第15層「南西の町にて」
俺達は現在、南西の町へと馬車を走らせて4日が経過していた。
地図が商売に関わるということで、制限されているということで港町の施設にはなかったが、情報どおり街道が整備されていたので進む速さとしては中央大陸よりも順調だった。
なお迷宮"船"は、町を出る前に停泊許可申請とやらをすればいいというアラーネの情報を元にとりあえず10日間の申請と申請料とやらを払って今は目立たない港の端で停泊している。
また、町を出る前に封筒を届けることと、迷宮"チュートリアル"に改めて挑戦するというデン率いる牛人族の戦士たちとは適当なところで別れた。デニアとティニも彼等に着いていくと思われたが結局こちらに残ることになった。
奴隷紋付の奴隷としての役目を果たすためらしいが......どうも嫌な予感というか、フラグを感じて仕方がないのは気のせいか。
初めて乗ったのだとはしゃぐシーアは、あのロブスタン族のロブタフが死んだというのにその死をまるで感じさせないような元気さを持っていたが、夜寝る前に馬車内に設えた安置室へ向かっていることを考えれば、どこかの娘のようなただの能天気娘というわけではないようだ。
......いかん。
こんなことを油断して考えようものなら即お仕置きドーンの刑に服されそうだ。
そんなシーアは強い子だと関心するが、御者台でヒレを俺のふとももにピチピチ当てながらそのぷるんぷるんと弾む"それ"をどうにか抑えて欲しいと思う俺は、ロリコンにでも目覚めたのだろうかとやるせない気持ちとなっていた。
東の大陸に住まう人を、街道におけるすれ違いによってこの4日色々観察する機会があった。
そこから見えてきたのは、俺のような肌をした黄色人種的な感じで、髪の色は中央大陸と同じで斑模様というもので黒い髪とかじゃなかったが、彫は薄く鼻もそこまで高くないといったアジア系の顔という感じがほとんどだった。
格好は上下に分かれていて、誰もがポンチョのようなものを羽織ったりしているという特徴的な服装で、それは中央大陸にはなく、あちらのように一枚の大きな袋に両腕両足に穴を開けて作られたかのような一枚服じゃないのは新鮮だった。
そして、首輪をつけたみすぼらしい人族と、首輪をもつ一般的な外套を羽織る人族。
そのどちらもが同じ人族であるということについても、特徴的......というよりも、大陸の違いとはこういうところでも変わるものかという思いを感じた。
そんな光景を見た印象としては、それがそこの常識で双方が納得しているのならばという感じだったが少しだけもやもやするものがあったのは否定できない感情でもあった。
今は先を急ぐとして、俺は考えないようにすることにした。
「ふあぁぁぁ~~~~~~」
そんな旅の中、御者台という一定のリズム感のある眠気導入に適したところに見張りという立場ながらにいるのは、本当に色々な意味で危ないところである。
「お?タクトは眠そうなのだ!ならば、ここに頭をつけて寝るといいのだ!」
そう言ってペチペチと人魚のヒレを叩く姿に甘えそうになるも、そこに頭をつけると今度は目に優しくない光景が訪れそうなので拒否することにした。
「..................遠慮しておく」
ヘソ下への口づけに、毎朝の乳搾りだけでもあれなのに、人魚の膝枕(下からの乳眺め付)なんて......ホムンクルスが悪夢のようにできそうなシチュだ。
そんなやり取りをしながらも眠気を我慢して進んでいると途中に分かれ道となった別のほうに伸びる街道があった。
それは、看板を見るに南の町へということらしかった。
本当に交易に向いたところなんだと関心しながらも、俺は南西の町へと進路を進めていく。
そしてもう1日経過した南西の町への旅はいよいよ終わりを告げるようだ。
目の前には、アラーネから得られた情報通りの大きさを誇る町が見えた。
なるほど確かにと思わせるほどの大きさを持つそれを見て、俺はシーアに声をかける。
「シーア。町には兵士もいるらしいから、お前は下がって中のみんなを呼んどいてくれ。そろそろ着くぞってな」
「わかったのだ!」
返事をしたシーアは器用にヒレで立つと、ピョンピョンと飛び跳ねて御者台の扉から中へと入っていった。俺が聞き忘れている情報というのは基本的に、アラーネが補完してくれているので町には私兵ともいうべき兵士もいるなども得ていたのだ。
町に入る前の面倒を避けるためにという理由から引っ込めた。
シーアを見送った後に、改めて前を向いて町のほうを見渡すと、その大きさに関心する思いだった。城壁と思われる壁が周囲をグルっと囲んでいたが、町に高さを持たせているのでまるで防波堤に囲われた町という印象だった。
街道自体ものぼり道になっているようで、この作りを見るに100年前の洪水から学んだかのようなものを見受けられた。
そして、道々に旅人やら俺と同じような馬車、荷車のようなものを馬にくくり付けた行商だろうか色々な人族が列を作って順番に整列しているのを見ると、まるでG.Wの旅行に言った際に見られた高速料金支払い所前の渋滞を彷彿とさせるものだった。
そんな行列の一番最後尾に並ぶと、俺は暇つぶしも兼ねて同じように並ぶ人を順々に見ていくことにする。
そうして共通していることが分かった。
「やっぱり首輪か......」
午前の学校行く前の時間や、午後の帰宅する公園付近で見かける犬を散歩する人のように、"人族"が"人族"に首輪をかけてリードを持っている姿はここでも当たり前であるようで、なんかどんどんそれが不快に感じてくる。
