュリティのおかげもあって本人に伝わることのない迷宮施設の裏の人気を支える存在となるのだった。
現在、南西の町へ向けて移動している頃に起こった迷宮"チュートリアル"での出来事であった。