そんな首輪の奴隷も近場の人族を見ると、至る所に所有物という証明を意味する奴隷紋がチラチラと見えていた。
こうしてみると、あの時にリリィたちとともに保護した人族の奴隷たちは首輪をしていなかったのでそこが中央大陸から来たことの裏づけにもなるような気がした。
「......これがこちらの常識ですわ。宵闇様」
「リリィ?」
御者台の扉を潜ってきたリリィの言葉で再度前を見ると、そうかと呟いた。
「あいつら......奴隷たちってのは何か種類とかあるのか?」
「種類?......いいえ、種類はありません。"奴隷"は等しく"奴隷"ですわ」
犯罪奴隷とか、愛玩奴隷とかの区別はないということか。
つまりこれが自分の力量というかそういうものを示すものなんだと俺は納得をすることとなった。
「とりあえず、隠れてろ。今、外に出るのは色々と面倒だ。この行列だからしばらくかかるってのを中に伝えといてくれ」
「かしこまりましたわ」
そうしてすぐに扉から中へ引っ込んだリリィ。
改めて見るとその列はとても人の多さを感じさせるものだったことで、俺はトラウマからくる発汗や、震え、じんましんのようなかゆみといった症状が出てきたのだが、我慢することにした。
そして、しばらくは待ちになるなとしながらも行き交う人々などを見るなどして暇を潰すことにする。
そんな俺の下へジャックスが査察部隊を連れて来て言われたことで、自分のおとぼけさにがっかりすることになるのは仕方がないことだった。
「こいつらに話通してもらえば並ぶ必要ねぇんじゃねぇか?」
ジャックスの提案によって恥をかいた形となった俺は、査察部隊による口利きで問題なく町の中へと馬車を進めることができた。
......できたのだが、門を潜った先に伸びる道とそこにあるものたちに俺は絶句した。4車線分ほどの大きな道にはまるで祭りかとでもいいそうなほどに人で溢れていたからだ。
さすがにこの道を進むのはまずいと思った俺は、方向転換を図ることにした。
めまいや吐き気は、危険値マックスだし。
後ろの御者用の扉前に控えさせていたジャックスに声をかける。
「......道を変える。査察部隊の長に道案内させて裏道からでもいけるルートで馬車置き場を聞いておいてくれ」
「......ひゅ~すげぇ人の数だな。これじゃてめぇもつれぇよな。了解だぜ」
そんな感じで門を出てすぐの分かれ道を左側に入って一本ずらして進んだ。
しかし、それでもまだ人が圧倒的に多かった。
「おいおい、どんだけ人で溢れてるんだよ......」
ジャックスも扉から見ているのか、その多さに辟易しているようだった。
仕方ないと俺は改めて道を一本外れて移動を始める。
だがやっぱりまだ――と考えたところで、俺はあることに気付いた。
なので、俺はこの町の異様さを知るために門の道、一本外れた道、そして今の道にいた人族の特徴を脳裏に焼き付けるようにわざと外側に向かって道を一本外れてしばらく移動してまた一本外れるといった感じで馬車を進めようとした。
だが、次の道を外れたところで道は、馬車で進めるような広さも整備もされていないむき出しの土といった感じのところに出たこともあって一旦俺達は引き返してあることを決めた。
それは俺が見て判断したこの町の異様さというか、そういうものによってなのは言うまでもない。
「ジャックス、お前は馬車を馬車置き場に頼む。俺は、オーリエとアラーネを連れてちょっと探りたいことがあるからそれのためにここで別れる」
「......アレを見てか?」
そう遠くはないところ、そこには首輪をした人らしきものが倒れており、その周囲には何か小さいものがたかっている光景が見えた。
そんな中にあっても、"それ"に気にも留めず談笑しながら歩いている住人の行動に不気味さのようなものを感じていた。
「そうだ」
「......ま、こっちはまかせろ。念のためにティニも連れていけ」
そんな打ち合わせをして俺とオーリエとアラーネ、そして奴隷紋付の希少族というこちらでは意味のありそうな役割のティニを連れて馬車を降りた。
元の道へと戻っていく馬車を見送った俺達は移動を始める。
「行くぞ」
「......あそこ?」
アラーネの指摘に頷いて答えて俺は、あの人族が倒れていたところへと向かうことにした。
「......い、一体どれくらい、ここに......」
「............うぷ」
「アラーネ、......これ使っていいヨ?」
「......」
見間違いでもなんでもないそこにあった死体は、一体何日放置されていたのかところどころが腐り始めそれに従ってか虫が沸いて小バエのようなものが周囲に集っていてまともな神経であれば極めて直視しずらい状態で放置されていた。
そんな俺達へ投げかけるときより通り過ぎる時に感じる視線は、何をそんな死体を見続けてるのとでも言わんばかりの考えられないものであった。
「......どうするノ?」
「燃やしてやろう」
その返答通りに、俺は手を合わせて祈った。
俺と同じように祈るオーリエたちを待っってから、折紙を一枚出すとその遺体にかけて指揮棒を使って発動させた。
「折紙――弔火烏」
青く揺らめき死を労わるかのような火炎は。白い煙を伴って包むように遺体を燃やし尽くした。その間も俺達は手を合わせ続けた。
しかし、一連のことを見ていた住民によってある種の騒ぎが起こる。
今のなんだ?魔法?もしかして、あいつ魔法を使ったのか?といったものだ。
遺体を弔った俺は、そんな話に耳を隠す気もなく自らが知るための外側へと向けて歩き出した。




